神奈川県海老名市長・内野優
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子
2024/06/11 まちづくりに必要なのは「スピード感」~ 内野優・神奈川県海老名市長インタビュー(1)~
2024/06/13 まちづくりに必要なのは「スピード感」~ 内野優・神奈川県海老名市長インタビュー(2)~
2024/06/18 就任6期目、まちづくりは第2ステージへ~内野優・神奈川県海老名市長インタビュー(3)~
2024/06/20 就任6期目、まちづくりは第2ステージへ~内野優・神奈川県海老名市長インタビュー(4)~
前回に引き続き、神奈川県海老名市の内野優市長のインタビューをお届けします(写真1)。小田急電鉄(小田急線)、相模鉄道(相鉄線)、JR(相模線)が乗り入れる海老名駅の西口周辺の開発で近年、急速な発展を遂げる同市。スピーディーな開発の裏側には、内野市長が区画整理を進めるため、事業区域の変更に踏み切ったというエピソードがありました。
今回は、就任6期目の今期をまちづくりの「第2ステージ」と位置付ける内野市長に、今後の展望を伺いました。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)
内野市長(上)へのインタビューはオンラインで行われた(出典:官民共創未来コンソーシアム)
1年ごとにまちが変わる姿を見せる
小田 前回のインタビューで、内野市長は「まちづくりにはスピード感が大事だ」と繰り返し述べられました。それは海老名駅周辺の開発を見ると分かります。1年ごとに景色が変わっていくので、市民は暮らしの質が向上することを実感できます。
内野市長 市民の皆さんはどんどん成長していきますから、行政はそのスピードに応えるべきです。海老名市は2008年度から2年間で、すべての公立小中学校の校舎にエアコンを導入しました。トイレもすべて和式から洋式に改修しました。2年間で行った理由は、それ以上の時間をかけたら中学生の多くが卒業し、学校が変わった姿を見られないからです。
小田 市民サービスをいち早く改善しようとする意志の強さを感じます。
内野市長 もちろん教育や福祉は結果がすぐに出るものではないので、長期的な投資が必要です。しかし道路やまちづくりへの投資は、なるべく短期間で回収の見込みが立たなければ実施する意味がありません。回収スパンは10年で考えます。それ以上に長引くような計画は、そもそも人口が増えるといったインパクトはあまり期待できないと思います。海老名駅西口周辺の開発では、道路整備も含めて100億円近くの投資を行いましたが、10年たたないうちにそれを上回る税収が入ってきています。
小田 民間企業と変わらない感覚ですね。
内野市長 まちづくりは10年、長くても20年というスパンで考えなければ、民間がつぶれてしまいます。
小田 内野市長は前回のインタビューで、まちづくりに手応えを感じられるようになった時期について「確実に実感を込めて言えるのは5期目くらい」と述べられました。短期的に成果を挙げることと長期的なまちづくりのバランスを、どのように考えておられるのですか?
内野市長 1年ごとにまちの姿が変わっていくことを意識して取り組んでいます。1年ごとの積み重ねが1期4年の政治の実績です。理想論を述べるだけでなく、目に見える成果を挙げることが政治においては重要だと考えています。
1年ずつ積み重ねていけば、4年でまちは相当、様変わりします。そこからもうワンステップ、上るために2期目があり、3期目へと続いていきます。ですから長期的、短期的という捉え方はあまりしていません。むしろステップアップは限りなく続くと思っています。それで気が付けば6期目です。5期20年で海老名のまちづくりの第1ステージは整いました。6期目からは第2ステージと位置付け、1年ごとの積み重ねを続けていきます。
経営感覚を身に付けて!
小田 内野市長のお話を伺っていると、まちづくりは首長の資質に大きく左右されると感じます。「こうすれば、うまくいく」というようなノウハウの体系化は難しいですよね。
内野市長 首長だけでなく、職員の資質も問われると思います。職員のスキルが高いから、新たなアイデアが出てくることも少なくありません。結局は人です。政令市のように職員が多ければアイデアの数も比例して増えるでしょうが、われわれは約800人です。その分、目的や認識を共有しやすいメリットがあるため、コミュニケーションの中からアイデアを引き出す工夫をしています。
小田 内野市長が今後、職員に高めてもらいたいと思うスキルは何ですか?
内野市長 経営感覚を身に付けてもらいたいですね。自分たちで物を売る、まちづくりをする。そこにどれだけの投資が必要で、何年で回収できるのか。こうした考え方のできる職員が増えることを望みます。
これから市役所周辺の約40㌶の土地が市街化区域になりますが、区画整理と民間開発という形で分かれる予定です(図)。職員に先日、進捗状況を確認したところ、区画整理に関する投資額は算出されていましたが、民間開発の投資額は算出されていませんでした。そこで計算させたところ、1200億円ほどあることが分かりました。
民間はもちろん利益を上げるために投資するわけですから、行政としては移住・定住を促進したり、人が集うような場づくりをしたりするなどして「回収しやすい環境」をサポートすべきです。それは民間の利益にもなりますし、税収として市にも返ってきます。
小田 民間の利益も考慮しながら、自治体経営に当たっておられるのですね。
内野市長 民間が投資できるまちだからこそ発展すると思っています。
小田 海老名市は2月22日、小田急電鉄株式会社とまちづくりに関する包括連携協定を締結したそうですね。同社が市に期待を寄せていることが分かります。
(第4回へ続く)
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年5月13日号
【プロフィール】
内野 優(うちの・まさる)
1955年神奈川県海老名市生まれ。専修大法卒。78年海老名市役所に奉職。83年10月から海老名市議を4期務める。
2003年12月海老名市長に就任し、現在6期目。