草地博昭・静岡県磐田市長
(聞き手)株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴
2021/08/17 「まちづくり」は「人づくり」、シビックプライドの醸成を 〜草地博昭・静岡県磐田市長インタビュー〜(1)
2021/08/20 「まちづくり」は「人づくり」、シビックプライドの醸成を 〜草地博昭・静岡県磐田市長インタビュー〜(2)
2021/08/23 若者にとって誇れる地方都市にするには 〜草地博昭・静岡県磐田市長インタビュー〜(3)
2021/08/26 若者にとって誇れる地方都市にするには 〜草地博昭・静岡県磐田市長インタビュー〜(4)
前回(1)(2)に引き続き、静岡県磐田市長、草地博昭氏のインタビューをお届けします。2021年4月に就任したばかりの草地市長ですが、地元磐田市のまちづくりには20代前半の頃から関わり続けており、市議会議員を2期8年務めたのち、市長就任に至ります。
前回までのインタビューでは「〝地元を良くしたい〟の一心でずっと活動をしてきました」から始まり、磐田市が持つ強みや未来のまちの理想像、現状抱えている課題を事細かに話す姿が印象的でした。
今回からは、シビックプライド(市民の市に対する誇り)を醸成して、若者が集まる持続可能なまちにするための構想や、そもそも草地市長が政治の世界に足を踏み入れるきっかけとなった出来事などを伺います。
今後、地方都市が定住人口や交流人口を増やして運営を維持していくための大切な要素が何であるのか?本稿には、そのヒントが隠されています。(聞き手=Public dots & Company代表取締役・伊藤大貴)
スポーツが根差したまちの強み
伊藤 「まちが持つ素材」をどう活かしてシビックプライドを醸成するか?というディスカッションを前回のインタビューから終始行っていますが、磐田市の場合ですと、Jリーグのジュビロ磐田をはじめとしたスポーツが、シビックプライドに大きな影響を与えるということですね?
草地市長 スポーツの影響は大きいと思います。市民の方の健康増進と地域間交流を目的に2016年度から「磐田市スポーツ推進計画」の取り組みを行っていますし、もっとさかのぼると10年前から「小学生一斉観戦事業」を実施しています。
これは、市内の全小学校の5〜6年生をジュビロ磐田のホームゲームに招待するというもので、白熱したプロの試合を間近で感じていただく取り組みです。全員が同時に試合を観戦しているのは、全国で磐田市だけだと聞いていますので、この事業で小学生の頃からまちに対する誇りを持っていただければと思いますね。
伊藤 磐田市では若い方から高齢の方まで、ジュビロ磐田の存在に特別感を感じているのですか?
草地市長 あらゆる世代の方にそう感じていただけているか?と問われると、まだまだ熱量づくりには余地があります。「小学生一斉観戦事業」が10年前から始まり、10年前に小学校6年生だった方が今は22歳になりました。ですから、これからですね。ジュビロ磐田の存在が市民にどのような影響をもたらしているのかを検証するのは。時間はかかりますが、種をまいておくという感覚です。
伊藤 交流人口を増やすという意味で言いますと、ジュビロ磐田と磐田市、それから他の自治体とも連携して、サッカーチームを中心に自治体間の新たな取り組みをつくっていくと面白いものが生まれるかもしれませんね。
草地市長 そこに民間企業も入ってきてくれると良いですね。例えば、サッカー好きな社長さんがいる企業や、社員の健康増進のためにスポーツ系の福利厚生を充実させたい企業などですね。そのような風土の企業とも連携しつつ、それぞれに対するベネフィットをきちんと設計できれば、お金や人の流れはつくれるような気がします。
これはラグビーに対しても同じで、ラグビーチームを持っている大企業や大学と連携ができると、交流人口の増加が見込めると思いますね。磐田市には「ヤマハ発動機ジュビロ」というラグビーのトップリーグのチームがあり(来シーズンからは「静岡ブルーレヴズ」)、そこには清宮克幸さんや五郎丸歩さんなど、有名な方が在籍していたこともあります。そういった方とのご縁があることも強みになりますね。
伊藤 スポーツを起点にすると、できることはいろいろありそうですね。これから磐田市でどんな取り組みが始まるのか楽しみです。
草地市長 はい、私も楽しみです。ただ、今はコロナ禍であまり実行に移せていないのがもったいないところです。
伊藤 確かにコロナ禍で動きが制限されることもありますが、翻って、シビックプライドを醸成する仕組みをゆっくり考えられるタイミングでもあるかもしれないですね。
草地市長 確かにそうですね。外に出られない分、内政を落ち着いてできる良さはあります。通常は6月議会が終わると視察ラッシュになりますが、コロナ禍である今はその予定がありません。ですから、6月議会が終わった後に、どれだけ仕組みづくりができるかが勝負だと思っています。
まちの魅力を「スポット」から「人」に
伊藤 草地市長は「持続可能なまちをつくるために若い世代の人口を増やす」ということを常々訴えておられます。市長の中では、若い人たちがどんなことを望んでいて、どんなことを提供すればまちに対する満足度が高まると思いますか?
草地市長 「面白い大人たちに会う」ことではないかと思います。そういう機会をとにかくコツコツ増やしていく他ないでしょう。
若い人たちがまちに対して持っている負のイメージは、「刺激が少ない」ということなんです。そもそも静岡県には大学が少ないこともあり、若い人たちの多くは進学に伴い他県や関東圏に出て行きます。特に刺激を求めて他地域へ出て行った方は、磐田市に帰って来ることがほぼありません。そんな若者の人口減少に対して手を打たないままだと、どんどん右肩下がりになっていきます。
これは私の中で特に問題意識が大きく、刺激を求めている若い人たちが「磐田市で働きたい」や「磐田市に戻りたい」と思えるような仕掛けをする必要があると思っています。
伊藤 確かに今は、地域の魅力は人の魅力に影響される気がします。一昔前のように、「あのショッピングセンターがあるから行きたい」という動機ではなく、「あの人がいるから行ってみたい」「あの人とつながりがある地域だから行ってみたい」という感覚にだんだんシフトしてきていますね。
草地市長 「あの商業施設に行こう」と思ってもらえるのも地域の魅力の一つではあると思いますが、つながりは薄い気がしますね。近隣に話題のスポットができたら、たちまちそこに流れてしまいますから。
私も日々いろいろな情報を見ていますが、「この地域は面白そうだ」と思えるところは、やはり「面白い仕掛けをしている人がいる」ところです。磐田市もそのようなまちにしていきたいですね。
(第4回に続く)
【プロフィール】
草地 博昭(くさち・ひろあき)
静岡県磐田市長
1981年生まれ。静岡県磐田市出身。国立豊田工業高等専門学校を卒業。NPO法人磐田市体育協会にて事務局長を務め、2013年に磐田市議会議員に初当選。以来、市議会議員を2期務め、その間、議会運営委員長、予算決算委員長、民生教育委員長を歴任。2021年4月に磐田市長に就任。