移動データを活用した地域の脱炭素化プロジェクト(3)〜  デジタルで解決すると、アナログが輝く 〜

黒部一隆・環境省総合政策課政策企画官
(聞き手)Public dots & Company パブリック人材育成事業部/東京都目黒区議・田添麻友

 

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第1回第2回に引き続き、「移動データを活用した地域の脱炭素化プロジェクト」に取り組む、環境省総合環境政策統括官グループ総合政策課政策企画官の黒部一隆氏へのインタビューをお届けします。

前回までは、黒部氏が本プロジェクトを始めた経緯や、プロジェクトを実施した四つの地方自治体(大分県杵築市、福井県鯖江市、富山市、神奈川県鎌倉市)での成果について、詳しく伺いました。

人の移動時に2点間の加速度と時速から移動手段を割り出して、二酸化炭素(CO2)の排出量を算出したり、移動データを基に人々が自然に行動変容を起こす都市の設計を考えたりと、EBPM(エビデンスに基づく政策立案=Evidence-based Policy Making)を着実に実行されている様子が印象的でした。

 

今回からは「移動データを活用した脱炭素のまちづくり」をテーマに、データドリブン(データに基づいた企画や戦略の立案・実行)が定着した先の未来像について伺います。(聞き手=Public dots & Company パブリック人材育成事業部/東京都目黒区議・田添麻友)

プロジェクトの概要

黒部氏 「移動データを活用した地域の脱炭素化プロジェクト」は、人の移動をデータという形に「見える化」して分析することで、交通や都市計画の改善施策につなげる取り組みです。取得したデータから移動の手段や目的、移動にかかるCO2排出量などを割り出すことができます。これらの情報は、カーボンニュートラルの実現に向けたコンパクトシティーの形成にも寄与します。

本プロジェクトは民間企業との協業で進めており、昨年度、四つの自治体で実証実験が行われました。ここでは直近の富山市と鎌倉市について、もう一度振り返ってみましょう。

 

富山市が「移動データの見える化」に取り組んだのは、コンパクトシティー化に向けた施策のヒントを得るためでした。同市は市民の自動車依存度が高く、住宅や商業施設が郊外へ広がり、中心市街地の空洞化や公共交通の衰退が課題となっています。そこで、まずは市民の移動の現状を把握するため、データの収集と分析を行いました。

市内のLRT(次世代型路面電車=Light Rail Transit)の整備範囲や富山駅発着のローカル線周辺における市民の移動状況、同駅を中心とした市内のまち歩きの状況について分析しました。その結果、駅周辺や駅の南側にあるグランドプラザ周辺での回遊は見られたものの、駅の北側にある環水公園方面への回遊や駅とグランドプラザをつなぐ回遊については、年齢層によって多少のばらつきはあるものの、まだまだ伸ばしていく余地があると考えられました。

 

富山市内を運行するLRT(出典:環境省)

 

こうした見える化を通じ、市が取り組んでいるウオーカブル(歩きやすい、歩きたくなる、歩くのが楽しくなる)なまちづくりに向けた施策、具体的にはノルディックウオークに使用するポールの貸し出し拠点の見直しを含め、一歩踏み込んだ議論が展開されました。

 

鎌倉市は、交通渋滞を緩和する施策のヒントを得るために「移動データの見える化」を行いました。観光スポットが点在する地域なので、鶴岡八幡宮周辺の道路を中心として慢性的な交通渋滞が起こっており、オーバーツーリズムとも呼ぶべき状態になっていることが課題でした。

そこで、市内を走行する自動車の移動データを収集・分析したところ、市民のために土日に開放していた市営駐車場なのに、観光客の利用比率が高いことが分かりました。

観光客が土日に市営駐車場を利用するのは大きな問題ではないと思われるかもしれませんが、市は前述の通り、市民の何十倍もの観光客が来訪するオーバーツーリズムの状態で、市民の満足度が下がっています。

市が果たすべきミッションの再確認、市民の満足度の最大化、持続可能な市財政の維持といった点を踏まえ、観光客を公共交通へ振り向ける方策や、市外からの来訪者の利用が多いタイミングでの公営駐車場の料金見直しなどについて、議論を行いました。

 

第4回に続く


【プロフィール】

黒部一隆黒部 一隆(くろべ・かずたか)
環境省総合政策課政策企画官

2002年12月に環境省入省。07~08年に九州地方環境事務所課長補佐を務め、地域活性化やエコツーリズムの推進に携わる。09~11年 資源エネルギー庁再生可能エネルギー推進室長補佐。11~12年 民主党政権下で環境副大臣秘書官。13年から福井県に出向。17年に環境庁に復帰。環境再生・資源循環局環境再生施設整備担当参事官補佐、官房環境計画課長補佐を経て現職。

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