小さくても「楽しい」まちへ~都竹淳也・岐阜県飛騨市長インタビュー(4)~

岐阜県飛騨市長 都竹淳也
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2023/10/18 「前向きな空気」でまちを満たす~都竹淳也・岐阜県飛騨市長インタビュー(1)~
2023/10/20 「前向きな空気」でまちを満たす~都竹淳也・岐阜県飛騨市長インタビュー(2)~
2023/10/23 小さくても「楽しい」まちへ~都竹淳也・岐阜県飛騨市長インタビュー(3)~
2023/10/26 小さくても「楽しい」まちへ~都竹淳也・岐阜県飛騨市長インタビュー(4)~

 

データを駆使した政策判断

小田 前回(第2回参照)、外国人留学生を介護人材として育成する仕組みづくりに着手したと伺いました。この件で連携するサンビレッジ国際医療福祉専門学校は岐阜県池田町にあります。療育の分野では、同県大垣市のNPO法人と連携しています。こうした取り組みから、都竹市長は地域を「面」で捉えているように感じます。

都竹市長 地域の境界は意識しない方が正しいと考えています。「サンビレッジは飛騨市の学校です」と言い切っているくらいです。観光分野でも「岐阜県高山市の隣接地域は飛騨市のものだと思おう」と言っています。このようにすべて飛び地だと捉え、外のものでも自分のものだと思えばいいというのが私の基本的な発想です。逆もしかりで、自分のものは外にも開放してあげればいいと考えています。

 

小田 飛騨市と高山市に加え、岐阜県白川村の2市1村で使える電子地域通貨「さるぼぼコイン」の活用も、同じ発想からでしょうか?

都竹市長 「さるぼぼコイン」は飛騨信用組合のサービスですが、民間企業のものを自分のものだと思って使い込むという発想ですね(写真)。

市が自前で電子地域通貨をつくるより、既にある民間のサービスを使った方が早いです。

ちなみに「さるぼぼコイン」が2市1村で使えると聞くと、飛騨市の給付金などのお金が他の市村に流れるのではないか、とおっしゃる方もいらっしゃいます。

しかし実は、この2市1村は経済圏が同じなのです。これは国勢調査のデータを分析すれば分かることです。特に高山市は、飛騨市と経済的にも社会的にも一体の地域で、相互の転入・転出が盛んで、飛騨市民の雇用の受け皿にもなっています。飛騨市の就業者の3割ほどは高山市に通勤していますから、高山市が潤うことは飛騨市にも恩恵があると説明できます。ですから「さるぼぼコイン」での給付金が高山市で使われても構わないと言い切っています。

 

(写真)市役所内には「さるぼぼコイン」のチャージ機が設置され、市税の支払いなどに利用できる(出典:飛騨市)

 

小田 EBPM(証拠に基づく政策立案=Evidence-based Policy Making)の必要性が叫ばれる中、都竹市長は早くからデータを基にして政策判断をされてきたのですね。

都竹市長 データは常に見ています。特に人口に関するものは日々、確認しています。すると、見えてくるものはたくさんあります。

例えば飛騨市は観光のまちのイメージが強いかもしれませんが、実は製造業のまちです。これは国勢調査や経済センサスなど、産業系の統計を見れば分かります。これを基に、産業政策を行う上で観光政策にどれだけのリソース(資源)を割けばよいのかといったことを判断します。

税のデータも参考になります。土地や家屋からの税収は減っていますが、ダムや水力発電など償却資産からの税収は増加傾向です。ならば償却資産に投資すれば、さらに税収は上がるのではないかという仮説を立て、例えば小水力発電の誘致を行っています。このように、データを基にしながら現状についても把握し、今必要な施策を打つようにしています。

 

小田 コロナ禍の2020年、市はプレミアム商品券を「さるぼぼコイン」で発行しました。

都竹市長 市の産業構造を見ると、コロナ禍の影響が大きかった卸・小売り・生活関連サービス業、飲食宿泊業の就業者数をすべて足し合わせても全体の約3割です。従って、経済的な打撃をあまり受けていない人の方が多いということが分かっていました。つまり、その分の余力で市内の経済を回せば飲食店などを助けられることになります。

そんな中、1人当たり10万円の特別定額給付金が国から支給されました。市全体だと23億円です。これをそのまま放っておけば貯蓄や市外消費に回ってしまうので、このお金を市内に流し、強力な需要喚起を行うことが必要だと判断して、プレミアム商品券の発行を決めました。しかし、紙の商品券の準備には時間や手間がかかります。タイミングを逃さないためにも電子的に発行できる「さるぼぼコイン」を併用しました。

 

小田 今後はどんなまちにしていきたいと考えていますか?

都竹市長 人口減少に伴い、地域のコミュニティーも小さくなるでしょう。そんな中でもみんなが楽しく過ごせるように、という思いが一番強いです。

市の総合政策指針にも、目指す5年後のまちの将来像として「みんなが楽しく心豊かに暮らせるまち」を掲げています。「楽しい」という言葉が自治体の計画に使われるのは珍しいと言われますが、私は一番大事だと思っています。

市には宮川町(旧宮川村)という地域があります。人口500人くらいの小さな地域ですが、みんながとても楽しそうに暮らしています。若い人たちも結構帰って来ていて、伝統の獅子舞の文化を継いだり、農業を始めたり、消防や保育の仕事に関わってくれたりしています。どんな小さな地域でも一定の行政サービスが提供され、またインフラ関連企業の存在で一定の雇用は守られていきますから、後はみんなの「こんなことをやってみたい」という挑戦を応援することです。

生まれたアイデアに対して「いいですね、それは楽しいですね、面白いですね!」と盛り上げ、前向きな空気で満たしていけば「楽しいまち」になるでしょう。飛騨市の未来は、そんな楽しさであふれるものになればいいなと思います。

 

【編集後記】

常にEBPMを実践する都竹市長ですが、一方で職員一人ひとりに真摯に向き合う胆力や温かみも感じ、剛柔をバランスよく使うリーダー像を見ることができました。これからの時代、数や規模でないところに「幸せ」の指標があるのではないでしょうか。

 

(おわり)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年9月25日号

 


【プロフィール】

岐阜県飛騨市長・都竹 淳也(つづく じゅんや)

1967年生まれ。筑波大社会学類卒。89年岐阜県に入り、知事秘書、総合政策課長補佐、商工政策課長補佐、障がい児者医療推進室長などを歴任。2016年同県飛騨市長に初当選し、現在2期目。

スポンサーエリア
おすすめの記事