「妄想から構想へ」市民の声から始まる政策~水谷洋一・北海道網走市長インタビュー(4)~

北海道網走市長・水谷洋一
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事・小田理恵子

 

2025/03/12 暮らしの安心安定を基盤とした「相互扶助」のまちづくり~水谷洋一・北海道網走市長インタビュー(1)~

2025/03/13 暮らしの安心安定を基盤とした「相互扶助」のまちづくり~水谷洋一・北海道網走市長インタビュー(2)~

2025/03/19 「妄想から構想へ」市民の声から始まる政策~水谷洋一・北海道網走市長インタビュー(3)~

2025/03/21 「妄想から構想へ」市民の声から始まる政策~水谷洋一・北海道網走市長インタビュー(4)~

 

まちの持続・発展のための新たな取り組み

小田 今後、新たに挑戦したい取り組みや構想についてお聞かせください。

水谷市長 現状の人口や経済規模を維持していくことが大きな課題だと考えています。特に、地域の重要な教育機関である東京農業大北海道オホーツクキャンパスの活性化は喫緊の課題です。現在1500人の学生が在籍していますが、今後も継続的に入学者を確保し、さらに卒業後も地域に定着してもらえるかが重要です。

そこで、新たな取り組みとして、東京農大の授業料をふるさと納税の返礼品にしました。これにより、大学の財政支援と学生の経済的負担軽減の両立を図ってまいりました。このような施策を通じて、学生にとって網走が学びやすく、住みやすいまちとなることが、まちの維持・発展には不可欠だと考えています。

 

小田 地域振興に加えて、気候変動や国際情勢が不安定な中で、基幹産業である農業の可能性についてはどのようにお考えですか。

水谷市長 国際情勢が不安定な状態であっても日本人が食べていけるように、食料自給力の向上が必要不可欠であると考えています。そういった点では、24年に網走市で大きな成果がありました。寒冷地で稲作が困難とされてきた地で、水田を必要としない陸稲栽培に挑戦し、2トンの「ななつぼし」の収穫を実現したのです。すでに学校給食への提供も開始しており、品質面でも高い評価を得ています。

これは農業における革新的な成果だと捉えています。北海道開拓の100年来の夢は稲作でしたが、水田整備が困難な地域では米作りを断念せざるを得ませんでした。しかし陸稲栽培では、水管理が不要で経費も通常の水田栽培の6割程度に抑えられます。水田がなくても、低コストで良質な米の生産が可能になったのです。もちろん、水田農業の歴史がある地域もありますから、すぐに全面的な転換とはいきません。しかし、畑作での米生産が可能になったことは、食料自給力向上における重要な転換点となります。

 

小田 まさに北海道が日本の食料供給基地としての役割を、より強固に担っていくということですね。

水谷市長 環境変化に適応しながら、北海道は名実共に日本の食料供給基地としての役割を強化していけると確信しています。

 

小さなコミュニティの高い評価から、全国的なPRへ

小田 今回は、水谷市長の理念に基づいた施策のお話をたくさん聞かせていただきました。最後に、全国に向けて今特にアピールしたい網走市の魅力をお聞かせください。

 

水谷市長 網走市の象徴的な取り組みとして、「オホーツク網走マラソン」があります。網走刑務所前をスタートし、260万本の満開のヒマワリがゴールでランナーを迎える本大会は、ランニングポータルサイト「RUNNET(ランネット)」で3年連続日本一の評価を獲得しています。これは、美しい景観と地域を挙げてのおもてなしが高く評価された結果だと考えています。

 

オホーツク網走マラソンのコース(出典:網走市Facebook)

 

小田 マラソンコースから見える網走の自然は絶景でしょうね。大会には北海道内外からランナーが集ったのですか。

水谷市長 参加者数は2800人で、そのうち41%が道外からの参加者です。リピート率は45%と非常に高い水準を維持しています。2800人という規模は、質の高い大会運営のための上限だと考えています。大会運営は約1100人のボランティア(うち400人が東京農大生)に支えられています。

 

小田 日本中のランナーから評価を受け、網走市の魅力を伝える素晴らしいイベントとなっているのですね。

水谷市長 網走マラソンは、オホーツクの雄大な自然、地域の特色ある施設、そして市民・学生の温かいおもてなしの心が一体となった大会です。全国のランナーの皆さんには、日本一の評価を頂いたこの大会で、網走市の魅力を体感していただきたいと思います。

この大会からは、これからの網走市のまちづくりの方向性のヒントを得ています。日本の人口約1億2000万人のうち、ランナー人口は約1000万人です。このように比較的小さなコミュニティで高い評価を得られたことは、他の分野でも同様の成功が可能であることを示しています。

特定のコミュニティから確かな評価を得て、それを一つずつ積み重ねていく。そうした取り組みが、結果として多くの人から評価されるまちづくりにつながっていくと考えています。

 

【編集後記】

「相互扶助」「自主・自立・自助」という理念に基づいた水谷市長の政策は、4期の時間を経て着実に花開いています。住民が自立的に支え合い、地域を持続させていくには、暮らしの安心安定が不可欠です。それを水谷市長は、各種の子育て支援施策の充実や陸稲栽培への挑戦という側面から取り組んでいます。

まちづくりのアプローチは自治体によってそれぞれですが、水谷市長の「妄想から構想へ」という言葉には普遍的なヒントがあるように感じます。縮退社会という先の読めない時代に突入している日本において、地方創生の鍵を握るのは「こうしたい」という自由な発想なのかもしれません。今後も水谷市政の動向に注目しましょう。

 

 

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年2月10日号

 


【プロフィール】

水谷 洋一(みずたに・よういち)

1963年網走市出身。87年から95年までJA北海道中央会に勤務。在職中は農協監査士としてJAの監査と経営指導に当たる。

その後衆議院議員秘書、網走市議会議員を務め、2010年12月に網走市長に就任。現在は4期目。

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