
埼玉県上尾市長・畠山稔
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事・小田理恵子
2025/04/08 信頼と対話で築く「天無私」の市政運営~畠山稔・埼玉県上尾市長インタビュー(1)~
2025/04/10 信頼と対話で築く「天無私」の市政運営~畠山稔・埼玉県上尾市長インタビュー(2)~
2025/04/15 自らが先頭に立つ「率先垂範」のまちづくり~畠山稔・埼玉県上尾市長インタビュー(3)~
2025/04/17 自らが先頭に立つ「率先垂範」のまちづくり~畠山稔・埼玉県上尾市長インタビュー(4)~
埼玉県上尾市、畠山稔市長のインタビューを全4回でお届けします。市政運営において、市民の信頼を何より大切にし、公正な政治と市民との対話を重視する畠山市長。「天無私(てんにわたくしなし)」を理念に掲げ、地域課題の解決に向けた誠実な取り組みを続けています。本インタビューでは、市長としての信念や、市民の声を取り入れた施策の展開について伺いました。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)
畠山市長(上)へのインタビューはオンラインで行われた(出典:官民共創未来コンソーシアム)
「天無私」、市政運営の哲学
小田 畠山市長は上尾市議会議員3期、埼玉県議会議員を3期就任後、上尾市長に就任されています。市長選への立候補を決意された経緯をお聞かせください。
畠山市長 2017年10月に起こった上尾市西貝塚環境センターの入札を巡る汚職事件で、当時の市長と議長が逮捕されるという事態に直面し、「あってはならないことが起きた」という強い危機感を抱きました。
私は埼玉県議会議員として市政を見守る立場にありましたが、多くの市民から「クリーンな政治を取り戻してほしい」という切実な声が寄せられました。その声に背中を押される形で、県議を辞職し、市長選への立候補を決意したのです。
小田 信頼できる方に市長を務めてほしいという市民の要望を受けての立候補だったのですね。そうした期待を背負った中での当選後、市政の信頼回復に向けてどのような方針で市政運営に取り組まれたのでしょうか。
畠山市長 就任直後から、「公正な政治・公平な行政」の実現を最優先課題として掲げました。私自身が率先して公正さを示し、市民一人ひとりと誠実に向き合う姿勢を大切にしています。この信念は、私が座右の銘としている「天無私」という言葉に基づいています。
小田 「天無私」という言葉を市政運営の理念として掲げておられますが、この精神をどのように実践されているのでしょうか。また、このような哲学を持つに至った背景についてもお聞かせください。
畠山市長 「天無私」には、自然は公平無私であり、すべての人や物に分け隔てなく接するという意味が込められています。首長として、自分のためではなく市民一人ひとりのために政治を行うことは当然の責務です。政策を進める際も、市民に対する公平性を最優先に考え、この理念を市政運営の根幹に据えています。
またこの考えは、私の東日本大震災での経験とも深く結び付いています。私は岩手県陸前高田市の出身で、震災により家族や友人、そして故郷そのものが被災するという大きな痛みを経験しました。その後の東北への支援活動の中で、多くの方々から頂いた「ありがとう」という言葉を通じて、人々の支え合いの大切さを実感しました。
この経験から、現場を自ら訪れ、目で見て耳で聞き、現実をしっかりと理解した上で、公平かつ誠実に市民と向き合うことの重要性を学びました。
小田 月並みな言葉ですが、震災でのご経験から人と人との絆の重要性を実感されたのですね。
畠山市長 はい、震災での教訓を市政に生かし、市民の声を直接聴くことを最優先に考えています。地域のイベントや住民との対話の場に積極的に足を運び、現場での生の声を聴くことを重視しています。机上での判断ではなく、市民の暮らしに寄り添い、市民の視点で政策を形作ること。それこそが「天無私」の理念を実践する道だと確信しています。
苦境に立ち向かい市民からの信頼を回復
小田 市長就任後に市政の信頼回復を行うに当たり、具体的にどのような取り組みを進められたのでしょうか。
畠山市長 市政への信頼を回復させるためにまず着手したのが、第三者調査委員会の設置です。前市長らの汚職事件の全容を把握し、透明性の高い形で検証を行うことから始めました。その結果、入札条件の見直しや政治倫理の強化など、10項目にわたる再発防止策が提案されました。
しかし、これらの施策を実行に移す過程では、相当な苦難に直面しました。すべてを短期間で進めることは困難でしたが、粘り強く調整を重ね、一つ一つの課題を着実にクリアしていきました。この地道な取り組みを通じて、市民や議会からの信頼を徐々に取り戻すことができたと実感しています。
小田 市政の信頼回復という困難な課題に取り組まれ、現在2期目を務めていらっしゃいます。市長ご自身を支えてきた原動力は何だったのでしょうか。
畠山市長 大学時代から続けている空手で学んだ精神が、私の市政運営の支えとなっています。
「どんな状況にも立ち向かい、冷静に対処する」という空手の教えは、まさに今の市政運営に通じるものがあります。特に心掛けているのは、「来た球はすべて打ち返す」という姿勢です
市政運営では、どんなに小さな課題でも後回しにせず、一つ一つ丁寧に対応することを心掛けています。空手を通じて培った芯の強さと挑戦する心は、困難を乗り越える原動力となっています。このような姿勢を市民の皆さまにも評価していただけたのか、徐々に「市長頑張れ」という励ましの声を頂けるようになりました。その声が、さらなる改革への推進力となっています。
(第2回に続く)
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年2月17日号
【プロフィール】
畠山 稔(はたけやま・みのる)
1949年岩手県陸前高田市生まれ。千葉工業大金属工学科卒業後、73年から東洋伸銅所(当時)に入社。
その後、上尾市議会議員(3期11年)、埼玉県議会議員(3期11年)を務め、2017年12月に上尾市長に初当選。現在は2期目。