派閥に属さず市民中心主義の行政を実現~堀内茂・山梨県富士吉田市長インタビュー(2)~

山梨県富士吉田市長・堀内茂
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2024/08/20 派閥に属さず市民中心主義の行政を実現~堀内茂・山梨県富士吉田市長インタビュー(1)~
2024/08/22 派閥に属さず市民中心主義の行政を実現~堀内茂・山梨県富士吉田市長インタビュー(2)~
2024/08/27 「富嶽共創」のまちづくり~堀内茂・山梨県富士吉田市長インタビュー(3)~
2024/08/29 「富嶽共創」のまちづくり~堀内茂・山梨県富士吉田市長インタビュー(4)~

 

期ごとに市政のテーマを決める

小田 2期目以降の取り組みについても詳しくお聞かせください。

堀内市長 2期目では、まちが大きく飛躍する出来事がありました。富士山が世界文化遺産に登録されたことです。市民の皆さんが地域に誇りと自信を持ってくれたことが実感できました。この登録に関しても、多くの方々のご協力を頂きました。

一方で、富士山の噴火に対する不安が大きくなっていた時期でもありましたから、安心感をつくらねばとも考えていました。そこで2期目は市民が安心安全に暮らせるまちづくりに最大限の努力をしました。具体的にはインフラの整備です。これまでは市長が1期で交代することが多かったため、インフラ整備が後手に回っていました。富士吉田市は山に囲まれたまちです。このままでは大災害が起これば孤立化するリスクがありました。そこでいざというときの避難道路を整備しようと、国や県に働き掛け、国会議員の協力も頂き、スマートインターチェンジを二つ作りました。もともと河口湖インターと富士吉田インターがありましたが、それ以外に二つ追加した形です。

また、噴火対策については国に働き掛け、砂防事務所をつくっていただきました。砂防事務所は静岡県側にはすでにあったものの、山梨県側には長らくありませんでした。それをつくることで、噴火に対する減災対策が一気に進みました。安心安全なまちづくりは2期から3期にかけて注力しました。

 

小田 期を重ねるごとに、着実に市民の皆さんの暮らしの質が高まっていますね。

堀内市長 まだ十分とは言い難いですが、着々と進めてきました。1期目は公平公正なまちづくり、2期目から3期目は安心安全なまちづくりがテーマです。4期目に入ると、豊かさを皆で享受できるまちづくり、つまり、稼げるまちづくりに着手しました。「これからは自治体も稼ぐ力が必要だ」と職員に伝え続け、共に手段を徹底的に模索しました。具体的には、ふるさと納税の強化です。

 

小田 富士吉田市はふるさと納税の寄付額が全国ランキングでトップ10に入る自治体です。この成果を得るまでにさまざまな工夫をされてきたのではないでしょうか。

堀内市長 ふるさと納税を開始した当初の返礼品の売れ行きは微々たるもので、全国約1700ある自治体のランキングでは下から数えた方が早い順番でした。4年ほど前からでしょうか、全国ベストテン入りができるようになりました。

始めたばかりの頃の返礼品は、他の自治体と比較するとインパクトがないものばかりでした。例えば、富士山から採れるミネラルウオーターや特産の織物、馬刺しなどです。このようなラインアップでありながら、なぜ寄付額を増やすことができたのかというと、「ふるさと納税のテーマ」を決めたからです。「第二の故郷」というテーマです。ふるさと納税による寄付者には、返礼品と領収書や税控除の用紙を送るのが通例です。富士吉田市の場合はそれだけでなく、地域の子どもたちが描いた絵手紙や、市への招待状を同封しました。それで実際に訪れてくださった方には、地元の名物をご馳走したり、地域の文化に触れてもらうために各所をご案内したりしました。このようなおもてなしの活動に全力投球したところ、一人、また一人とリピーターが現れ、年を追うごとに倍増していきました。その結果、初年度では約300万円の寄付額だったものが15億円、17億円、35億円、50億円、88億円と上がっていったのです。

 

小田 ふるさと納税においても、市長が大切にする「おもてなしの精神」が生かされていますね。子どもたちの絵手紙を同封するというアイデアが面白いです。

堀内市長 絵手紙のアイデアを考えたのは子どもたちです。ふるさと納税の原資は学校のトイレ改修にも使いました。どの学校も築40年以上の建物で、トイレも古びていたからです。せめてトイレだけでも綺麗にしてあげたいとの思いで改修したところ、子どもたちは大変喜び、感謝の気持ちを絵手紙にしてくれました。それをふるさと納税の返礼品に同封して送りました。ふるさと納税の使い道は後に「ふるさと納税ブック」としてまとめ、返礼品と共にお送りするようになりました(写真2)。

寄付金の使い道は特設サイトでも公表されている(出典:富士吉田市ふるさと納税特設サイト)

 

小田 お金が何に使われ、どのように喜ばれたのかが分かると、寄付先のまちに対する愛着が生まれます。まさに「第二の故郷」ですね。

 

自慢は「職員力」

小田 堀内市長は期ごとに大きなテーマを設けて市政運営に取り組んでこられました。1期目は「公平公正なまちづくり」2期目と3期目は「安心安全なまちづくり」4期目は「豊かさを皆で享受できるまちづくり」です。全ての期で着実に成果を出されていらっしゃいますね。

堀内市長 裏側で、職員がものすごく努力をしてくれるからです。特に4期目に注力したふるさと納税は、年々件数が倍増していきました。すると、事務業務がふるさと納税部隊だけでは追い付かなくなります。そこで最盛期には他部署の職員も応援に駆け付け、発送処理などを手伝いました。ふるさと納税の企画を率いたのは女性職員です。現在も女性職員を中心に返礼品の考案や選定を行っており、非常に力になってくれています。今の成果は、職員の努力の賜物です。

 

小田 市長が掲げるテーマは、職員の皆さんの強力なバックアップによって実現しているのですね。

堀内市長 1期目は職員の皆さんに、減給という形で財政再建に協力していただきました。「このままでは富士吉田市がダメになる」という危機感を共有し、覚悟を持って取り組みました。この時に、私と職員の皆さんの間には絆ができたと感じています。2期目以降の政策においても、非常に前向きに取り組んでくれています。

ですから私は、市長会などで市のアピールをする際には「富士吉田市は〝職員力〟が自慢です」と、事あるごとに言っています。それくらい職員の皆さんには感謝をしています。

 

小田 1期目から4期目までの取り組みを振り返るようにお話しいただきました。市民や職員の皆さんとの信頼関係を着実に築きつつ、大胆な財政改革や、おもてなしを重視したふるさと納税の取り組みなど、八面六臂のご活躍ですね。堀内市長の築き上げたものの大きさに感服します。

 

インタビュー後編では、市政の原動力となる組織づくりや、富士山を目の前に有する富士吉田市ならではのまちづくりについて伺います。

 

第3回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年7月1日号

 


【プロフィール】

堀内市長プロフィール写真堀内 茂(ほりうち・しげる)

1948年東京都出身。ホテルオークラ等複数の民間企業に勤務した後、富士吉田市に移住。87年から山梨県議会議員(1期)、その後しばらく政治から離れるも、2007年に富士吉田市長に就任。現在5期目。

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