20年ぶりの村長選で示された変化への期待~上野雄大・長野県野沢温泉村長インタビュー(1)~

長野県野沢温泉村長 上野雄大
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2025/12/17 20年ぶりの村長選で示された変化への期待~上野雄大・長野県野沢温泉村長インタビュー(1)~

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2025/12/25 コミュニケーションを取り続け、多様な共生社会を築く~上野雄大・長野県野沢温泉村長インタビュー(4)~

 


 

長野県野沢温泉村。人口約3200人の小さな山間の村が今、大きく注目されています。2025年3月の村長選で初当選を果たした上野雄大村長は、元フリースタイルスキー日本代表や実業家という異色の経歴を持ちます。

インバウンド観光が活況を呈する一方で、住宅不足や生活コスト高騰など村民生活へのしわ寄せが深刻化する中、「現状維持は衰退」を信念に、江戸時代から続く伝統的自治組織「野沢組」との積極的対話に踏み切るなど、従来の慣習に囚われない村政運営を展開しています。

本インタビュー前編では、上野村長の政治哲学と、20年ぶりの村長選で村民が託した思いの背景に迫ります。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

上野村長へのインタビューはオンラインで行われた(出典;官民共創未来コンソーシアム)

 

現状維持は衰退、より良くなるために

小田 今回はさまざまなご経験を持つ上野村長のお話を伺うのをとても楽しみにしていました。まずは、ご自身の政治哲学や大切にしている考え方をお聞かせください。

上野村長 今回の村長選では、「豊かな暮らしを守り、夢ある未来を共に拓く」というスローガンを掲げました。それ以前の村議会議員選挙の頃から共通して持っているのは、「より良い豊かな未来づくりを」という指針です。私は現状維持は衰退だと思っています。仮に今が良かったとしても、何もしなければその状態は維持できないとする考え方が根本的にあります。

いろいろなことに挑戦して、より良くしていこうとすることで新たな発見や道筋が生まれてくると思います。失敗もありますが、常に変化を求めてトライするのが基本的なスタンスです。

 

小田 議員時代から現在まで政治哲学のベースは変わらないのですね。

上野村長 議員から村長になり、物の見方や責任範囲は変わりましたが、「より良くしていこう」という基本的な考え方は変わっていません。むしろ経営者やスキー選手の時代から変わっていないかもしれません

 

小田 私はこれまで50人以上の首長にインタビューを行ってきましたが、芯がブレない方は周りの方の信頼も厚い傾向があると感じます。一方、目まぐるしく環境が変化する中で、芯を捉え続けることはかなり難しいことだとも思います。

上野村長 私は物事をあまり複雑に考えずに、比較的シンプルに捉えます。その上で大きな目標を掲げ、周りの皆さんに助けられながら歩いてきた気がします。そういった進み方がうまくいっているのかもしれません。

 

住民の挑戦マインドに火を付けた村長選挙

小田 25年3月は村にとって20年ぶりの村長選でした。投票率が約79%という高い注目度の中で村長に選ばれたわけですが、村民の方たちがどのようなことを求めて票を託したと感じますか?

上野村長 住民アンケートを取ったわけではなく、あくまでも私の捉え方になりますが、やはり村民の皆さんは「今までの慣習に囚われず、柔軟に判断して動ける人」を求めていたのではないかと思います。

若い世代の方たちは私と感覚が近いためか、強く訴えずとも私の主張の奥にある考え方や価値観を感じ取ってくれたように思います。意外だったのが、ご年配の方たちです。選挙戦中に私と接した時に、「もうこれからの時代は経験だけではやっていけない。上野くんの感性を活かして、予測できない時代の旗振り役をしてほしい」というような言葉を掛けられました。一般的なイメージとして、ご年配の方は変化を避ける傾向があると思うのですが、「挑戦してくれ」といった声があったことは印象的でした。

 

小田 それは確かに意外ですね。最初からご年配の方々の応援があったのですか?

上野村長 いえ、最初は情勢がかなり厳しかったです。前村長が4期かけて築いた固い地盤があり、「圧倒的に不利」「なぜ次の選挙にしなかったんだ」と言われていました。でも私自身は、今村政に着手しないといろいろなことが手遅れになると思っていましたから、とにかく訴え続けました。そうしていくうちに、風向きが変わりました。

 

小田 どのようなことを訴えたのですか?

上野村長 私が出馬時に村民の皆さんに訴えた危機感は幾つかあります。まず一つは、先人たちが繋いできた暮らしや文化が消滅する危機です。若い世代の流出や少子化が顕著で、村の基本的な仕組みさえもが回らなくなっている状況があります。

また、インバウンドによる観光産業が活況な半面、それが発展すればするほど、住宅の不足や生活コストの高騰、環境問題やサービス格差など村民の皆さんの暮らしにしわ寄せが生まれています。財政も決して楽観できません。

物価高騰や不安定な情勢の煽りを受け、計画していた事業が影響を受け始めています。このままでは数年後には借入金が増え、行政事業の自由度が失われることが目に見えていました。

このように、既存のシステムでは悪循環に陥るであろう危機的状況に対し、私は「村づくりを今こそ全村民一緒になってやりたい」と訴えました。「暮らしの充実第一主義。村民の声を聞き、村政の見える化を実現する」を公約の第一の柱に据え、世代やコミュニティー、地区を超えてあらゆる人たちや地域資源を繋ぎ、幸せの好循環が生まれる村づくりを目指すと伝えて回ったのです。

 

小田 村で生まれ育ち、スキーを通じて地域資源の豊かさに触れ続けてきたからこそ、訴えが村民の皆さんの心に火を付けたのでしょうね。

上野村長 本来、野沢温泉村の住民性には挑戦のマインドが根付いていると思います。というのも、村のスキー場は約100年前に村民が造ったんですよ。豪雪地帯で厄介ものの雪を「邪魔なものでも利用しよう」と村民自らが動き、スキー場を造り上げました。それからスキーブームが訪れ、流れに乗ったらうまくいってきたところがあり、だんだんと新しいことに挑戦する意識が薄れてきたのではないかと私は考えています。

選挙期間はわずか5日間でしたが、村民の皆さんの心の奥にある挑戦の精神に直接訴え掛けたことで、火が付いたのではないかと思っています。

 

小田 これは私の感覚ですが、最近は若い首長が高齢化の進む地域で選ばれるケースが増えてきた気がします。これは若きリーダーの情熱や、待ったなしの時代の変化に対して、高齢の方たちが根底で持つ胆力のようなものが共鳴しているのではないかと思うのですが。

上野村長 そうですね、私も自身の選挙や他の自治体の事例を通して同じように感じています。

 

(第2回に続く)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2025年11月17日号

 


【プロフィール】

上野 雄大(うえの・ゆうた)

1981年生まれ、長野県下高井郡野沢温泉村出身。元フリースタイルスキー日本代表選手。実業家として4店舗を経営後、2021年に村議会議員に当選し、総務社会常任委員長も務める。
25年3月、20年ぶりとなる村長選挙で初当選し村長に就任。現在1期目。

 

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