立場を超えた連携で相乗効果を生む~ 高橋純一・群馬県千代田町長インタビュー(3)~

群馬県千代田町長・高橋純一
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2024/05/28 チャンスを手繰り寄せる「調整力」 ~高橋純一・群馬県千代田町長インタビュー(1)~
2024/05/30 チャンスを手繰り寄せる「調整力」 ~高橋純一・群馬県千代田町長インタビュー(2)~
2024/06/04 立場を超えた連携で相乗効果を生む~高橋純一・群馬県千代田町長インタビュー(3)~
2024/06/06 立場を超えた連携で相乗効果を生む~高橋純一・群馬県千代田町長インタビュー(4)~

 


 

前回(4月8日号)に引き続き、群馬県千代田町の高橋純一町長のインタビューをお届けします。前回は、四半世紀にわたる要望活動が実を結び、建設に向け大きな一歩を踏み出した「利根川新橋」を巡る話題を中心に、高橋町長の「機を読む力」と「調整力」に迫りました。

今回は、高橋町長の就任以降に寄付額が右肩上がりとなっている、ふるさと納税の関連施策や、防災対策の取り組みなどについて伺いました。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

「ビールのまち」PRが成功

小田 千代田町のふるさと納税について、寄付額の推移を見ると、高橋町長が就任した2016年度から急増しています。15年度が約75万円だったのに対し、16年度は約2600万円となっています。その後も順調に伸び、22年度は30億円を超えました。高橋町長による施策の効果だと思いますが、どのような工夫をしたのですか?

高橋町長 私が就任した当時、町財政は逼迫していました。新たな財源を確保するため、公有地の売却や経費削減といった案が出る中で、ふるさと納税の強化も手段の一つとして挙げられました。それで、てこ入れが始まったのです。私が就任する前は、ふるさと納税の寄付金を現金持参か現金書留でしか受け付けていませんでした。これでは利用しづらいだろうと、16年4月にインターネットでの受け付けをスタートさせました。そこから毎年少しずつ変革を行い、今に至ります。

 

小田 変革とは、例えばどんなことを行ったのですか?

高橋町長 ふるさと納税のポータルサイトへの掲載を増やしました。最初は一つのサイトから始めましたが、現在は13サイトに増えています(今年3月現在)。もちろん掲載には費用がかかります。この先行投資をやるか、やらないかという選択において、やるという決断を下しました。

何年か試行錯誤する中で、あるとき職員から「ビールのまち」とPRしてはどうか、という提案がありました。

千代田町には、全国に4カ所あるサントリーのビール工場の一つである「サントリー〈天然水のビール工場〉群馬」があります。

これは確かにチャンスだと感じ、同社にご協力いただく形で「ビールのまち」という見せ方にスライドしていきました。

 

小田 コロナ禍と重なる時期だったので「巣ごもり需要」も多かったのではないでしょうか。

高橋町長 大いにありました。外出せずにネットで注文し、自宅に届くことも選ばれた要因です。さらにビール単品だけでなく、寄付金額に応じた定期便もつくりました。このように、職員がいろいろと工夫を凝らしながら取り組んできました。

 

小田 まちにある資源を生かし、ふるさと納税を強化されてきたのですね。

高橋町長 群馬県の館林市と邑楽郡5町(板倉、明和、千代田、大泉、邑楽)は、サントリーと「地元ビール工場と連携した地域活性化の推進」に向けた連携包括協定を結んでいます。近隣の自治体と共にPRしていく意図で締結しました。

 

小田 前回のインタビューでも、災害時の広域避難に関する他自治体との協定締結を積極的に行っていると伺いました。常にエリア全体のメリットを考えているのですね。

「ビールのまち」をイメージした、ふるさと納税PR画像(出典:千代田町)

防災に懸ける思い

小田 今回のインタビューに当たり、千代田町に関する情報を収集していたところ、「ふるさと納税の寄付金の一部を、能登半島地震で被災した石川県に寄付する」というニュースを目にしました。こうした報道からも、高橋町長の防災に懸ける強い思いが読み取れます。

高橋町長 防災に関しては、東日本大震災の頃から強い思いがあります。当時、町議だった私は東北沿岸地域の状況を確認するため、震災の1カ月後に現地を訪れました。そこで被害の大きさを目の当たりにしたのです。地元に戻った私は、他の議員に自分が見てきたことを話しました。すると「われわれにも何かできることがあるのではないか」という話になり、議員全員で現地に赴き、1泊2日のボランティア活動を行うに至りました。そうした経験があるので、どこかで災害が起きたときには「何かできることはないか」という意識が働きます。今回、石川県に寄付することを決めた根底にも同じ意識があります。

 

小田 石川県にはその他の支援も行っているのですか?

高橋町長 二つの支援をさせていただいています。一つは今お話しした、ふるさと納税の寄付金から1000万円を石川県に寄付することです。千代田町は石川県の方々から23年度に約1800万円の寄付を頂いており、そこから経費や返礼品に要する費用などを差し引くと約1000万円になります。その金額を「少しでも恩返しに」という気持ちを込めて寄付しました。

二つ目は人的支援です。税務担当課から家屋評価などの経験がある職員2人を石川県かほく市に派遣し、建物被害認定調査を行いました。われわれの力は限られているかもしれませんが、一日も早い復興を願い、今後もできる限りの支援を行っていくつもりです。

 

小田 千代田町の防災体制についても伺えますか?

高橋町長 地元の企業や団体などと災害時における協定を積極的に締結しています。私が町長に就任してから50本以上は結んだと思います。あらかじめ協定を締結しておくことで万一、災害が起きた場合の連携が速やかになるだろうと考えています。

協定の締結状況はまちのウェブサイトで確認できる(出典:千代田町)

 

その他に自主防災組織の設置を推進しています。17ある各行政地区に一つ以上の組織結成を目指しており、現在は16地区まで至りました。すべての行政地区に自主防災組織が備わるまで、あと少しです。ハザードマップの改定も進めており、5月に配布いたします。

私は住民の方々に「日ごろから自分の身は自分で守ることを心掛けてください」と伝えています。行政は万能ではありません。万一の際に命を守るため、これからは自助と共助の強化が必要になると考えています。自主防災組織の設置を推進しているのも、災害時に地域内での初動対応を早めるためです。

 

小田 大規模災害であらゆるインフラが遮断された場合を考えると、公助が届く前に自助と共助で命を守るほかありません。

高橋町長 ですから千代田町は「防災IQ」という言葉を用い、住民の皆さんに万一の際の行動や避難場所などの確認を意識付けていただくよう呼び掛けています。

 

第4回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年4月15日号

 


【プロフィール】

高橋 純一(たかはし・じゅんいち)

1960年生まれ。群馬県千代田村(現千代田町)出身。2008~12年千代田町議。16年千代田町長に就任し、現在3期目。座右の銘は「やってみせ 言って聞かせてさせてみて 誉めてやらねば人は動かじ」。

スポンサーエリア
おすすめの記事