生まれ育ったまちの未来を描く~佐藤光樹・宮城県塩竈市長インタビュー(4)~

宮城県塩竈市長・佐藤光樹
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事・小田理恵子

 

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2024/10/03 生まれ育ったまちの未来を描く~佐藤光樹・宮城県塩竈市長インタビュー(4)~

 

「未来への投資」に重点を置いたまちづくり

小田 ここからは塩竈市のまちづくりの方向性について伺っていきます。喫緊の課題と、未来を見据えた長期的な施策のどちらもおありだと思いますが、それぞれ詳しくお話しいただけますか?

佐藤市長 これ以上先送りができない課題が幾つかあり、取り組みを進めているところです。例えば、市役所本庁舎の建て替えです。現在の庁舎は築60年以上で老朽化が顕著となっています。また、22年に宮城県が公表した津波浸水想定区域内に本庁舎の所在地が含まれており、危機管理上の面でも対策が急がれます。現在、市民の皆さんからご意見を頂きながら、基本構想と基本計画を策定しているところです。

ハードの老朽化に関しては、ごみ処理施設や市民病院も該当します。ごみ処理施設は既に優先的に整備する方針を定め、施設の更新に向けた取り組みを進めています。市民病院の老朽化についても対策が必要ですが、複数のハード事業を同時並行的に走らせると市の財政に大きな負担がかかります。ごみ処理施設や市役所本庁舎の整備事業費の精査を行いながら、適正な規模の市民病院に刷新することを目指して検討を進めています。

 

小田 人口減少の一途をたどる中、老朽化した公共施設の更新は多くの自治体が抱える課題です。しっかりと予算をかけるべきなのか、スリム化や新たな活用方法を見出すのか、施設ごとに分けて考える必要がありますね。

佐藤市長 市内には無駄な公共スペースも存在します。公共施設内の空き空間や、使用頻度の低いグラウンドなどです。こういう場所は今後、地域のコミュニティースペースとしての活用を考えています。例えば、子どもたちが遊べる遊具施設を置いたり、気軽にお茶を楽しめるスペースにしたりなどです。大きな予算を投じずともできる工夫をしていきたいと思っています。

 

小田 施政方針や市の総合計画などを拝見すると、佐藤市長は子育て施策に重点を置いていることが分かります。これはまちの将来に向けた長期的な目線の取り組みですね。

佐藤市長 塩竈市の高齢化率は34.6%です。今は私たちが高齢者を支える責任世代ですが、このまま少子高齢化が進めば若い世代の負担は増大し、高齢者を支え切れなくなることは目に見えています。安心して子どもを産み育て、その子どもたちが地域に愛着を持って住み続けられる環境をつくることは、長期的施策における最重要課題です。

 

小田 まさに「未来への投資」ですね。具体的にはどのような施策を進めるのですか?

佐藤市長 住民の皆さんのライフステージに合わせた横断的な施策を展開しようと考えています。

妊娠・出産・子育て期については、切れ目のない伴走型支援を行うために「こども家庭センター」を開設しました。市内のすべての妊産婦、子育て世帯、0歳から18歳までのお子さんを対象とした、妊娠・出産・子育て・家庭相談支援のワンストップ総合窓口として機能します。

また、今年の4月には二つの私立保育園が開園しました。私立幼稚園の認定こども園移行に向けた整備も支援しており、働きながら子育てしやすい環境づくりを進めています。病児対応型の保育も来年度からの事業開始を目指しています。

 

学校教育(小中学校)期においては、子どもたちの「個性を生かす学び」と「協同的な学び」の両方を実践しつつ、幼保小・小中連携を深めてさまざまな交流活動につなげる予定です。児童一人ひとりの理解度に応じて学習できるAI(人工知能)型ドリル等も活用しながら、基礎的な学習の定着を図ります。その他、放課後児童クラブの受け入れ人数の増員や、生活困窮世帯の子どもを対象にした学習支援・進路相談なども実施し、すべての子どもたちが学ぶ喜びを味わえる環境を目指します。

子育て世帯の移住・定住促進の取り組みも重要です。市内へ転入する子育て世帯や三世代同居・近居世帯への住宅取得を支援する取り組みや、結婚祝い金、市内で生まれた赤ちゃんに対するギフトの進呈などを行っています。

 

小田 子育て施策に懸ける佐藤市長の熱意が伝わってくるような内容です。

佐藤市長 まだまだ発展途上です。次の世代に楽しんでいただける塩竈市をどうつくり、つないでいくか。あがきながらチャレンジしている真っ最中です。

 

「海と社に育まれる楽しい塩竈」を目指して

小田 前後編を通じて、市長になられた経緯や根底にあるまちへの思い、現在進行形の庁内マネジメントの様子、震災からの復旧復興のプロセスと今後の施政方針など、あらゆるテーマでお話しいただきました。最後になりますが、これからの市政運営に懸ける思いをお話しいただけますか?

佐藤市長 第6次長期総合計画を策定するに当たり、市民の皆さんにこれからの塩竈でのまちづくりを考えるワークショップにご参加いただきました。そこで皆さんに、「塩竈らしい100の暮らし」のアイデアを出していただいたところ、どれもが「楽しみながらこれからも塩竈で暮らしていきたい」という思いにあふれたものでした。

塩竈市長期総合計画
「塩竈らしい100の暮らし」をまとめたまちづくりのイメージ(出典:第6次塩竈市長期総合計画)

 

皆さんの思いと市の歴史文化を重ね合わせ「海と社に育まれる楽しい塩竈」を10年後の目指す都市像として掲げています。

山積した課題を乗り越え、目指す都市像を実現する過程では、一筋縄ではいかないことも多々あるでしょう。しかしながら、前例や慣習にとらわれることなく、柔軟な視点や発想で課題に挑む姿勢が大切だと考えています。これからも塩竈市が持続可能なまちになるために必要なこととは何かを問い続け、市民目線を忘れることなく市政運営に取り組みたいと思います。

 

【編集後記】

佐藤市長の行動の原動力は「生まれ育ったまちだから」というシンプルな言葉に集約されました。しかしそれは、非常にパワフルな言葉でもありました。能登半島地震が記憶に新しいことから、震災からの復旧復興に触れることになった本インタビューでしたが、佐藤市長のお話や、塩竈市の住民の皆さんの様子から感じ取れたのは「故郷が好きなことに理由は要らない」という思いでした。これこそが、まさにシビックプライドと呼べるものではないでしょうか。まちづくりの白いキャンバスに絵を描いている最中の佐藤市長。これから塩竈市の未来をどう彩るのかに期待しましょう。

 

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年8月19日号

 


【プロフィール】

佐藤光樹・宮城県塩釜市長

佐藤 光樹(さとう・こうき)

1967年塩竈市生まれ。東北学院大経済学部経済学科卒。宮城県議会議員秘書、参議院議員公設秘書を経て、2003年から4期16年間宮城県議会議員を務める。
19年9月に塩竈市長就任。現在2期目。座右の銘は勇往邁進。

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