共創をデザインする逆公募型プロポーザル、誕生(3)

共創をデザインする逆公募型プロポーザル、誕生
スカラと共同開発、三方よしの共創プラットフォーム

株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴

2020/11/09  共創をデザインする逆公募型プロポーザル、誕生(1)
2020/11/24  共創をデザインする逆公募型プロポーザル、誕生(2)
2020/11/26  共創をデザインする逆公募型プロポーザル、誕生(3)
2020/12/01  共創をデザインする逆公募型プロポーザル、誕生(4)
2020/12/03  共創をデザインする逆公募型プロポーザル、誕生(5)


民間企業で「顧客体験」を追い求めた2人の人物

2020年7月初旬、「インターネットで『官民共創』『自治体 CX』といったキーワードで検索していたら、伊藤社長の記事が引っ掛かった」と言って、2人の人物が当社を訪ねて来ました。国内最大の損害保険グループ、東京海上ホールディングスをスピンアウトし、社会課題を解決したいと新規事業に挑戦している、伊佐治幸泰氏と石原良氏でした。自治体CXについては、本サイトでも過去に掲載しているので、覚えている読者の方もいらっしゃることでしょう。[3月24日掲載:いまなぜ、自治体にカスタマーエクスペリエンス(CX)が大事なのか]

今回、逆公募型プロポーザルを共同開発したスカラという会社は東証1部に上場しているIT企業でエンジニア集団の顔を持つ一方、社会課題解決型の新規事業を国内外で数多く手掛けており、両氏もそのCSV経営理念に共鳴し新規事業に参画していました。

両氏は東京海上グループの自動車保険会社イーデザイン損害保険株式会社在籍の2019年、ワンクリックで自動車保険の概算保険料(掛け金)の見積もりが出せるウェブサイトをデザインしたことから、公益財団法人日本デザイン振興会が運営する「グッドデザイン賞2019」を受賞したのでした。これまで、自動車保険のインターネット見積もりは従来のアナログ時代のフローを踏襲していたことから、正確な見積もりを出すのに約30クリックを要し、クリック数の多さから嫌気が差したユーザーが、途中でウェブサイトを離脱してしまうということが日常的に発生していたそうです。

保険会社の理屈で完全なものを表示すべきだ、というこれまでの既成概念を見直し、ユーザーが本当に求めているものは何だろうか、と改めて調査したところ、多くのユーザーから上がったのは「概算でよいから早く保険料が知りたい」「深い検討に入る前に時間をかけたくない」といった声でした。当初は、これまでに誰もやったことがない概算の提示に対して「誤認を招く」「苦情になる」ことを恐れる声もあったそうですが、結果として、苦情は皆無で、ユーザーからの評価は高く、同賞の受賞だけでなく、同社の顧客が増えることにもつながったといいます。概算見積もりという知りたい情報をいち早く表示することでユーザーのストレスを減らそうという、このチャレンジで両氏が何より大事にしたのは、「顧客体験(CX)の向上」でした。

CXの重要性を誰よりも理解していた2人が公共サービスこそ、ITを活用することでCXを向上でき、ビジネスと社会課題の解決を両立できるはずだと考え、弊社を訪ねて来てくれたのでした。

「顧客」を中心に置いた視点

弊社を訪れて来た両氏の話を色々と聞いているうちに、顧客体験の「顧客」とは誰なのかという話になりました。企業が考えている「ユーザー」と、我々が普段議論し上記CXでも取り上げている対象は「住民」ですが、その両者は決して別の人物をイメージしているのではなく、同じ「顧客」であるはずだということです。

社会問題を解決していく上で、解決策を示すのではなく、その先にある「顧客」の具体的な体験を変えることが何より大切であるとの意見で一致しました。そして、そのディスカッションの中から逆公募型プロポーザルのアイデアが生まれたのです。

両氏は顧客体験を何より大切にして新規事業を進めており、ユーザーが真に必要としていることをあらゆる方法で知ろうとしていました。インターネット上で調査などを行う一方で、何度も街に出てユーザーインタビューを繰り返したり、定量面、定性面で事業の仮説とユーザー調査を何往復もしたりしていました。しかし、何度もそれらを繰り返しているのにもかかわらず、社会に横たわる真の課題に確信が持てないという悩みを抱えていました。今の時代、課題の多くはデジタルテクノロジーで解決できると考えていた2人は、世の中の人が本当に困っていることとその真因を探し求めていたのです。

そこで、社会課題であるならば、自治体や公共の考え方や課題意識にもヒントがあるのではないかと、先ほどのアプローチで検索をしていたというわけです。

そのような背景から、知り合いの自治体職員を辿り、細く長い糸を手繰り寄せるように、調査機会を求めていましたが、一つ一つの自治体との交渉は骨も折れるし、適切な担当部署を見つけるのも一苦労。やっとのことで機会を得ても一般論に終始し、それを社会実験やPoC(実証実験)に持っていくまでにどれだけ時間がかかるかも見通しにくい。仮説と検証の繰り返しこそ新規事業成功のカギであり、スピードが求められる時代において、「どうやったら、もっと自治体と胸襟を開いて、スピード感をもってコミュニケーションが取れるのだろうか」というのが彼らの悩みでした。さらに詳細を聞いていると、両氏はこれからの新規事業の在り方はアウトカムを具体的かつ明確にすべきだと考えており、こういう問題意識を持った方々との事業であれば、自治体にとっても悪い話ではありません。

加えて、自治体と共にPoCをスピーディーに実施したいというニーズは大企業が日頃から行っている新規事業の過程でも多く顕在化していることを知りました。詳細は次週の原稿に譲りますが、今回の逆公募型プロポーザルにもつながる、具体的に大企業が困っているPoCの事例を話してくれました。

そして、「一般的な新規事業には少ないけど、予算もある」。この言葉を聞いて、私はピンときました。それが逆公募型プロポーザルです。お金と意思決定のベクトルを逆にすることで、企業が設定する社会課題に共通認識を持つ複数の自治体とつながることができる、と。これは自治体にとっても悪い話ではありません。一気に企画・開発の話が進みました。今回、Public dots & Companyとスカラで共同開発した逆公募型プロポーザルのプラットフォーム。今後は、プラットフォーム上で実際にプロジェクトを動かしたい企業を募っていきます。自治体関係者のみなさまには、このプラットフォームに注目してもらえれば、どんな企業が、どのような社会課題に対して政策アプローチ、アイデアを求めているのか、どれくらいの資金を用意しているのかが分かります。そして、その第1弾はもう生まれようとしています。

次回以降では、逆公募型プロポーザルの自治体のメリット、企業のメリットを解説しながら、逆公募型プロポーザルを使った、日本最初のプロジェクトの概要を公開したいと思います。

第4回につづく

※本件に関する詳細は、こちらのプレスリリースをご覧ください。


プロフィール
伊藤大貴(いとう・ひろたか)伊藤大貴プロフィール写真
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。

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