「方向付け」のリーダーシップ〜宮下宗一郎・青森県むつ市長インタビュー(4)〜

青森県むつ市長 宮下宗一郎
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2022/11/22 市民のポケットにいつも市政を〜宮下宗一郎・青森県むつ市長インタビュー(1)〜
2022/11/24 市民のポケットにいつも市政を〜宮下宗一郎・青森県むつ市長インタビュー(2)〜
2022/11/28 「方向付け」のリーダーシップ〜宮下宗一郎・青森県むつ市長インタビュー(3)〜
2022/12/02 「方向付け」のリーダーシップ〜宮下宗一郎・青森県むつ市長インタビュー(4)〜

政策が形になるまでの過程

小田 一つ一つの政策が形になるまでの経緯について伺います。初めは宮下市長から発案されるのでしょうか? それとも職員との対話の中からアイデアが生まれるのですか?

宮下市長 きっかけは私からの方が多いですが、そのきっかけをつくってくれるのは職員や外部の方たちとのコミュニケーションです。例えば前回お伝えした「まさかり高校プロジェクト」は、東大とつながりがある方に私がむつ下北エリアの学力課題についてお話ししたのがきっかけでした。こういう展開があるので、日頃から多くの方と会話し、ネットワークをつくることを心掛けています。

 

小田 そうして生まれたアイデアを形にするのは皆さんで?

宮下市長 そうですね。皆で考え、皆で仕上げていきます。とはいえ、いきなり理想の状態が達成されることは少なく、常に世の中の変化を捉えながら柔軟に対応することの方が多いです。

例えば、ふるさと納税額は就任当初に比べて20倍になりましたが、これも試行錯誤しながら進めてきました。「産業のプラットフォームになるはずだから伸ばす」と、目的を市役所内で共有するところから始め、担当部署をつくり、市内を駆け回って返礼品となる商品を探しました。納税額が伸び悩んだときは、コマーシャルの強化やウェブサイトを増やすなどして認知度の向上に努めました。

このように、常に皆で考えながら動くことが基本になっています。

 

首長に必要な要素と役割とは

小田 これまでのお話から、宮下市長が市民や職員と親しみのあるコミュニケーションを続けて信頼関係を構築し、組織づくりや政策に生かしている様子が伝わりました。最後に、宮下市長が考える「これからの時代に必要な首長の要素」と「行政の役割」について伺います。

宮下市長 これからの時代に必要な首長の要素は、明確にリーダーシップそのものだと思います。

私が考えるリーダーシップとは「方向付け」です。理想の将来像をしっかりと描き、そこに向かって進むと自信を持って宣言し、やり切ることです。そのためには相応の論理性、リーガルマインド(順法精神)、直感力が備わっていることが大切だと思います。常に自分の頭でバックキャスティング(逆算)して考え、今取り組むことの優先順位を付けていく必要があります。

個人的には「動向を注視して」「国や県の意向に従う」と頻繁に発言する首長は、それができていないのではないかと思います。確かにそう言わざるを得ないシーンもありますが、基本的には地域の未来に対する自分の考えと行動指針を、歯を食いしばって貫くのが地方自治の姿だと思います。

 

小田 明確かつ決意のこもった言葉ですね。自身の首長としての役割をどう捉えていらっしゃいますか?

宮下市長 課題を解決するため、外部から何かを引っ張ってくる役割ですね。それはお金のときもあれば、人脈や新たな制度のときもあります。やはり皆が課題だと思っていることを解決できる首長でありたいと思っています。ですから市民の声をとにかく聴き、そこから浮かんできた課題を解決に導くことが私のモチベーションです。

 

小田 「行政の役割」についてもお聞かせ願えますか? 私は官民連携をサポートしていますが、行政が担い切れない部分を民間委託やオープンイノベーションで対応していくと、最後に行政に残るものは何かと考えることがあります。

宮下市長 「誰も手を差し伸べていない困りごと」を解決することではないでしょうか。例えば最近、盲導犬ユーザーが市に要望を出されました。全盲でも金銭的な理由で盲導犬を利用できない方に補助をお願いしたいとの内容でした。同じ状況の方は市内に何人いるのかをお尋ねしたところ、数人とのことでした。こういう場合は行政が速やかに補助を行えば、困りごとは解消されるわけです。

 

このように「誰も手を差し伸べていない困りごと」が見つかったら、その都度解決していくのが行政の役割ではないかと思います。大多数が該当する、例えば子ども医療費無償化のような事案だと、速やかに手を打つとはいかないかもしれません。少子化対策はなぜ必要か、その先にどんな日本があるのかといった哲学を示した上で、長期的に取り組む必要があります。

 

しかし、やはり根底に流れているのは「目の前の困りごとの解決」です。私は、官民連携の役割は「気付かせること」だと思っています。まだ解決していない目の前の課題を、行政と民間のどちらが担うのか? その答えは自治体によって異なります。感性の高い首長がいる自治体であれば、行政が担うかもしれません。

反対に、ビジネスにたけた人材がいる地域であれば、民間が担うかもしれません。このように、行政も民間も自らの役割に気付きながらうまく機能するようになっていくと、良い地域、ひいては良い日本になるような気がします。

 

小田 リソース(資源)は少なくなる一方で、やはり中心に置くべきは「どうしたら皆が幸せに暮らせるか?」という問いだということですね。

宮下市長 おっしゃる通りです。繰り返しますが、私たちの仕事は「誰も手を差し伸べていない困りごとの解決」です。無視しない。常に「自分ごと」だと思いながら解決すると宣言し、実際に取り組むことです。

 

【編集後記】

宮下市長が最後におっしゃった「常に自分ごとだと思いながら」という一言に、首長としての姿勢が凝縮されているような印象を受けました。まるで家族のように職員と接し、自らの人生のようにまちの将来を捉えることで、「方向付け」のリーダーシップは発揮されるのでしょう。

情報がオープンなむつ市政の様子は、公式ユーチューブなどで確認できます。縮退社会における自治体運営の模範として、多くの学びが得られることでしょう。

 

(おわり)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2022年10月24日号

 


【プロフィール】

青森県むつ市長・宮下 宗一郎(みやした そういちろう)

1979年生まれ。東北大法卒。2003年国土交通省に入り、都市局まちづくり推進課長補佐、土地・建設産業局建設業課長補佐、ニューヨーク総領事館政務/経済部領事などを歴任。14年6月青森県むつ市長に就任し、現在3期目。

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