(2)介護支援専門員の課題

介護支援専門員は介護保険制度の中核を担う専門職ですが、幾つかの課題を抱えています。それは、量、質、制度の課題です。

量の課題〜合格者数の激減と高齢化の更なる進展

まずは、量の課題についてです。1997年に制定され、2000年より施行された介護保険制度は、当初より壮大な社会実験の性質を持っており、前述したように「走りながら考える制度」として推進されてきました。高齢者のケアマネジメントを担う居宅介護支援専門員は、法律制定時には一人もおらず、1998年に初めて試験が実施され9万1269人(合格率は44・1%)の介護支援専門員が誕生しました。その後、合格者数は第2回の6万8090人(同41・2%)、第3回の4万3854人(同34・2%)を経て、第4回〜第20回までは平均2万9000人(合格率平均22・4%)前後で推移していました。

2018年、第21回試験の合格者数が4990人(合格率10・1%)と激減し、多くの介護業界関係者を驚愕させました。この主な原因は、受験資格の厳格化によって受験者数が約60%減少したことと、合格率が過去最低の10・1%にまで落ち込んだことです。

介護支援専門員の平均年齢は約50歳であり、制度の黎明期の合格者が合格者総数の3割強を占めています。また、いわゆる団塊の世代が全て後期高齢者になる2025年には、今以上の介護支援専門員が必要とされることが想定されます。しかし、2018年の合格者数が今後も続く場合、明らかに介護支援専門員が不足することが懸念されます。

質の課題〜介護支援専門員の資質のばらつき

次は質の課題についてです。介護支援専門員は、高齢者福祉に限らず、ソーシャルワークの幅広い知見を持ってケアマネジメントに当たることを期待されてきました。しかし、実際は介護保険制度の帳尻を合わせるように量を拡大してきた経緯もあり、その質の低さが国の審議会でもたびたび指摘されてきました。

国は、介護支援専門員の資質を向上させるために、介護支援専門員実務研修、介護支援専門員専門研修、介護支援専門員再研修、介護支援専門員更新研修の大幅な時間増加等を行い、上位資格である主任介護支援専門員研修、主任介護支援専門員更新研修を新たに導入するなど、さまざまな取り組みを実施してきました。一方で、このような取り組みは、現場の介護支援専門員の時間的・経済的負担をさらに大きくし、現場の疲弊を伴うという側面もあります。

ただ、介護支援専門員の資質のばらつきが根本的に解消されるわけではなく、後述する制度の課題とも相まって、介護支援専門員の俗人的要素が利用者の自立支援に大きな影響を与えるという点で、不安定な状況にあります。

例えば、介護支援専門員は広範な社会関係資本に対する知見をもって、利用者のケアプランの作成に当たることが期待されます。しかし、実際には、インフォーマルな社会関係資本の活用もままならないだけでなく、急場をしのぐために見学もしたこともない介護事業所に、利用をお願いするといったことも起きています。これでは、ソーシャルワーカーとしての介護支援専門員というよりも、単なる介護サービスの代理人です。

この質の課題は、介護支援専門員個人に起因するものと、法律制度から生じる構造に起因するものがありますが、根の深いものとなっています。

スポンサーエリア
おすすめの記事