すべては市民の幸福感向上のために~岡田康裕・兵庫県加古川市長インタビュー(3)~

兵庫県加古川市長 岡田康裕
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2024/01/15 「課題解決」「価値向上」のスマートシティ構想~岡田康裕・兵庫県加古川市長インタビュー(1)~
2024/01/18 「課題解決」「価値向上」のスマートシティ構想~岡田康裕・兵庫県加古川市長インタビュー(2)~
2024/01/22 すべては市民の幸福感向上のために~岡田康裕・兵庫県加古川市長インタビュー(3)~
2024/01/25 すべては市民の幸福感向上のために~岡田康裕・兵庫県加古川市長インタビュー(4)~

 


 

第1回第2回に引き続き、兵庫県加古川市の岡田康裕市長のインタビューをお届けします(写真)。今回は「生きがい」「働きがい」など、政治が実現を目指すべき本質的な人の幸せについて伺います。併せて、市が推進するウェルビーイング(心身とも幸せな状態)の取り組みも紹介します。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

「市民」に含まれる職員

小田 第2回の最後に「理想の職員像」が話題となり、岡田市長は「働くことを通じて自ら幸せになってほしい」「『自分のやりたいこと』を見つけることが大切だ」「常に何か目標を持ち、新しいことへの挑戦や自己研鑽をする」とおっしゃいました。この点について、もう少し深掘りしてお聞きしたいのですが。

岡田市長 私は職員に「われわれが目指すのは、市民の幸福感の向上である」と伝えています。これは組織としての共通理念です。ただし「市民」の中には、一人ひとりの職員も含まれます。

「どうすれば自分自身がさらに幸せになれるのか」を考えることは、市民の幸福感向上を目指す上でも、とても参考になります。自分のやりたいことや関わりたいことを、積極的に明確にしながら仕事をしてほしいと伝えています。

それが明確になれば、おのずと自己研鑽の意欲が湧いてくるはずなので、市の「資格取得支援制度」(第2回参照)を活用してもらえればと考えています。自分が興味のある分野に携わることができれば、高いモチベーションで最高のパフォーマンスを発揮してもらえると思います。

私は48歳になりますが、とある資格試験にチャレンジしようと隙間の時間で勉強を続けています。自己研鑽について「今さら始めても遅い」と考えてしまうと、そこで成長は止まります。始めてみれば、3年後には見える景色が大きく変わっているかもしれません。何歳からであっても、決して遅くはありません。

 

小田 やりたいことや関わりたいことが現時点では見えない、という人もいると思います。その人たちにはどう声を掛けますか?

岡田市長 現時点では見えていなくても、積極的に見いだす努力をしてほしいと思います。「やりたいことが思い当たらない」ということは、「それまでの自分自身の知識や経験の上には浮かんでこない」ということです。

その場合には、いろいろと新しいことにチャレンジしてみることです。新しい知識や経験が加わることで、やがてその基盤の上に「やりたいこと」が浮かび上がってきます。見つかったときの喜びは、今までとは比べようのないくらいの働きがい、やりがいに変化します。

その姿勢で仕事をすれば、結果的に良い市民サービスにつながります。まずは「自分のやりたいことは何か?」と日々、問い続けることから始めてほしいですね。

 

小田 前回、詳しく伺った市のスマートシティ構想についても「デジタルツールは市の課題を解決したり、暮らしの価値を高めたりするための手段だ」とおっしゃいました。「市民の幸福感の向上」という考え方が市政全体に貫かれていると感じました。

岡田市長 あくまで目指しているのは「幸福感の向上」です。それはデジタルの分野に限らず、福祉や子育て、教育など、その他すべてに共通しています。幸福感を向上させたいと考えるからこそ、解決したい課題や実施したい施策・事業が出てきます。そこにデジタル技術が役立つのであれば、ぜひ使うべきでしょう。

近年は自治体間競争が激しくなってきました。何か目立った取り組みを行う自治体が注目される傾向にあります。しかし奇抜さや目新しさを追い求めるうちに、目的を忘れてしまっては本末転倒です。加古川市におけるデジタル技術を用いた種々の取り組みは、もともとは「治安を改善しよう」という思いから始まっています。安全・安心を高めることで、市民の幸福感向上に寄与できるのではないかと考えるからです。

 

小田 自治体間競争が行き過ぎると、ネガティブな側面も出てくるのではないでしょうか。

岡田市長 消耗戦はよくありません。財政的な持続可能性を危うくするような、歳出拡大競争に陥ってしまわないようにしなければなりません。移住に関する過度な給付金などは、まさにその典型例と言えるのではないでしょうか。

ただし、それぞれの地域や自治体によって状況が違いますから、一概にすべてを否定できないとも思います。

個人的にはメディアの役割や責任も大きいと考えています。歳出面での話題性のある取り組みが一面的に取り上げられがちです。自治体の財政状況やその比較が報道されることは、ほとんどありません。歳出面の話題性ばかりを切り取る報道は問題です。

 

写真)岡田市長(上)へのインタビューはオンラインで行われた(出典:官民共創未来コンソーシアム)

 

コミュニケーションの基本は「投げ掛け」

小田 政治家としての意識の変遷について伺います。衆院議員も経験されていますが、市長となった今から振り返ると、見える景色に違いはありますか?

岡田市長 全く違います。議員は一定の支持層の代弁者という立場ですから、支持者の声をベースに要望などを行います。一方、市長も含めた行政側は制度設計とその運用、結果に対する責任があります。何か発言するにしても、言った以上はやらなければいけないという重圧を感じることもあります。

 

小田 基礎自治体の首長は、住民の生命や財産を守る「最後のとりで」のような存在です。

岡田市長 確かにプレッシャーはありますが、押しつぶされるほどのものかと言われると、そうではありません。例えば私があす交通事故か何かで命を落としたとしましょう。それでも市役所は動き続けます。副市長や部長が中心となり、物事を進めてくれるはずです。

ですから日頃から私一人で、すべてを背負い込んでいるという感覚はありません。むしろ私一人の意見を押し通すことは、好ましくないと思っています。自分一人の知識や経験は、多数で考えたことには到底及びませんから。

その考えがベースにあるので、私のコミュニケーションの基本は「投げ掛け」です。「これについて、どう思いますか?」と、まずは庁内に投げ掛けるところから始めます。そうすると何かしらの意見が返ってきて、そこからまた議論し、最終的に組織の中から「良いもの」が生まれてきます。生み出した側は自らが生み出したものとして、そのことに一生懸命に取り組んでくれます。

 

第4回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年12月4日号

 


【プロフィール】

兵庫県加古川市長・岡田 康裕(おかだ やすひろ)

1975年生まれ。米ハーバード大学院修士課程修了。経営コンサルティング会社勤務などを経て、2009年8月~12年11月衆院議員。14年6月兵庫県加古川市長選に初当選し、現在3期目。

スポンサーエリア
おすすめの記事