ー ファーストモデルでなければ、機会は取れないー 首長が自ら民間と組むということ 〜小田理恵子・一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事(2)~

 

2026/9/9 ー ファーストモデルでなければ、機会は取れないー 首長が自ら民間と組むということ 〜小田理恵子・一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事(1)~

2026/9/10 ー ファーストモデルでなければ、機会は取れないー 首長が自ら民間と組むということ ~小田理恵子・一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事(2)~ 

 

自治体が持つ「第一号の入り口」

民間企業は、自治体との連携を慈善活動として判断しているわけではありません。

企業の現場担当者は、「自治体や地域の役に立ちたい」という純粋な思いを持って動いていることも少なくありません。しかし、経営層はその思いを尊重しつつも、人材や費用を投じるに値するかを冷静に判断します。「地域のため」という意義だけでは、継続的な事業として社内の承認を得ることはできません。

その自治体で実証することが、新しいサービスの開発につながるのか。導入実績として他地域に展開できるのか。新しい市場に入る足掛かりになるのか。企業は、こうした観点から判断しています。

 

第一号の実証であれば、まだ実績のない技術やサービスを行政現場で試し、課題や運用上の問題を把握できます。導入事例をつくり、他自治体への展開可能性も検証できるため、企業側にも先行投資として参加する合理性が生まれます。

一方、既に他地域で実績が確立し、サービスが一般化した後では、それは新市場をつくる投資ではなく、既存サービスを販売する営業案件になります。その場合、企業が「予算は幾らか」「仕様書はあるか」「調達手続きはどうなるか」と確認するのは当然です。

企業が冷たくなったのではありません。案件の性質が、投資から販売に変わったのです。

この違いを理解すると、「予算がないから先進的な取り組みはできない」という発想が、必ずしも正しくないことが分かります。予算が限られる自治体ほど、民間が先行投資として参加したくなる段階で組む必要があります。

自治体が差し出せるのは、お金だけではありません。地域課題、行政現場、職員の知見、実証の機会、社会的信用、首長の発信力があります。

 

中でも希少なのが、第一号の実証の場になることです。

自治体は、民間企業が新しい市場をつくるための最初の入り口を握っています。その価値を理解し、戦略的に使うことが、持たざる自治体の重要な選択肢になります。

 

「前例を待つ」ことは本当に安全か

自治体では、前例のない取り組みは「リスクが高い」と考えられがちです。確かに、成果が見えず、想定外の問題も起こり得ます。そのため、他自治体の事例を待ってから導入する判断には、一定の合理性があります。

しかし、前例を待つことにもリスクがあります。待っている間に技術や市場が固まり、自治体は企業と一緒に仕組みをつくる立場から、出来上がったサービスを購入する立場に変わります。後発になるほど他自治体と比較され、第一号であれば得られた企業の先行投資や専門人材、注目や情報も得にくくなります。

つまり、前例を待つことは、失敗の可能性を下げる一方で、機会を失う可能性を高めます。重要なのは、前例の有無ではなく、不確実性をどう管理するかです。対象と期間を絞り、撤退条件を決め、小さく試す。前例のない取り組みも、そうすれば管理可能なリスクに変えられます。

 

技術の転換点に、早く小さく差し込む

そのために必要なのが、新しい技術や社会変化の転換点を見つけ、地域課題に早く、小さく組み合わせることです。

ファーストモデルは、奇抜なアイデアを思い付くことではありません。

新しい技術が登場した直後は、まだ用途も市場も固まっていません。大企業や大都市だけが有利とは限らず、課題を明確に持つ小さな自治体にも、最初のモデルをつくる余地があります。

ただし、その機会をつかむには、日頃から外部の変化に触れていなければなりません。

新しい技術を試し、民間企業や研究者と対話し、他分野の成功構造を行政課題に応用する。ファーストモデルは、何もないところから生まれるのではなく、既にある技術や仕組みを新しく組み合わせることで生まれます。

 

そして、完璧を待たないことも重要です。

行政は、一度予算をつけた事業は失敗できないと考えがちです。その結果、100点の計画書ができるまで動かず、関係者全員の了解が取れるまで外に出さず、実施時には技術や環境が変わっている、ということが起こります。

しかし、新しい技術や市場の立ち上がりでは、最初から正解を持つ者はいません。民間企業も、仮説を立て、試し、失敗し、修正することを繰り返しています。行政だけが、一度の計画で正解に到達できるはずはありません。

だからこそ、完璧な計画を待つのではなく、対象を限定して早く試し、結果を見て次の判断をする必要があります。この作法を持ち込めるかどうかが、第一号を取れる自治体と、前例を待ち続ける自治体を分けます。

 

トップが変えるべきは、号令ではなく構造である

ここまで、首長が自ら民間と向き合い、ファーストモデルを狙う合理性を述べてきました。

しかし、首長が「新しいことをやれ」と号令をかけるだけでは、組織は動きません。

ファーストモデルは、前例がなく、失敗する可能性があります。職員から見れば、従来の評価制度の中では、極めて割に合わない仕事です。

成功しても「職務の一環」とされる。失敗すれば、議会や上司から責任を問われる。通常業務は減らず、挑戦する仕事だけが増える。

この条件で職員が前例のない仕事を避けるのは、意欲がないからではありません。組織の中で合理的に行動しているだけです。

従って、トップが変えるべきなのは、職員の意識ではなく、評価と責任の構造です。

何を試すのか、どこまでを実証とするのか、失敗をどのように扱うのかを明確にする。議会や住民への説明責任を、現場だけに負わせない。成果が出たときには、挑戦した職員を正当に評価し、次の裁量や機会につなげる。

「失敗してもよい」と言うだけでは不十分です。本当に失敗したときに責めないこと、うまくいかなかった理由を検証し、次に生かすこと、挑戦した職員が損をしないことまで含めて、構造を変える必要があります。

トップが方向と責任を示し、職員が実務と検証を担う。この役割分担があって初めて、ファーストモデルは組織の成果になります。

 

むすびに──一番手を取るのは、特別な自治体ではない

人口減少、人手不足、財政制約が進む中、自治体が従来と同じやり方だけで課題に対応することは、ますます難しくなっています。

前例を踏襲することは、組織の中では安全に見えるかもしれません。しかし、外部環境は、自治体が前例を待っている間にも変化します。

技術は進み、企業は別の地域で実証を始め、住民のニーズも変わっていきます。そして、第一号として得られたはずの機会は、静かに他の地域へ移っていきます。

ファーストモデルを狙うというと、派手な首長や、予算のある大都市にしかできないように聞こえるかもしれません。

しかし、実際は逆です。

予算も人材も限られている自治体だからこそ、お金で出来上がったものを買うのではなく、民間と一緒に最初のモデルをつくる意味があります。

地域課題を明確にし、外部の技術や人材と結び付け、小さく試し、結果から学ぶ。そして、トップがその判断と責任を引き受ける。

首長主導の先進自治体を見て、「あそこは特別だから」と片付けることは簡単です。しかし、そこから学ぶべきなのは、特別な人物の存在ではありません。トップが自ら民間と向き合い、組織として決断し、職員が挑戦できる条件を整えたという事実です。

 

一番手を取るのは、大きな自治体でも、予算のある自治体でもありません。

変化を早く捉え、小さく試し、その責任を引き受けた自治体です。

完璧な計画を待つのではなく、次の標準になり得る最初の一歩を、トップ自身が踏み出す。それが、制約だらけの時代に、地域が機会を取りにいくための現実的な戦略だと私は考えています。

 

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2026年8月3日号

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