徹底した現場主義で市民ニーズをつかむ~清水聖義・群馬県太田市長インタビュー(2)~

群馬県太田市長・清水聖義
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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自分で車を運転、予告なく現場に

小田 清水市長は、普段の情報収集をどのように行っているのですか?

清水市長 現場に行くことです。すると、必ず何かヒントが落ちています。私は基本的に自分で車を運転し、市内をくまなく見に行くようにしています。

 

小田 運転手や秘書と行動を共にしないということですか?

清水市長 ほとんどしません。現場には予告なしに突然現れることが多いです。その方が生の情報をより得られるからです。訪問することが事前に知らされていると、迎える側は準備するでしょう。

また職員が一緒だと、どうしても準備されてしまいます。そうするとリアルではなくなってしまいます。現場のありのままの状態を見るためには、自分の足で動いた方が良いのです。おかげで市内の道路地図は、ほぼ頭の中に入っています。

 

小田 ご自身の目で「きれいになっていない現場」を確かめるので、施策の立案から実行までのスピードが速くなるのですね。

清水市長 最近の例で言えば、私が地元のボーイスカウト活動を見たことがきっかけで、キャンプ場の改良についての意見交換会が始まりました。彼らは野外でのグループ活動を通じて社会性やリーダーシップを育むために、キャンプを行うことがあります。しかし話を聞いてみると、キャンプ場が山奥にあるため、冬季は利用しづらいと言うのです。

彼らがもっと活動しやすい環境をつくるためにはどうしたらよいかと考えたところ、平たん地にキャンプ場を整備するという発想に行き着きました。そこで、まずは関係者を交えた意見交換会から始めようと動いています。

 

小田 アイデアを実現する過程では、関係者からの意見の吸い上げを重視しているのですか?

清水市長 もちろん、ご意見は丁寧に伺います。一方でお金と場所と人がそろわないと、アイデアは実現できません。そうした諸条件をどう満たしていくかも考慮しながら話し合い、形にしていきます。

 

小田 「実は欲しかった」という市民のニーズを自ら動いて現場で収集し、スピーディーに対応されているのですね。4年で結果が出る理由が分かります。

清水市長 市民のニーズを理解し、それを満たすものが実現できると、評価していただける方が自然と増えていきます。その繰り返しで8期目があるのだと思います。

私はまちづくりについて、基本的に4年のサイクルで考えていますが、4年で目標が達成されると、必ず次の4年後の目標が現れます。ですから、いつも新鮮な感覚です。

 

財源確保を常に意識

小田 施策の実行に当たっては、財源の確保が課題になることも多いと思います。財源はどうやって捻出されているのでしょう。意思決定のスピードからすると、通常の予算編成スケジュールに合わせているとは思えません。一般財源にバッファーを持たれているのでしょうか?

清水市長 お金がなければ何もできません。財源の確保は常に頭の中で考えています。

市は2023年度、幼稚園から中学校までの給食費を無料化しました。これを継続するためには毎年度、約13億円の予算が必要です。そこで事前に、どうすれば財源を確保できるかと考えておくわけです。

打った策は、約200ヘクタールの市街化調整区域を市街化区域に編入することでした。これにより、もともと田畑が広がっていた土地に新しい住宅や工場が建設されています。そうすれば固定資産税が切れ目なく入ってくるようになり、給食費無料化の予算に充てることができます。3〜4年後には税収が13億円に達し、以降は毎年度に同程度の税収が見込めると試算しています。

 

小田 市政を広い目で捉えた戦略ですね。

清水市長 何か施策を打ち出したからには、続ける責任があります。財源確保はいつも考えています。

ちなみに太田市では、土地開発公社が産業団地や住宅団地の造成・販売といった不動産業を行っています。そこで得た収益も一般会計に繰り入れています。

 

小田 いくらアイデアがあっても、ない袖は振れません。清水市長がおっしゃる通り、「稼ぎ方」の戦略は重要です。

清水市長 財源が確保できると「次はこれを実現しよう」と、また新たな目標が現れます。

24年度からは、市内の保育園や認定こども園で使うおむつやお尻拭きを市が負担することにしました。0〜1歳児を預かる園に、民間事業者が提供する「おむつのサブスクリプション(定額制)サービス」を導入してもらい、その利用料を市が負担するというものです。使用済みのおむつは事業者が回収します。その費用も一部、市が負担します。

 

小田 同様の施策を行っている自治体は、まだ多くありません。先駆的な取り組みですね。

清水市長 これも保護者や保育士の生の声を聞き、始めようと思った取り組みです。お母さんたちは、お子さんが使うおむつを自費で購入して園に持って行き、使用済みの物を持ち帰る生活を続けていました。一方で園の先生方は、園児ごとにおむつを預かったり返したりする毎日でした。これは双方にとって面倒で、負担があるわけです。

ならば、市が代わりにやりましょうかという話になります。当然、そうしてくれるなら一番助かるという答えが返ってきます。この取り組みを始めるに当たり、保育園に直接、方針をお伝えしに行きました。すると、保育士の皆さんは本当に喜んでくださいました。

 

小田 清水市長の徹底した現場主義には感銘を受けます。「たった一人に寄り添う姿勢」はマーケティングの基本であり、昨今の事業開発には欠かせない要素です。

清水市長 やはり、リサーチは何よりも重要です。

 

小田 マーケティングの世界では「ニーズを探る」「現場を見る」ことが基本動作だといわれていますが、清水市長のように徹底して実践できている方は少ないのではないかと思います。市民ニーズに対する純粋な探究意欲や熱意があるからこそ、これだけの成果を挙げられたのでしょう。

次回は、清水市長がこれまでに実施してきた政策を振り返りつつ、その判断力の源に迫ります。

 

第3回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年1月22日号

 


【プロフィール】

清水 聖義(しみず・まさよし)

1941年、群馬県太田市生まれ。慶大商卒。民間企業勤務、太田市議、群馬県議を経て、95年太田市長選に初当選し、現在8期目。市役所をサービス産業と捉え、行政経営にマーケティングの手法を導入し、行政サービスの質向上を追求する。

 

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