心の境界を超え、インフラの広域化・共同化へ~山梨崇仁・神奈川県葉山町長インタビュー(2)~

神奈川県葉山町長 山梨崇仁
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2023/04/04 心の境界を超え、インフラの広域化・共同化へ~山梨崇仁・神奈川県葉山町長インタビュー(1)~
2023/04/07 心の境界を超え、インフラの広域化・共同化へ~山梨崇仁・神奈川県葉山町長インタビュー(2)~
2023/04/11 常に直接対話で合意形成~山梨崇仁・神奈川県葉山町長インタビュー(3)~
2023/04/14 常に直接対話で合意形成~山梨崇仁・神奈川県葉山町長インタビュー(4)~

 

危機意識、逗子市と共有

小田 逗子市と検討している「下水道事業の広域化・共同化とコンセッション方式による運営」について伺います。こうした取り組みは合意形成でつまずくケースが少なくありません。しかし議会の議事録などを拝見すると、葉山町と逗子市は前向きに取り組んでいるように見えます。

山梨町長 危機意識を共有できている点が大きいと思います。逗子市の桐ケ谷覚市長とは「まちのカラーは、それぞれでしっかり出そう。けれども地面の下のインフラに関しては、なるべく効率よく行おう」と、かねて話し合ってきました。

下水道事業に関しては、人口減少による使用料収入の減少や職員不足による運営体制の弱体化、施設や機器の老朽化、維持費の増加など、乗り越えなければならない課題が山積みです。逗子市も同じく、これらを深刻な問題として捉えています。国から広域化・共同化の検討を行うよう要請がありましたから、将来を考えると自治体間で連携するのが良いだろうということで合意しました。

 

小田 葉山町では、以前から大規模な下水道整備事業が行われています。これに逗子市との連携も考慮するということでしょうか?

山梨町長 葉山町は下水道の未普及を解消するとして、2018年から下水を運ぶ管渠の建設やマンホールポンプの設置を官民連携事業として行っています。22年度からは、浄化センターの水処理設備や中継ポンプ場の汚水ポンプ設備の増設、浄化センターの中央監視設備の更新などについても、官民連携事業として実施しています。これら設備を整えつつ、逗子市と連携して広域化・共同化に伴う影響や効果を検討します。

 

小田 具体的には、どのようなスケジュールで検討を進めていくのですか?

山梨町長 22年度はハード面の検討を行いました。葉山町が逗子市の下水を受け入れることを想定しています。ですから、それに伴う設備増強ができるか、広域化による長所を発揮できるかといった点を確認しました。

23年度からは、主にソフト面の検討を行います。コンセッション方式で下水道事業を運営する際の課題の抽出、官民の役割分担、広域化した場合の効果検証などを踏まえ、事業化の可能性を検討する予定です。

 

小田 逗子市との連携だけでなく、コンセッション方式の導入についても、強い思いがあるように見えます。

山梨町長 コンセッション方式では、施設の所有権を町が持ちつつ、維持管理や改築を含めた運営権を民間事業者に委ねます。そうすることで民間の経営ノウハウや創意工夫が発揮され、長期的な運営が可能になると考えています。もちろんメリットばかりでなく、デメリットもありますから、それらを多角的に検討し、下水道事業が安定的かつ継続的に営まれる状態を目指します。

 

情報開示と対話の重要性

小田 葉山町には広域連携で訴訟問題に発展した過去があるとおっしゃいましたが、どういったものだったのでしょうか?

山梨町長 私が町議を務めていた08〜09年ごろに横須賀市、三浦市、葉山町でごみ処理の広域化を進めていました。ところが、国に提出する計画がほぼ出来上がり、後は判を押して出すだけというタイミングで、前町長がごみ処理施設を単独で運営するとの公約を掲げ、協議から離脱しました。

それは信義則に反するとして、葉山町は2市から訴えを起こされました。1億4800万円の訴訟になりましたが、最高裁まで争った結果、痛み分けのような形で葉山町が395万円を支払い、決着しました。

町では、老朽化した焼却炉が稼働し始めていましたが、2010年にダイオキシンを含んだ水の排出が確認され、稼働停止に至りました。その結果、ごみ処理が立ち行かなくなり、大きな問題となりました。町内のあちこちから「やはり広域連携の方が良かったのではないか」という声が上がったことを覚えています。

町民が環境問題に高い意識を持っているのは、このような歴史があったことも大いに関係しています。

 

下水道に関しては、1997〜2004年ごろに訴訟がありました。町内のある地域で稼働しているコミュニティープラントに、町が下水道法に基づき接続したことと、下水道事業の推進は無駄な経費であるとして住民訴訟が起こされました。

こちらは町の勝訴という結果になりました。どちらの事例を見ても、「大規模インフラ事業の導入」を巡る議論は難しさをはらむことを改めて感じます。

 

小田 広域連携の難しさと大切さ、どちらも理解された上で逗子市との連携に臨んでいるのですね。

山梨町長 自治体間の連携に限らず、人は「境界線」に対して敏感になる傾向があります。例えば、町内会の境目や隣家との境目でトラブルが起きるという話はよく耳にしますよね。「境界線」が引かれると、対立が生まれやすくなるのかもしれません。だからこそ対話が必要です。

 

小田 公共施設や行政サービスの広域化・共同化という流れが進む中、行政間の「境界線」にまつわる課題は今後も数多く出てくることが予想されます。これをクリアにするために、何か良い方法はないのでしょうか?

山梨町長 基本的には対話を重ねることだと思いますが、上位のレイヤー(階層)からルールが下りてくることも一つだと思います。例えば市町連携に対し、県からルールが示されることなどです。ただし、そのルールは誰もが納得するものである必要がありますから、大きな責任を伴います。上位レイヤーからすれば、あまり積極的に対応したくないことかもしれません。難しいですね。

 

小田 住民にできることはありますか?

山梨町長 相当な危機意識を持っているときは別として、行政が十分な情報開示をしない限り、住民が行政問題に踏み込んでくることは基本的にはないと思います。そもそも行政は住民からの負託を受けて仕事をしていますから、こちらからの働き掛けが先になります。故に、町の情報を詳細に公開しておくことが重要なのではないかと考えます。

町が目指しているものは何か、どういうスタンスで臨んでいるのか、今は何に取り組んでいて、経過はどうなっているのか。これらを住民に開示しながら、時には直接対話して互いの理解を深めることが、遠回りのようで実は一番の近道なのではないでしょうか。

 

小田 おっしゃる通り、対話の積み重ねが最も近い道のりとなりますね。とはいえ対話ほど、シンプルで難しい手法もないと思います。例えば、お話のあった「はやまクリーンプログラム」も、職員がすぐに納得して取り組みを始めたとは思えません。そこには、何かしらの対話のアプローチがあったと想像できます。

次回は、山梨町長がステークホルダー(利害関係者)と行うコミュニケーションについて、深掘りします。

 

(第3回に続く)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年2月20日号

 


【プロフィール】

神奈川県葉山町長・山梨 崇仁 (やまなし たかひと)

1977年生まれ。東京都渋谷区出身。大学卒業後に3年間、ウインドサーフィン選手として活動。ベンチャー企業勤務、神奈川県葉山町議を経て、2012年1月葉山町長に就任。現在3期目。

 

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