秋田県横手市長 髙橋大
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子
2023/11/29 政治は結果がすべて、まちづくりは道半ば~髙橋大・秋田県横手市長インタビュー(1)~
2023/12/01 政治は結果がすべて、まちづくりは道半ば~髙橋大・秋田県横手市長インタビュー(2)~
2023/12/05 「ピンチの常態化」は「チャンスの常態化」~髙橋大・秋田県横手市長インタビュー(3)~
2023/12/08 「ピンチの常態化」は「チャンスの常態化」~髙橋大・秋田県横手市長インタビュー(4)~
大雪は絶好の観光ツール
小田 冬季は積雪で農業ができない横手市ですが、その代わりに雪を観光資源として、まちを盛り上げる取り組みをされていますね。
髙橋市長 やはり雪国以外にお住まいの方には、雪が魅力的に映ります。海外の方にも人気で、特に東南アジアからの観光客は雪景色を見ると大喜びします。これは絶好の観光ツールであると捉え、魅力を発信しています。
小田 毎年2月15、16日に開かれる「かまくら」を主役にした「横手の雪まつり」の風景は幻想的です(写真)。人が入れる大きさのかまくらが市内に80基ほどできるそうですが、見た人は感動するでしょうね。
髙橋市長 かまくらは、どこでも作れるものではありませんからね。パウダースノーが降るような高地では、積雪が多くても雪が固まりません。水分を多少含んだ雪が圧倒的に降ることで作れるのです。横手はそんなコンディションの雪が、市街地に2㍍近く降ることもあります。そう考えると、稀有な場所ではないかと思います。
(写真)「横手の雪まつり」の幻想的な風景(出典:横手市公式フェイスブック)
小田 「積雪の多い地域」と聞くと山間部が思い浮かびますが、横手市のような市街地でそこまで積もるのは珍しいですね。
髙橋市長 欧州のスキーリゾートも多くは山間部にあります。横手市のような盆地の市街地にこれだけの雪が降る光景は、国内でも海外でも珍しいと思います。観光や視察で市外からやって来た方は、雪景色を見るや否や「おぉ……」と声を上げることが多いです。圧倒的な雪の量は感動につながるのだろうと思います。
小田 横手のかまくらは、かなり歴史があると伺いました。
髙橋市長 約450年の歴史があるといわれる小正月行事です。もともとは、かまくらの中に祭られた水神様におさい銭を上げ、家内安全や商売繁盛、五穀豊穣などを祈願する行事でしたが、現在は観光としても楽しまれるようになりました。
かまくらの歴史の長さからは、横手の豊かさを思い浮かべることができます。450年前、今よりもずっと不便だった時代にかまくらを作るのは相当な重労働でしょう。そうした文化的なものに労力を割けるということは、心が豊かだった証拠ではないでしょうか。加えて、食べ物をはじめとする物質的な豊かさもあったのではないかと想像します。
冬季は雪で閉ざされる地域ですから、それを乗り越えられるだけの蓄えを秋までに得ておく必要があります。かまくらの文化が今日まで続いているのは、収穫の恵みが相当程度あった証拠でもあります。そうした文化が地域にあるということを市民の皆さんと共に誇りに感じながら、どんどん魅力として発信していきたいですね。
ピンチをチャンスに
小田 横手の雪まつりの来場者数は20年が約29万人、コロナ禍前の15年は約47万人だったそうですね。
髙橋市長 秋田は交通の便という面で見ると、日本で最果ての場所だと思っています。羽田空港へ行くと、乗り継ぎの搭乗口が一番端にあり、北海道や沖縄へ行く便に乗るよりも空港内を移動しなければなりません。そういう位置付けの地域だと捉え、これからも魅力の発信に力を入れていこうと考えています。
小田 髙橋市長の戦略性の高さはもちろん、着実に「リアル」を動かしていく様子がとても伝わってきました。人口減少というピンチを背負いながらも、チャンスに変えられるところは逃さずに手を打っている印象を受けました。
髙橋市長 常にピンチをチャンスにしようと考えています。ピンチが常態化していますから、チャンスも常態化しているということです。そういうふうに捉え、引き続き市政に向き合っていきたいと思います。
【編集後記】
髙橋市長へのインタビューを通じ、地方における「リアルの強み」が何であるか、その重要性や可能性を再認識することができました。そして「デジタル」と「リアル」のバランスを取りながら、地方都市が持つ独特の価値を最大限に活用し、新たな未来を築いていく必要があることを感じました。
「ピンチの常態化」は「チャンスの常態化」という認識には、今の地方都市が抱える課題と可能性の両方が凝縮されているように思います。もちろん、地域によって抱える課題や強みは異なるので、同じような施策の横展開は難しいでしょう。しかし、読者の皆さまは髙橋市長の考えや取り組みから、今後の地方再生に向けたヒントを得ることができたのではないでしょうか。
(おわり)
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年10月30日号
【プロフィール】
秋田県横手市長・髙橋 大(たかはし だい)
1976年生まれ。秋田県十文字町(現・横手市)出身。秋田経済法科大(現ノースアジア大)経卒。東京の商事会社勤務、十文字町議、横手市議を経て、2013年10月横手市長に初当選し、現在3期目。