自治体・地域が潤う官民連携の進め方とは(3)〜解のない地域課題を共に乗り越えるために〜

一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事 小田理恵子

2021/05/07  自治体・地域が潤う官民連携の進め方とは(1)〜若者が定住できる産業振興を〜
2021/05/12  自治体・地域が潤う官民連携の進め方とは(2)〜若者が定住できる産業振興を〜
2021/05/15  自治体・地域が潤う官民連携の進め方とは(3)〜解のない地域課題を共に乗り越えるために〜
2021/05/19  自治体・地域が潤う官民連携の進め方とは(4)〜解のない地域課題を共に乗り越えるために〜


第1回第2回で示した問い「民間企業の事業シーズとなり得る地域課題はどうやって探すのか」「官民連携事業で地域に価値を提供するにはどうしたらよいのか」について、自治体の事例を紹介する。

3月28日に開催した福島県磐梯町と一般社団法人官民共創未来コンソーシアムの共催イベントにて、磐梯町の佐藤淳一町長、埼玉県横瀬町の富田能成町長、神奈川県鎌倉市共創計画部の比留間彰部長から、それぞれの官民共創と今後の課題についてお話しいただいた。

官民連携分野ではトップランナーと言える自治体である。彼らの話に、これからの官民共創のヒントがちりばめられていたのでこの記事で取り上げたい。

官民連携のトップランナー・3自治体の事例

横瀬町・鎌倉市・磐梯町の代表者がパネルディスカッションをおこなったイベント「ばんだい宝ラボ」
パネルディスカッションの様子

 

◇若手起業家が集まる町〈横瀬町〉

まず横瀬町。秩父地域の自然と伝統文化の豊かなエリアで、都心から70キロ、東京・池袋から特急で73分という程よい距離にある自治体である。

しかし、横瀬町は消滅可能性都市の一つであり、1990年代には1万人いた人口が現在は約8000人まで減少している。20年後にはさらに3分の2まで減少する見込みであり、町の最大の課題が人口減少であるとのこと。

富田町長は、こうした未来を変えるため、今までとは違うやり方・新しい方法論・戦略を取るべきだと考え、まちをオープンにしてヒト・モノ・カネを呼び込む官民連携プラットフォーム「よこらぼ」を2016年に立ち上げた。民間からのプロジェクト提案のハードルを限りなく下げ、「面白いことをしたければ横瀬町へ」と、門戸を広げた取り組みである。

 

よこらぼでは、毎月民間から提案を受け付ける。毎月審査会を行い、一定評価を得たプロジェクトの中から町長が採択する。

2016年からの4年半で提案総数は156件、採択数は90件にも上る。90件の中身は千差万別である。最先端技術の実証実験もあれば小さなイベントもある。地元若者の提案もあれば、大学や上場企業、スタートアップからの提案もある。

こうした取り組みが功を奏し、イノベーション人材や若者を中心に横瀬町の認知度は上がり、横瀬町に人が集まるようになった。

筆者がSNS(インターネット交流サイト)で横瀬町に関する投稿をすると、若手起業家などから「自分も横瀬町に通っている」「横瀬町は面白い」というコメントがつく。新聞やテレビなどのメディア登場回数も、4年前は年間100件程度であったものが、直近10カ月で250件を超えるという。

さらに人口動態にも変化の兆しがあるという。現在の人口はよこらぼ創設当時の想定の戦略人口を上回り、合計特殊出生率が埼玉県2位に浮上した。関係人口を増やし、定住者を増やしていくことが目標だが、まず認知してもらう必要があるという初期目標は達成した形である。

 

横瀬町は、官と民の入り口部分、接点の仕組みづくりから始めた例である。横瀬町を訪れた企業や若者は、町長や職員、住民と膝詰めで対話をし、時には夜通し飲み明かすなどして、高密度な人間関係が出来上がっている。

 

 

◇連携相手として魅力的な街〈鎌倉市〉

鎌倉市は、古くから官民連携を積極的に推進してきた自治体である。そのルーツは市民活動にあり、1915年に別荘自治体からさらに住みやすい街にしようという鎌倉同人会が発足して以来の歴史を持つ。

そしてその市民活動は2020年から「市民活動4・0」として新しいフェーズへと移行した。カマコン・リビングラボ・ファブラボなど日本初、黎明期に鎌倉で育った活動は枚挙にいとまがない。そして、そうした市民活動に合わせて行政も進化し続けている。

昭和の「お上意識」から、平成の「市民はお客さま」という時代を経て、令和は共に汗をかく「共創」の時代であると位置付け、市民のみならず民間企業とも共創の取り組みを進めている。

「市民活動に支えられた歴史的背景に加え、急激な人口減少や気候変動による災害の激甚化やコロナ禍など未曽有の課題への対応は、行政のノウハウのみでは不可能だという認識がある」と比留間部長は言及されていた。

こうした背景から、鎌倉市では多くの民間企業と連携協定を締結してさまざまなファーストモデルを手掛けてきた。民間企業で「官民連携でどこの自治体と組みたいかといえば鎌倉市である」という声は多い。

筆者の所にも鎌倉市と連携協定を結びたいと名指しで相談してくる企業が少なくない。民間から見て、官民連携相手として魅力的な自治体であるとの認識を得ている形である。

 

 

    ◇オープンイノベーションの一つの解〈磐梯町〉

    磐梯町は、人口3350人、会津磐梯山の山麓にある町である。2019年に佐藤町長が就任して以降、怒濤の勢いで改革を進めている。

    佐藤町長は、「町民全員を幸せにする・誰一人取り残さない共生社会の実現」を町のミッションに掲げており、官民共創の取り組みも、このミッション実現のために推し進めている。

    今までは地域課題を行政主導で解決してきた。これからは住民それぞれの課題を住民と協働で解決していくことが必要であるが、行政・住民ともノウハウがないので今までの仕組みでは難しい。それ故企業・団体とも一緒に町づくりを進めていくというのが佐藤町長の考えである。

     

    町の課題を解決する仕組みとしてデジタル変革を進める一方、町の魅力を引き出す官民共創の仕組みとして「ばんだい宝ラボ(たからぼ)」を立ち上げた。ばんだい宝ラボは、町内外問わず人や企業や団体が磐梯町でアクションを起こしやすいよう町が公認し応援する仕組みである。

    よこらぼと同様、オープンイノベーションを町が後押しするもので、地域内外の人・モノ・カネを循環させることを目的とした仕組みである。

     

    ばんだい宝ラボならではの点としては、活動主体として複数の仕事を持つパラレルワーカー、働く場所を固定しないノマドワーカーを意識しており、そのためオンラインでのコミュニケーションが可能であることと、磐梯町のみならず首都圏側(東京・渋谷)に活動拠点を設けていること、そして活動を支援する磐梯町に民間の共創人材が複数存在することが挙げられる。

    コロナ禍で加速したオンライン、パラレルワーク、多拠点化という時代性を捉えた、ウィズコロナ、アフターコロナ時代のオープンイノベーションの一つの解であると言えよう。

    佐藤町長は星野リゾートでの勤務経験を活かし、経営視点での行政運営を実施している。明確なビジョンと戦略に基づき迅速な意思決定で物事を進めていくさまは、行政というより民間企業を見るようである。

     

    第4回に続く)


    【プロフィール】

    小田理恵子(おだ・りえこ)
    一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事

    神奈川県在住。大手SI企業にてシステム戦略、業務プロセス改革に従事。そこで手がけた自治体の行政改革プロジェクトを契機に地方自治体の抱える根深い課題を知る。未来の行政のあるべき姿を追求するため2011年より川崎市議会議員を2期8年務め、行財政制度改革分野でのさまざまな提言を行う。2020年、一社)官民共創未来コンソーシアムを立ち上げる。自治体と企業を繋いで、地域を都市と繋いだ価値循環の仕組みを支援。

    スポンサーエリア
    おすすめの記事