アフターコロナと自治体のデジタル変革3〜戦術よりも戦略、現状把握をしよう

自治体DXのコンサルティングを手がけるPublic dots & Companyは新型コロナウイルスの感染拡大が引き金となって自治体のデジタル変革がどのように進むのか、アフターコロナを展望します。
本記事は一般社団法人Publitech代表理事、菅原直敏氏の記事です。

この機会に、2017年夏より構想し、「テクノロジーで人々をエンパワメントする」というミッションの下、2018年11月より一般社団法人Publitechを設立して進めてきたパブリテックプロジェクトへの思いや進捗や思いについて、現在フィールドとする福島県磐梯町等の事例も踏まえながら、「アフターコロナと自治体のデジタル変革」というテーマで7回に分けて綴っていきます。

今回は第3回です。

参考:「なぜ、パブリテックは生まれたか〜代表理事菅原直敏ピッチ@一般社団法人Publitech設立キックオフイベント

※自治体のデジタル変革:自治体がデジタル化を通じて、住民本位の行政、地域、社会を実現するプロセス。デジタルトランスフォーメーション、DX。

●RPAに失望する自治体

ちょうど一昨年、地方自治体において初めてRPA(Robotic Process Automation)の実証実験が行われたのを皮切りに、総務省もRPAの補助金をつけるなどして、官民一体でRPAの推進体制をつくってきました。昨年は、RPAという言葉が自治体の中でプチ流行しました。

RPAとは、ホワイトカラーの定型作業を、パソコンの中にあるソフトウェア型のロボットが代行・自動化する概念です。

一方で、RPAが幻滅期に入ったという記事をインターネット上のメディアでよく見るようになりました。あわせて、先日RPAをメインに扱っている企業の方から、自治体におけるRPAの導入が思うように成果が上がっていないというお話をお伺いしました。

その原因は、導入する自治体と導入させる企業の考え方のミスマッチにあると考えます。

日々膨大な業務に忙殺される自治体は、RPAがたいていの業務は自動化できる魔法のツールだと思って導入します。ツールを売りたい企業はRPAをあたかも業務効率化の切り札的な触れ込みで補助金とのパッケージで営業をかけます。

しかし、実際は必ずしも高い業務効率化の成果が出るわけではなく、時には業務負担が増えることもあります。この期待と結果のギャップに大きな失望が生まれることになります。

RPAの導入にあたって明らかになっていることが一つあります。それは自治体、民間企業問わず、成果が出る組織とそうでない組織が分かれるということです。これは、現場で導入に関わっている企業の方も異口同音に言っていました。

では、この導入が上手くいく組織とそうでない組織の違いは何でしょうか?

それは、ヴィジョンと戦略の存否だと考えます。

●ヴィジョンに至るまでの戦略を描こう

RPAが機能するには前提条件があります。それは、自治体にどのような業務があって何を効率化すべきなのかとういう現状把握がなされていることです。しかし、たいていの自治体はその現状把握がほとんどできていません。業務分解ができていないので、定量的な業務引き継ぎを行えていない自治体すらあります。

また、業務効率化は住民本位の自治体を実現するための手段ですから、RPAをどのような未来像をつくるために導入するのかというヴィジョンも重要です。その上で、現状からそのヴィジョンに至るまでの戦略が求められます。RPAの導入で幻滅する自治体は、このヴィジョンと戦略が明らかに欠如しています。

さらに、現状把握とヴィジョンがはっきりすると、そこに至るまでの手段としてRPAというツールが適切なのかという戦術の議論ができるようになります。ひょっとしたら、その業務自体を別のサービスに代替したり、不要な業務として廃止したりした方が良いこともあります。そう、RPAはあくまでも戦略を実行化するための戦術にしか過ぎないのです。

RPAの導入で幻滅する自治体はRPAそのものを導入することが目的となっています。つまり、手段=戦術の目的化です。第1回でも伝えましたが、「テクノロジーは手段であって目的ではない」のです。

どんな有力なツールも、ヴィジョンの実現につながらなければ、意味がありません。

●ミッション・ヴィジョンがぶれなければ、戦略・戦術はピボットしても良い

RPAのプチ流行と幻滅を目の当たりにする度に、ミッション・ヴィジョンの重要性に気づかされます。逆にミッション・ヴィジョンが明確であれば、戦術は柔軟に変えていくべきです。時には戦略すらも大胆に変えていくことも躊躇ってはいけません。バスケットボールのピボットターンのように軸足(ミッション・ヴィジョン)は固定し、振り足(戦略・戦術)は柔軟に回していけば良いのです。

なお、磐梯町では昨年の11月1日に最高デジタル責任者(CDO)を設置しデジタル変革の取り組みを半年近く(水面化の準備を加えると1年以上)進めていますが、RPAの導入はまだ検討事項にも上がりません。

それは、業務棚卸し(BPR)、情報のデータ化という業務のICT化の前提条件が整っていないためです。RPAは業務のICT化の段階で検討される一つの有力なツールです。

昨年、「全国初の自治体CDO」という触れ込みで設置された割には、目新しいことが出てこないなと思われるかもしれませんが、CDOの役割は目新しいことをすることではありません。あくまでもその組織のミッション・ヴィジョンを実現するために、住民本位のデジタル変革を通じて課題を解決し、価値を創造し、そして新しい世界観をつくっていくことです。

その自治体に合った取り組みがあります。これは私の推察ですが、このようなデジタル変革の前提条件が整っていない自治体は少なくないのではないでしょうか。言葉や概念に踊らされて、テクノロジーにかかる目新しいことに挑戦する前にやるべきことはその前提条件を整備することの方が重要だと思います。全額補助金が出たとしても、現状に合わないツールの導入は避けた方が良いです。これが戦略です。

CDOとして、磐梯町はデジタル・テクノロジーの利活用において基本的なことができていないという現状把握をしています。あと半年から1年くらいはデジタル変革の前提条件である、BPR、情報のデータ化、業務のICT化の取り組みに重点が置かれるでしょう。

「急がば回れ」これが磐梯町のミッション「誰もが自分らしく生きられる共生社会を実現する」、ヴィジョン「自分たちの子や孫たちかが暮らし続けたい魅力あるまちづくり〜共創・協働のまちづくり〜」を実現するための戦略の一つです。

アフターコロナの時代においては、テクノロジー起点で戦術に固執する思考ではなく、住民起点で戦術や戦略を柔軟に変化させていく実践が自治体経営の根幹となってくると考えます。


シリーズ連載

アフターコロナと自治体のデジタル変革1〜テクノロジーで人々をエンパワメントする

  • アフターコロナ
  • 平成、変われなかった時代
  • 新しい価値を共創できる時代

アフターコロナと自治体のデジタル変革2〜自治体の存在意義を再考しよう

  • 自治体のミッションとヴィジョンは何ですか?
  • 言葉は踊らされずに、利用しよう
  • テクノロジーは手段であって目的ではない

アフターコロナと自治体のデジタル変革3〜戦術よりも戦略、現状把握をしよう

  • RPAに失望する自治体
  • ビジョンに至るまでの戦略を描こう
  • ミッション・ビジョンがぶれなければ、戦略・戦術はピボットしても良い

アフターコロナと自治体のデジタル変革4〜全ては人と仕組みから始まる

  • 司令塔の不在
  • 組織の不在
  • 手続きの重要性

アフターコロナと自治体のデジタル変革5〜適切な理解と人材活用

  • ICT化とデジタル変革の違い
  • 誰一人取り残さない
  • 埋れている人材を活かそう

アフターコロナと自治体のデジタル変革6〜本気で取り組もう

  • 成果につながらない実証実験と包括連携協定
  • 自分たちで考えよう
  • 重要なのはパブリックマインド

アフターコロナと自治体のデジタル変革7〜アフターコロナの自治体像

  • 新型コロナウィルスの危機は日本社会社会のリトマス紙
  • 私たちは何を望みたいのか
  • 行動するかしないか

筆者プロフィール
菅原直敏
一般社団法人Publitech 代表理事
株式会社Public dots & Company取締役
磐梯町CDO(最高デジタル責任者)。ソーシャルワーカー(社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、保育士、福祉にかかる4大国家資格を有する)。介護事業所を複数経営する企業の法人本部長として、経営および現場業務にかかわる。また、「共創法人CoCo Socialwork」 CEO、出勤しない会社、持たない会社、給与以外の価値を与える会社をコアバリューとして、自分らしい働き方の実践を行う。テクノロジーを活用して人々をエンパワメントするパブリテックという概念を提唱し、行政のデジタル化、社会のスマートか、テクノロジーによる共生社会の共創を目指すソーシャルアクションを行なっている。さらに、株式会社Public dots & Company取締役として、官民共創の取り組みを推進する。

スポンサーエリア
おすすめの記事