埼玉県横瀬町 富田能成町長インタビュー(中)“カラフルタウン”を目指す小さな町がつくる 「新しい価値」

埼玉県横瀬町長 富田能成
(聞き手)株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴

2021/1/18  埼玉県横瀬町 富田能成町長インタビュー(上)
2021/1/20  埼玉県横瀬町 富田能成町長インタビュー(中)
2021/1/22  埼玉県横瀬町 富田能成町長インタビュー(下)


伊藤 富田さんご自身はもともと銀行出身で、民間を経験されているので当たり前かもしれないのですが、公務員の方からすると、間口が広くて何が来るか分からないというのは、怖かったのではないでしょうか。

富田町長 怖かったと思いますよ。今から思うと、最初はトップダウンじゃないと難しかったと思います。でも今は、できるだけボトムアップにしていきたいです。プロジェクトを採択する際の最後のフィルターは、実際担当する役場の職員。現場の職員がやりたい案件かどうかを大事にしていて、現場の目が輝かない案件は採択しません。

伊藤 目が輝くかというのは、どこまで住民のためになるか、ということでしょうか。

富田町長 そうですね。最後は今の町、将来の町のためになるかどうか。そこで見ますね。「よこらぼ」は基本的には民間(提案者)が自走する仕組みのため、ほとんど予算を必要としない事業なんですが、留意しないといけないのはマンパワーの問題。役場の職員は90人しかおらず、「よこらぼ」専門チームがあるわけではないので、職員にとっては、採択すれば仕事が増えるわけです。だからこそ、「これをやると、こんなに良いことがあるよ」と職員と価値を共有するようにしています。「よこらぼ」がメディアに取り上げられるとみんな元気になるし、有意義な取り組みだと分かってもらえるようになってきたところです。

伊藤 選び難いとは思いますが、「よこらぼ」で特に印象的な案件は、どんなものでしたか?

富田町長 ほんの一例ですが、「エリア898」という町営のコミュニティー・イベントスペースは、つくってとても良かったです。使っていなかったJA旧直売所を活用し、町民と横瀬町に関わる人たちが交わる〝交差点〟としてつくられました。プレオープンの1年間で延べ3000人近くに使ってもらって、良いたまり場になっていました。コロナ禍で集まりにくくなったので、現在はスタジオ的に使用し、オンラインイベントの発信拠点になっています。これも「よこらぼ」育ちの、キャリアや働き方について学ぶ「はたらクラス」を毎月開催。地元の若手ボランティアが主催し、地元メンバー×町外の講師によるトークセッションが行われています。

エリア898
エリア898 ※898は「やくば(役場)」という意味

 

伊藤 エリア898は、自分たちでリノベーションされたんですよね。材料費などの経費はどうされたのですか?

富田町長 ボランティア協力、廃品利用などでほとんどお金は掛かっていません。Wi-Fi導入の経費プラスアルファくらい。地元の大工さんや家具職人の方にも手伝ってもらいました。地域おこし協力隊の事務所も兼ねていて、彼らにスペースを運営してもらっています。横瀬町は、町の中心がないので、拠点となる場所がつくりたかったんです。

「カラフルタウン」と「よこらぼ」の関係性とは

伊藤 「カラフルタウン」を目指すには「よこらぼ」が重要になってくるわけですね?

富田町長 「よこらぼ」は町をオープン化するための「窓」なんです。社会に常に窓を開いていて、そこからいろんなものを入れる。私は「化学反応」と呼んでいますが、場合によってはハレーションを起こす場合もあります。でも、そういう経験値を上げていく、場数がすごく大事です。秩父郡市の広域で考えると、1市と4町で人口10万人くらいになるんですね。その中で、横瀬町は東京に一番近い、東の玄関口。役割としては、横瀬町がオープンになって、外からいろんな人やモノや文化を入れ、カラフルな町になって、広域全体に良い影響を及ぼしていくということを、頭の中でイメージしています。

伊藤 なるほど。確かに玄関ですよね!

富田町長 川の流れで言うと、汽水域のイメージなんですよね。海の魚も川の魚も住んでいて、時間帯によって住んでいる魚は違う。でもみんなが共存している。

伊藤 都市性の強い人と、盆地性の強い人がいて、交ざり合うようなイメージでしょうか。「よこらぼ」が多様性をつくっていく一つの「エンジン」のようなものでもあるんですね。

「下」につづく


【プロフィール】

富田能成(とみた・よしなり)
埼玉県横瀬町長
1965年横瀬町(当時は横瀬村)生まれ。国際基督教大(ICU)卒後、1990年日本長期信用銀行(現新生銀行)入行。法人営業・海外留学・海外勤務等経て、不良債権投資や企業再生の分野でキャリアを積む。
2011年4月から横瀬町議会議員を経て、2015年1月より現職。2019年1月再選(無投票)し、現在二期目。

 

伊藤大貴(いとう・ひろたか)伊藤大貴プロフィール写真
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。

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