「ワーケーション」にどう向き合っていくべきなのか?(前編)

一般社団法人日本ワーケーション協会特別顧問
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム理事
元総務省大臣官房サイバーセキュリティ・情報化審議官
箕浦 龍一

2021/07/27  「ワーケーション」にどう向き合っていくべきなのか?(前編)
2021/07/29  「ワーケーション」にどう向き合っていくべきなのか?~(後編)


 

新型コロナウイルス感染症の影響によって、国際的に経済社会生活のあらゆる面に大きな変化が生じました。その中には、感染症流行期における一時的なものもある一方で、昨今のICTを始めとするテクノロジーの進化や市民の生活習慣や社会像・価値観の変化も前提とした不可逆的な変化もあるように思います。

そのような中、一昨年(2019年)になって、「テレワーク」や「ワーケーション」という用語が巷間をにぎわしています。官公庁も含め、多くの組織では感染拡大防止のためにオフィスに出勤しない形での「テレワーク」の実施が推奨されるとともに、感染症リスクと共存する中での新しい旅の形としての「ワーケーション」が注目され、政府の各種方針にも位置付けられるなど、期待が高まっています。

筆者は、このような情勢を、感染症に留まらない諸環境の変化を前提とした不可逆的な動向と捉えています。本稿では、このような変化を、自治体がどう捉え、地方創生にどうつなげていくのかの視点を概説します。

テレワーク及びワーケーションの定義

テレワークは、通常のオフィスを離れた場所で仕事をすることを意味する概念(働く=Workという語に離れるという意味の接頭語=teleを組み合わせた複合語)です。

今回の感染症対策として在宅勤務が推奨されたが故に、自宅で仕事をすることと矮小化して理解する向きもありますが、自宅以外でも、コワーキングスペースなどのサードプレイスやカフェ・レストラン、ホテル、移動中の列車の中など、様々な場所で行われる形態があり得ます。

 

テクノロジーの進化は、かつて仕事の拠点に集約されていた様々な業務に必要な情報(文書・データ)やツール(電話・Fax)をモバイル端末で携帯することを可能としてくれました。この結果、従来拠点であるオフィスでしか処理できなかった仕事が、今やリモートで場所に囚われずに行うことができるようになりました。

このことで、従来は仕事との関係で制約された「居場所」の制約から人々は解放されているのです。このような変化は、実は技術的には携帯電話やインターネットの登場によって実現可能な環境にあったと考えられます。

 

一方、「ワーケーション」は、必ずしも定まった定義はないのですが、英語の「work」と「vacation」の複合語とされ、旅行先でも仕事をするというビジネススタイル・ライフスタイルを指す言葉として用いられることが多いと考えられます。アルファベットでの表記もWorkcationworkationworcationなど、様々な形がみられます。

ワーケーションにおける「Work」の要素は、通常のオフィスを離れての仕事という意味において、まさにテレワークの一形態と考えられます。

 

テレワークが可能な技術環境が整ったことで、実は、同時に、旅行の日程についても、仕事の時間・場所の制約から解放されたと考えることができると思います。つまり、「旅行先でも仕事ができる」という前提が、以前よりも柔軟に旅程を弾力的に設計することを可能とし、働き方の可能性と、旅行の可能性を、ともに広げていると捉えることもできるでしょう。

ワーケーションの形態

ワーケーション

※ワーケーションのイメージ(一般社団法人日本ワーケーション協会公式サイトより引用)

 

ワーケーションと一口に言っても、実施主体としては、企業・組織が主導して行われるもの(組織主導型)と個人ベースで行われるもの(個人参加型)に大別できるでしょう。

このうち、組織主導型は、従来型の「出張」の進化系と捉えることが適当ですし、企業・組織の出捐によって行われる業務旅行である以上、その目的は、基本的には、業務に直結(会議出席、営業、商談など)又は付随するもの(研修、CSR活動など)に限定されるはずです。

(なお、福利厚生的な目的で企業・組織がワーケーション経費を負担する場合は、あくまでも旅行の計画を立案するのは個人がベースとなることから、個人参加型として認識するのが適当と思います。)

 

ICTの進展によってテレワークが可能となった現代においては、「出張」の主目的である仕事に加え、従来オフィスで行われていた業務(会議も含む。)も旅行先で行うことができるようになりました。このことは、出張先での生産価値を高める一方で、弾力的に旅程を考えることができるようになりました。このことは、旅行の受入地域側にとっても、新たな可能性を生み出しているのではないでしょか。

 

一方で、個人参加型については、旅行先の選択などの旅行の計画を個人が立案するという点で、従来の個人旅行と大差はないと思います。

ただし、最近の傾向としては、テレワークという選択肢によって、仕事の都合に縛られずに旅行計画が立てられるようになったり、転地を行うことで非日常感を味わえ、気分転換やリフレッシュ、人との偶発的な出会いなど、生産性を高めたり、創造性を刺激したり、精神的に豊かな時間を過ごせるなどの側面が、重視されるようになっていると思います。

 

旅先でどの程度仕事を行うかに関わらず、スマートフォンやタブレットなど様々なデバイスを常に携帯しながら移動先でもネットワーク環境を利用する行動様式が常態化している現代においては、電源やWi-Fiの提供など、観光受入れについても、旅先でもワークが行われうるという人びとの行動の変化を捉えたリデザインされることが必要と考えられます。

 

「後編」につづく


【プロフィール】

箕浦 龍一(みのうら・りゅういち)
一般社団法人日本ワーケーション協会特別顧問
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム理事
元総務省大臣官房サイバーセキュリティ・情報化審議官
箕浦龍一

元総務省大臣官房サイバーセキュリティ・情報化審議官、一般社団法人日本ワーケーション協会特別顧問、一般社団法人官民共創未来コンソーシアム理事。行政管理局時代に取り組んだオフィス改革を中心とする働き方改革の取組は、人事院総裁賞を受賞(両陛下に拝謁)。 中央省庁初の、基礎自治体との短期交換留学も実現するなど若手人材育成にも取り組んだ。幅広い人脈を生かし、働き方、テレワーク、食と医療など様々プロジェクト・コミュニティに参画する。

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