京都市与謝野町長 山添藤真
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子
2022/09/26 まちの新産業を「デザイン」で創出~山添藤真・京都府与謝野町長インタビュー(1)~
2022/09/29 まちの新産業を「デザイン」で創出~山添藤真・京都府与謝野町長インタビュー(2)~
2022/10/03 次世代に継承できる、小さくとも誇り高いまちを~山添藤真・京都府与謝野町長インタビュー(3)~
2022/10/06 次世代に継承できる、小さくとも誇り高いまちを~山添藤真・京都府与謝野町長インタビュー(4)~
1人の住民のアイデアが新産業に
小田 ここからは、新産業として取り組まれているホップ栽培とビール醸造について掘り下げていきます。ゼロからイチを創ることを決断するのは非常に勇気が要ることですが、ホップ栽培に踏み切った経緯を教えていただけますか?
山添町長 おっしゃる通り、新しい産業を興すことは非常に難しいと私も認識しています。ホップ栽培とビール醸造についても、形になるまでに7年を要しました。
では、なぜ決断したかというと、与謝野町の地場産業の発展の歴史に希望を見いだしたからです。特に織物業(丹後織物業)は約300年間、この地に根差していますが、始まりは数人からでした。意欲のある若い人たちが京都で織物の技術を学び、この地に持ち帰って汎用化を目指した結果、今があります。
最初は本当に小さな動きです。しかし、そこからいろいろな努力を重ねて爆発的に広がり、産地形成に結び付いた事例が既にこのまちにはあります。ですから、ホップ栽培についても同様の展開ができるのではないかと考えました。実はホップ栽培は、ある1人の住民からの提案で事業化に踏み切ったのです(写真2)。
小田 そのエピソードは驚きです。とはいえ、本格的に事業化するとなると幾つかのステップを踏む必要があると思いますが、具体的にどう進めていったのでしょうか?
山添町長 強い産業として定着させるためには、根幹の部分から整える必要があります。まずは3年かけてホップの試験栽培を行いました。その結果、与謝野町の戦略的な農作物として一定の有用性を確認することができたため、農家の皆さんに提案を続けて参画いただき、作地面積と収穫量を上げていきました。ホップ栽培がまちに定着したのは、ひとえに農家の皆さんの努力のおかげです。
次にホップを活用し、どう産業に転換していくかを考えるフェーズ(段階)ですが、町内で6次産業化できるかがポイントとなりました。そこでビールの醸造所をつくるという話につながります。今年度に着工予定のビール醸造所は、Uターンして来た若い経営者によって計画されているものです。
その他にも醸造所をつくりたいという問い合わせを幾つか頂いています。これからの数年間で、町内に複数のビール醸造所が立地する可能性があるところまできました。第1段階として、ホップの生産は一定程度、定着させることができました。
そして今年度、次のステージである6次産業化まで、何とか目星が付けられていることは本当に大きな成果だったと思っています。今後はこれをフックに、もしかしたら水平的な展開がもっとできるかもしれないという希望を持っています。
小田 今のお話から新産業を創出することの難しさと、形になるまでには一定の時間がかかるということが、読者に伝わったのではないかと思います。最近は与謝野町と同じように、首長のリーダーシップで6次産業化まで意識した上で、新しい作物栽培に挑戦する事例が増えてきました。これは新しい流れだと思います。
山添町長 その流れは私も感じています。これまで地域活性化のアイデアとしてよく取り上げられていたのは、例えば人と人をつなぐイベントであるとか、そんな場を拠点として設け、継続的に人を呼び込むことなどでした。今後はもっと地域の産業構造を理解した上で、源流からつくり上げていく流れがトレンドになるかもしれません。
小さな可能性にこそチャレンジ
小田 これからの時代、首長は経営者とイコールになってくると思います。地域の産業や事業に対する首長の理解度は、その地域の運営に大きく影響するのではないでしょうか?
山添町長 やはり、原材料から作ることのできる産業がまちにあることは強みになります。ブランディングできるからです。そういう視点で捉えると、首長が地域の産業構造を理解し、次の一手を打てることは重要でしょう。
話は変わりますが、ホップ栽培とビール醸造に取り組む中で気付いたことがあります。それは、輸入に頼っていた物を代替できる地域産業も、伸び代があるのではないかということです。
ホップで言えば、国内のビール醸造で消費されるもののうち、約90%が輸入です。絹織物の原材料である繭に至っては約99%が輸入です。このように、今まで輸入に頼っていた物を代替することを考えると、いろいろな可能性が見いだせるのではないかと思います。
小田 私はこれまで多くの首長とお話しする機会に恵まれましたが、山添町長をはじめ、産業改革に積極的に着手している方には共通して、都市経営のセンスやマインドがあります。これは縮退社会を運営していくリーダーの要素として、必須なのではないかと思います。
山添町長 私もこれまでたくさんの方々とまちづくりについての会話をさせていただきましたが、よく頂く質問に「与謝野町の『課題』は何か?」というものがあります。確かに現状の課題を把握し、それを解決することも大切なのですが、同時に小さいながらもまちに秘められた可能性や、これから伸びていきそうという潜在性に着目できるかどうかも重要な要素だと思います。
さらにそれを政策化し、拡大する手腕も重要です。与謝野町のホップ栽培とビール醸造の事業は1人の住民の提案から始まりましたが、そういった小さな可能性に対し、ポジティブに受け止めてチャレンジしていく姿勢が首長自身にあるかどうか。私が感じるリーダーの要素とは、このようなものです。これからも体現していきたいと思っています。
小田 課題解決もさることながら、芽吹き始めた小さな可能性に着目するという姿勢は、創造的な価値を生み出す土台になります。山添町長はそれに対して大胆にチャレンジしつつも、時には住民や職員の後方に立つなど、柔軟なリーダーシップでまちづくりを進めてこられたのですね。
次回は、小規模自治体ならではの資源配分をめぐる課題や、住民への働き掛けの在り方などについて伺います。
(第3回に続く)
【プロフィール】
京都府与謝野町長・山添 藤真(やまぞえ とうま)
1981年京都府生まれ。2004年フランス国立建築大学パリ・マラケ校に入学。06~08年フランス国立社会科学高等研究院パリ校に在学。10~14年京都府与謝野町議。14年与謝野町長に就任し、現在3期目。