
2026/1/21 「雑務取り」から始める自治体改革 -現場を疲弊させない業務改善の進め方- ~小田理恵子・一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事(1)~
2026/1/22 「雑務取り」から始める自治体改革 -現場を疲弊させない業務改善の進め方- ~小田理恵子・一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事(2)~
現場主導で進める!負担をかけない改善のステップ

「やらされ感」のない現場主導の改善サイクルを回すことを目的にする場合、大掛かりな分析を避けた、最も簡易で効果的な推進方法は以下のステップで進められます。
ステップ①:改善したい業務の「声」を集める
まず、職員から「改善したい」「楽にしたい」と感じている具体的な業務や作業を、自由な形式で出してもらいます。アンケートやヒアリング、付箋を使ったワークショップなど、職員が気軽に意見を出せる方法を選びましょう。この段階では、分析や実現可能性は問わず、日々の不満や非効率をそのままリストアップすることが大切です。
ステップ②:改革の「階層」に分類する
集まった声や課題を、前章で示した階層(雑務取り、業務改善、業務改革、BPR)に分類します。ほとんどは「雑務取り」と「業務改善」のいずれかに分類されます。この分類によって、「どこまで深く分析するか」「誰が主導するか」という進め方の判断が明確になります。
ステップ③:解決手法を「解説」し気付きを促す
「雑務取り」と「業務改善」の領域に分類された課題に対し、改善方法を個別のコンサルティングではなく、セミナー形式で多くの職員に対して順番に解説します。ほとんどのケースはデジタルツールの活用で解決するため、どういうツールを選定してどこをどう直すのかという解説が主となります。
「この作業はRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)にすると良さそうです。他の自治体での具体的事例はこうです」「この紙の読み取りはAI─OCR(光学式文字読み取り装置)で自動化し、データ化できます」といった具体的なツールの機能や事例を提示します。
デジタルツールの機能は日進月歩しています。職員自身が最新の技術トレンドを追うのは困難ですから、外部の専門家と連携し、最適な解決策をレクチャーしてもらうのが得策です。
この解説を聞くうちに、「自分の業務のここもできる」「じゃあ、この作業をこう変えよう」といった現場からの具体的な気付きが必ず出てきます(この段階で改めて改善したい業務を募集することもあります)。
最近のケースでは、生成AI(人工知能)の進化により、質疑応答の要約や文書作成補助など、AIの使い方をレクチャーするだけですぐに解決する課題も増えてきました(ただし、自治体のAIセキュリティポリシーやガイドラインの利用前の確認は必須です)。
ステップ④:伴走支援での実装
難易度の低い「雑務取り」から優先して、必要に応じて専門家の伴走支援の下、ツール実装を進めます。短期間で成果を出し、職員に達成感を味わってもらうことが最優先です。
こうした取り組みを進める中では、業務の改善だけでは解決できない「制度の壁」に直面します。
例えば、公用車管理業務で運転日報をデジタル化し、押印も無くしたいにもかかわらず、その提出方法や様式が自治体の規則や要綱で定められている場合があります。この場合は、このムダを解消するために、規則の見直しといった上流の制度改革へと議論を繋げていく必要があります。
「雑務取り」から着手し、その小さな成功を足掛かりに、最終的には組織全体の業務改革や制度の見直しへと波及させていく。これこそが、職員に負担をかけず、持続可能な行政経営を実現する鍵となります。
成功体験を礎に、本格的な改革へ繋げる
本稿では、自治体改革における「目的と手法のミスマッチ」が組織の推進力を失わせているという現状を起点に、職員に負担をかけずに進めるための「雑務取り」と「業務改善」の簡易なステップをご紹介してきました。
このアプローチは、組織全体の抜本的な変革を目指すBPRやDXにおける「理想的な手法」ではありません。しかし、従来の重厚長大な手続きによって改革が停滞している、あるいは職員が既に疲弊してしまっている自治体にとっては、「確実に前に進むための現実的な手法」であると言えます。
実際、筆者の支援実績においても、この「雑務取り」からの着実なアプローチで成果を挙げて改革の足掛かりを得ている自治体は多く存在します。
小さな成功が改革の「味方」をつくる
従来の改革では、詳細な業務分析や膨大な資料作成が先行し、その結果が出るまでに時間がかかり過ぎるため、職員は「手間ばかり増える」「何をしているか分からない」と感じ、改革に非協力的な姿勢を取りがちでした。
しかし、デジタルツールを活用した簡単な効率化によって、職員が「あの面倒な作業が無くなった」「自分の時間ができた」と実感できれば、その職員は一転して改革の協力者、すなわち強力な「味方」となります。
この小さな成功の輪が部署内、そして課を超えて広がることで、「次はあの業務も変えられるのではないか」という自発的な推進力が生まれるのです。
小規模自治体における「制約下のベスト」
特に、人的リソースが限られている小規模自治体にとっては、この「雑務取りからのアプローチ」は単なるベターではなく、制約条件下での事実上の最適解とも言えます。大掛かりなBPRは、専門知識を持つ職員が少なく、既存業務で手いっぱいな自治体では、現実的に実行が困難だからです。まずは少ないリソースで成果を出すことに集中し、時間を生み出すことが最優先となります。
もちろん、実際の支援においては、職員でワーキンググループをつくって半年から1年程度の伴走支援を行ったり、幹部や首長の理解を得るためのマインド醸成プログラムを並行して実施したりもします。しかし、まずはこの「雑務取り」と「業務改善」の取り組みを先行させることで、抵抗を最小限に抑え、改革の実現可能性を高めているケースも少なくありません。
着実な一歩から本格的な改革へ
「雑務取り」から着実に成果を積み重ねるこのプロセスは、いわば「職員の士気を高めるための助走」です。
そして、職員の間に「改革は成果を出すものだ」という共通認識と期待感が醸成され、抵抗感が薄れた段階で、いよいよ全庁的な業務改革やBPR、そしてDXといった本格的な施策を推進するのが得策です。現場の成功体験という強固な礎があるからこそ、首長や管理職が主導する抜本的な改革も、スムーズに受け入れられ、定着する可能性が高まります。
行政サービスの質の向上と持続可能な行政運営は、現場の職員の協力なくしては実現しません。まずは、職員の負担を軽減し、彼らの能力が最大限発揮される環境を、この「確実な一歩」から築いていきましょう。
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2025年12月1日号

