椎名つよし法律税務事務所 代表弁護士株式会社メディアドゥ(東証1部上場)監査役
福島県磐梯町デジタル変革審議会 会長2021年度神奈川県包括外部監査人・椎名毅
(聞き手)株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴
2021/06/14 地方自治体はトライアンドエラーで独自の行政運営を(1)
2021/06/17 地方自治体はトライアンドエラーで独自の行政運営を(2)
福島県磐梯町は、人口約3500人の小さな基礎自治体だ。今や日本中の自治体が抱える少子高齢化の課題にこの町も直面しており、限られたリソースの中で住民ニーズを満たす行財政運営が急務となっている。
そんな中、磐梯町は2020〜27年度にかけて、「自分たちの子や孫たちが暮らし続けたい魅力あるまちづくり」を基本理念とした長期的な総合計画を策定。その中の一つとして、「行政運営の効率化や住民の暮らしやすさにつながる手段として適切であれば、テクノロジーも使う」という考え方の下、住民の価値に重きを置いたデジタル変革を進めている。
今回インタビューをしたのは、磐梯町デジタル変革審議会の会長として活動する椎名毅氏。
各分野の有識者が全国各地からオンラインで集って議論するという、まさにウィズコロナ時代を象徴するような審議会の運営方針について、弁護士であり、元国会議員として国と地方との関係性という観点から地方自治の在り方を検討してきた経験を持つ椎名氏に、その意義や根拠となる法解釈を聞いた。(聞き手=Public dots & Company 代表取締役・伊藤大貴)
従来の審議会の役割を捉え直す
伊藤 まず伺いたいのが、審議会をオンラインで行うことのメリットです。今まで審議会と言えば、有識者がリアルに集まって行うのが当たり前でしたが、これがオンラインになることで何がどう良くなるのでしょうか?
椎名氏 まず自治体側のメリットとしては、遠方にいる有識者の力も借りやすくなるという点です。
従来のオフラインで行う審議会は、有識者が依頼元の自治体に実際に移動を伴って出席しなければなりません。そのため、仮に、遠方に知見を借りたい有識者がいたとしても、宿泊費なども含めた謝礼と自治体の予算とのバランスが取れないことが多く、そもそも検討の俎上に上がらないケースがほとんどでしょう。オンライン参加が可能であれば、この問題が少しは解消されます。
他方で有識者からしてみても、地方の自治体から参考意見を聞きたいと言われた場合、たとえ協力したいと思っても、移動などにかかる時間制約を考えるとお断りせざるを得なかったものが、オンラインを活用するのであれば、自らのオフィスや研究室などから審議会への参加が可能になります。
そうすると、移動時間などを考慮することなく、ひと月に2時間程度、出席するだけの時間を確保すればよくなりますので、自治体と柔軟に関わることができます。
実際、磐梯町のデジタル変革審議会はオンラインが前提の組織ですから、委員の方は関東圏に住んでいたり、多拠点居住をされていたりするなど、出身属性も多様性を備えています。
伊藤 「オンライン審議会という形が果たして許されるのか?」と、疑問を持っている方は多い気がします。椎名さんは元国会議員という立場と、弁護士という立場の両面から地方自治を見ることができると思うのですが、磐梯町のオンライン審議会をどのように捉えているのですか?
椎名氏 磐梯町のオンライン審議会は、「従来の審議会の役割を捉え直す」という意識で運営しています。
従来の審議会の役割とは、「議会に提案する条例案や行政計画を行政が決定するためのお墨付きを与える機関」という意味です。
磐梯町デジタル変革審議会は、もちろん行政計画に準ずるデジタル変革戦略の改定などに関する意見交換や最終的な承認をするというオフィシャルな役割を持ちますが、それだけではなく、担当部局であるデジタル変革戦略室の職員の「壁打ち相手」としても機能しています。
職員の方々が町のビジョンを達成するためのアイデアを出し、審議会側が持つナレッジ(知識)を返す。このように、最終的なアウトプットの形になるよりはるかに初期の段階から双方向のコミュニケーションを繰り返し、重層的な意見交換をする組織でありたいと思っています。
そもそも、地方自治の本質的な機能と役割の一つに、先導的・試行的施策の実施(行政的実験の実現)という点が存在します。
地方分権一括法(2000年4月施行:地域の自主性や自立性を高めるための改革を総合的に推進する目的で、国から地方公共団体、または都道府県から市町村への事務・権限の移譲や、地方公共団体への義務付け・枠付けの緩和等を行ったもの)によって、国と地方が対等になった以上、地方自治体は自治事務について独自の裁量で行うことが可能なはずです。
本来であれば、この観点から、基礎自治体は、住民ニーズを一番身近で敏感にくみ取り、適宜的確に対応して先導的、実験的な取り組みを行うことができます。
しかし、実際は、都道府県や国へ確認を取りながら、右に倣えの統一的な運営をしている基礎自治体も多いように思います。ただ、それを続けていては、地域の独自課題を解決するアクションをなかなか進められないでしょう。
そのため、磐梯町は、佐藤淳一町長の旗振りの下、自らの自治体経営において法の範囲内で可能な、先行的な地方自治の在り方を事例としてつくり上げていくチャレンジを行うと決定しました。
デジタル変革審議会は、もう一つの官民共創・複業・テレワーク審議会と共に、行政のチャレンジを後押しする役割を負っています。
オンライン審議会の法的整理
伊藤 オンラインで審議会を行うに当たって、法律的な壁はないのでしょうか?
椎名氏 地方自治における審議会の根拠法は地方自治法第138条の4第3項です。
そこには「普通地方公共団体は、法律又は条例の定めるところにより、執行機関の附属機関として自治紛争処理委員、審査会、審議会、調査会その他の調停、審査、諮問又は調査のための機関を置くことができる。ただし、政令で定める執行機関については、この限りでない」とあります。審議会の在り方は、基本的に条例事項で、細かい運用についての定めは特にありません。
そのため、自治体が、自らの定める条例などで「審議会をオンラインで行う」と定めればいいのです。磐梯町デジタル変革審議会では、オンライン開催を前提に設置要綱を作って運営しています。
国会、都道府県議会、市町村議会、委員会など各種議会のオンライン化を検討する際、最大の課題は議員、委員会の委員などの「出席」要件です。
議員が国民代表や住民代表などとして、国民意思・住民意思を反映して意見表明をする民主主義の根幹とも言える行為が法案や条例案への賛否の投票ですが、法律上(国会については憲法上)、出席議員のみが議決に参加することができるものとされています。
オンラインで会議に参加している者だけによる採決や、オンラインで会議に参加している者と議場に現在している者を交えて行う採決は、投票し忘れなどによる定足数を下回ること、オンラインと議場での投票の二重カウント、代理投票などさまざまな可能性が考えられるため、これを認めることはできません。そのため、現状は、議場に在席する議員が投票するオフラインの方法を採用せざるを得ません。
翻って、採決を伴わない部分に関しては、オンラインで開催することに問題は少ないと言えます。例えば、議会での議論はオンラインで行い、最終的な採決は議員が議場に在席して行うなど、オンラインとオフラインの使い分けをすることで、かなりのことをオンラインで実現できます。
なお、2020年4月30日には、総務省からも、地方議会の委員会をオンラインで開催することについては差し支えない旨の通知が出されています。
これに対して、審議会自体は執行機関の付属機関にすぎません。民主主義の根幹とも言える議会ほどの厳密さを持つと捉える必要も特にないと考えますので、オンラインで運営することは十分合理的です。
伊藤 磐梯町デジタル変革審議会の設置要綱には、具体的にどのような記載がされているのですか?
椎名氏 要綱の第6条に、次の通り、審議会への委員の出席方法に関する定めがあります。
「審議会の会議は、町長が招集する。
2 審議会の会議は、委員の半数以上が出席しなければ開くことができない。
3 審議会の会議へ、オンラインによる出席を認める。
4 審議会の議事は、出席した委員の過半数をもって決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。」
この要綱に対し、要綱ではなく条例で定めるべきだとか、より良い書きぶりがあるのではないか、などの検討は今後なされるべきでしょう。
しかし、この設置要綱は、磐梯町の行政が住民代表である議員と全員協議会などの機会を通じて事前協議を行った上で、その裁量で審議会の運営方法を定めた条例に準ずるルールです。そして、実際に、審議会をオンライン化したことで、オフラインであれば参加が叶わなかったであろう多様な有識者が、多様な場所から集うことが可能となりました。
地方分権一括法による国と地方の対等・協働関係の考え方を前提にする限り、基礎自治体が自らの裁量の下で審議会の運営方法を定めている以上、国としては、これをことさらに問題視をすることはできないでしょう。
条例事項である審議会運営に関して国が関与し得るのは、法的拘束力のない「技術的助言」(地方自治法第245条の4第1項)程度ではないかと思います。
(第2回につづく)
【プロフィール】
椎名毅(しいな・つよし)
福島県磐梯町デジタル変革審議会 会長
椎名つよし法律税務事務所代表弁護士。東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。主に企業法務に従事。2009年ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに留学。同大学院在学中、コロンビア大学国際公共政策大学院に再留学し、2011年両大学院から公共経営学修士(MPA)を取得。同年いわゆる国会事故調査委員会で福島第一原子力発電所事故の事故報告書作成に従事。衆議院議員の経験も持つ(1期)。
伊藤大貴(いとう・ひろたか)
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。