
北海道帯広市長・米沢則寿
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事・小田理恵子
2025/02/26 地域の「基本価値」を高める戦略~米沢則寿・北海道帯広市長インタビュー(1)~
2025/02/27 地域の「基本価値」を高める戦略~米沢則寿・北海道帯広市長インタビュー(2)~
2025/03/04 「点」を打ち続けて見えた、地方創生につながる「線」~米沢則寿・北海道帯広市長インタビュー(3)~
2025/03/06 「点」を打ち続けて見えた、地方創生につながる「線」~米沢則寿・北海道帯広市長インタビュー(4)~
北海道帯広市、米沢則寿市長のインタビュー第3回をお届けします。
第1~2回では、企業の経営者から市長へと転身した理由や、地域が元来持つ「基本価値」を再評価する「フードバレーとかち」の取り組みについて詳しくお話しいただきました。
第3~4回では、「フードバレーとかち」19市町村の広域連携を支える国の制度活用や、組織づくりやマネジメントにおける哲学など、より具体的な手法に迫ります。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)
米沢市長(上)へのインタビューはオンラインで行われた(出典:官民共創未来コンソーシアム)
「定住自立圏」制度を活用した柔軟な連携
小田 前回、「フードバレーとかち」構想にて近隣の18町村と連携したお話を伺いました。複数自治体で連携する場面においては、各自治体の首長交代時に、前任者の政策が覆ることもあると思います。そうした状況にはどのように対応されているのでしょうか。
米沢市長 「フードバレーとかち」構想は制度面からも継続性を確保できていると考えています。その重要な要因が「定住自立圏」制度の活用です。この制度は、人口減少や少子高齢化が進む地方において、中心都市とその周辺町村が連携し、生活に必要な機能を維持・向上させるための国の制度です。今回のケースでは、帯広市が周辺18自治体それぞれと1対1の協定を結ぶ形で連携しています。
小田 18自治体とは1本の連携協定ではないのですね。
米沢市長 個別協定です。定住自立圏は、平成の大合併後の地域間連携の新たな形として総務省が導入したもので、中心都市と周辺の自治体が個別に連携できる点が特徴です。
小田 個別協定を結ぶことのメリットは何でしょうか。
米沢市長 従来の広域連携は、参画する自治体が同一の内容で協定を結ぶため、1自治体でも反対があるとまとまらなくなってしまいます。一方で、定住自立圏制度では中心市と周辺自治体がそれぞれ合意した項目で協定を結び、さらに協定項目の適宜見直しも可能です。そのため、柔軟に広域連携を進めることができます。定住自立圏制度の活用が「フードバレーとかち」の緩やかな自治体間連携の基盤となりました。
小田 複数の自治体が協定を締結する場合、合意形成の難しさから取り組みの底上げにはなるものの、引き上げにはつながらないという話を耳にします。定住自立圏制度を活用するとは目から鱗が落ちる思いです。
米沢市長 おっしゃる通り、全会一致を求める制度は「引き上げ」には効力を発揮しないことも多いです。これからアッパーサイドを目指すタイミングには適していません。カチカチに強制力を伴ったような連携は一見美しく見えますが、入り口の段階でそこまで縛りを利かせると後から「不自由だ」とする声が必ず出てきます。旗は立てているけれども、お互いの自由が担保されるような、ある程度の緩やかさを持った連携の方がうまくいくのではないかと思っています。
本質において一致、行動において自由、すべてにおいて信頼
小田 定住自立圏を活用した連携を18町村の首長に提案したときの反応について教えてください。
米沢市長 私はピーター・ドラッカー(オーストリアの経営学者)の著書「経営者に贈る5つの質問」にある「本質において一致、行動において自由、すべてにおいて信頼」という言葉が好きで、この言葉を以て「十勝はこうやって皆で仲良くしていきませんか?」と18町村を回りました。
首長の皆さんには「本質的な部分での一致を大切にしつつ、普段の行動は各自治体が自由にやっていきましょう。そしてそれを支えるのが相互の信頼関係です」と伝えました。連携協定がうまくいったのは、この考えに多くの首長が共感・共鳴してくれたからだと思っています。素晴らしい首長たちです。
十勝は本質的に農業地帯であり、そこから農業生産を中心にまちづくりを進めてきた歴史があります。19市町村には歴史や文化的な面で、農業を抜きにして地域の発展はないという本質的な共通点があります。
一方で、皆で一緒に何かをやりましょうとなったときに、がんじがらめなルールで固め、中心地が右を向いたら皆が右を向く、というやり方には違和感があると思います。
相応の自由が必要で、その中で共通目的を実現するための土台としてお互いの信頼を築きます。「私たちは、普段から仕事を通じて信頼関係をどうやって強くしていくかを第一に考えていけばいいんじゃないでしょうか」と、十数年前に生意気にも提案させていただいたのが、現在の十勝における地域連携の礎となっているように思います。
小田 米沢市長は日頃から「信頼関係」という言葉をさまざまな発信で使われています。連携先の町村に対しても非常に敬意を持って接している様子が窺えます。
米沢市長 大小に関係なく、十勝の各町村にはそれぞれの歴史があり、人々の特性も異なります。同じ十勝でも、森林地帯があれば海に面している地域もあります。ですから、すべての地域を一つの考え方でまとめていこうというのは、ある意味不遜極まりないことだと思います。相手を尊重し、理解しようとする姿勢を首長同士が持てば、お互いの違いも含めて認め合え、協力し合えると思っています。
小田 近隣自治体との職員間交流も積極的に行っているのですか。
米沢市長 私も含め、定期的に各町村を訪問しています。一般的には中心市に集合するケースが多いですが、努めてそうはしていません。
もう一つ意識していることとして、訪問する際には、庁舎の正面玄関から入るようにしています。そうすると職員の皆さんから「帯広市長が来た」と自治体間交流の様子を現実として認識してもらえます。懇親会時には職員の方たちも招き、親睦を深めています。
小田 積極的な関わりを通じて、各町村の職員や住民の方々からも信頼を得ていらっしゃるのですね。
米沢市長 地域間連携を進める際、それぞれの自治体が持つ「俺が村」「俺が町」という意識を完全になくすことは難しいものです。その壁をできるだけ低くするためには、首長同士が仲良く笑顔で議論を交わしている姿を、職員や地域の人々が目にすることが大切なのだと思います。
首長の行動が見えない中、紙の文書だけが回ってきて「協力しなさい」と通達するよりも、首長同士が交流する姿を職員・住民に見てもらう方が効果的です。非常に基本的な話ですが、私たちは実際にこのような形で地域間連携を進めてきました。
(第4回に続く)
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年1月27日
【プロフィール】
米沢 則寿(よねざわ・のりひさ)
1956年生まれ。帯広市出身。北海道大法学部卒。石川島播磨重工株式会社(現株式会社IHI)、株式会社ジャフコ取締役、ジャフココンサルティング株式会社取締役社長等の経験を経て2010年に帯広市長就任。現在4期目。(写真提供:株式会社スマヒロ)