住民自治により、まちへの誇りを醸成する~片山健也・北海道ニセコ町長インタビュー(3)~

北海道ニセコ町長・片山健也
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事・小田理恵子

 

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2024/12/26 住民自治により、まちへの誇りを醸成する~片山健也・北海道ニセコ町長インタビュー(4)~

 


 

北海道ニセコ町、片山健也町長のインタビュー第3回をお届けします。

近年は「住民主体のまちづくり」が重要視されるようになりましたが、それを具体的な形にしてきたのがニセコ町です。観光協会の株式会社化や、スキー場外の事故防止を目的とした「ニセコルール」の策定は、住民がリードする形で推し進められました。

どうすれば、自律性の高いまちづくり文化をつくることができるのでしょうか。片山町長のお考えや施策を伺いました。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

片山町長へのインタビューの様子

片山町長へのインタビューの様子

片山町長(上)へのインタビューはオンラインで行われた(出典:官民共創未来コンソーシアム)

 

即日決裁、町長不在でも「止まらない」役場

小田 前回のインタビューで片山町長がおっしゃった「権力を集中させず、忖度もない組織づくり」という言葉が印象に残っています。1人の人物のリーダーシップに頼ることは、まちの持続可能性を高めることには必ずしもつながらないと思うからです。事実、首長の交代によって政策が進まなくなる事例をよく耳にします。

片山町長 素晴らしい能力とリーダーシップを持つ首長の方はたくさんいらっしゃいます。しかし、首長に依存するようになっては、まちは持続しないでしょう。私自身は、たとえ私があした死んだとしても、職員が誰一人として困ることがない状態にするのが理想です。

 

小田 町役場では、片山町長が不在のときでも業務が止まらない工夫をされているのですか?

片山町長 決裁権限を副町長や課長も持っています。私が出張で1週間ほど役場を不在にしていても、決裁待ちで業務が滞ることはほとんどありません。

 

小田 決裁権限を下ろしたのですね。

片山町長 副町長と課長による代理決裁の仕組みを導入しました。私の決裁が必要な場合でも後閲承認ができます。

私はかつて物流企業に勤めていた経験があります。港から輸入貨物をトラックで運び出す仕事をしていました。通関手続きを行う前後の作業がタイトでして、スケジュールを逆算して動く必要がありました。

手続きが遅くなるとその後の業務に影響が出ます。税関窓口が開くのがいつもより遅れた場合は、こちらから窓口に声を掛けて急いでもらうこともありました。このように、極力流れを止めずに業務を行うことは民間企業の間では当たり前です。

ところが行政では、決裁を取るのに2日や3日、時には数週間かかることもあります。然るべき理由があれば別ですが、中には「決裁が下りるまでに2週間かかるとあらかじめ伝えているので、それよりも早くしては公平性が保たれない」というような理屈で物事が動かないこともありました。

もちろん、案件によっては決裁までに時間がかかるものもありますが、早められるのであれば一日でも早く決裁をした方が具体的な行動に移せます。

そこでニセコ町では、基本的には即日決裁をする方針としています。職員には「町長がいないから仕事が進まないという状態は一切なくしてください」と伝えています。

 

小田 行政では決裁文書の回覧が行われていることも多いです。ニセコ町はそれを含めてフローを簡素化したということでしょうか。

片山町長 決裁文書の回覧は行っていますが、過去から比べると関わる人数は減らしました。何人もの押印が必要な決裁は、いい意味では「情報共有の精度を上げる仕組み」と言えますが、一方で「責任の所在をうやむやにする仕組み」とも言えます。一人ひとりの責任を薄めることに時間を使うのは本質的ではありません。決裁はできる限り簡素化し、施策を実行に移すことに比重を置いています。

 

小田 決裁に関わる人数を減らすことで、責任と権限がより明確になります。これに対し、職員の方から抵抗は出ませんでしたか。

片山町長 目立った反発はなかったと記憶しています。職員が腑に落ちないままルールが急に変更されると、仕事にやらされ感が出てしまいます。それを防ごうと、様子を見ながら徐々に決裁の簡素化を進めていきました。職員が納得感を持って仕事をすることが継続性につながると考えているので、移行期間を設けるなどの工夫はしています。

 

小田 仕組みを最適化することと、現場で働く人たちの意欲を高めることをバランスよく行うのは非常に難しいと思います。片山町長なりのマネジメントのコツはあるのでしょうか。

片山町長 難しさは私も日々感じています。これまで変えようとして断念したこともたくさんありました。しかし大切なのは、伝え続けることです。なぜやるのか、それをやるとどうなるのか、伝え続けることでだんだん職員の中に理解や納得感が生まれ、行動へとつながっていきます。

制度設計はいきなり大きく変えるのではなく、職員と双方向のやりとりをしながら絶えず見直しを行い、バージョンアップを繰り返した方が継続性があります。

 

小田 ニセコ町の即日決裁の体制は、職員の皆さんとの間で丁寧に合意形成をした上で実装されたのですね。

 

責任は人を成長させる

小田 「片山町長が不在でも業務が止まらない」という点について、具体的な事例をお話しいただけますか。

片山町長 各部課がどんな動きをしているかは毎回の管理職会議で共有されますが、私は基本的には口を出さずに、現場の職員に任せています。課長決裁で動いている案件もあるため、新聞を読んで初めて知るイベントなどもあったりします。事前に相談があれば私からも提案ができたと思うことはありますが、あえて指摘はしません。それをし出すと、何をするにしても町長にお伺いを立てる依存的な組織に戻ってしまうからです。

課長決裁で大きな取り組みを実行しているのであれば、きっとその課長は全責任を自分で負う覚悟でいるはずです。そういった経験は、人を大きく成長させると思います。組織としての最終的な責任は私が取りますが、内部におけるそれぞれの責任については、職員自らに体験してほしいと思っています。もちろん仕事に対する誇りや達成感を持つことも同様です。

 

小田 まさに自律的な組織をつくられているのですね。

片山町長 自ら学習して自ら変化し、自ら行動する組織になってほしいと思っています。私からは事細かな指示は出さずに、大方針だけを示すようにしています。

 

小田 途中で思わず助言をしたくなることもあるかと思います。そのときはやはり言葉をのみ込むのですか。

片山町長 全てが終わったタイミングで改善点を伝えることはありますが、最初の段階では言いません。自分たちの責任で動くと決めた職員の、仕事に対する誇りを奪ってしまうからです。自ら動いて得た体験や達成感は、その人の自己表現力や自己肯定感につながると思います。人材育成はそのプロセスの繰り返しだと考えると、トップは余計な口を挟まず見守る姿勢でいた方がいいと思います。

 

小田 片山町長は現在4期目です。人材育成に対してそのようなお考えを持ち、職員の方たちと接してきたのであれば、組織風土はかなり変わったのではないでしょうか。

片山町長 変わり過ぎて別の組織のようです。以前は町長決裁が必要な事案は課長が説明に来ていましたが、今は入庁したての若手職員が説明に来ることも多いです。私は若い人たちが自由に発言できる社会を実現したいと思っていますので、庁内においてはそれが達成できているように感じます。

 

第4回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年11月18日号

 


【プロフィール】

ニセコ片山町長片山 健也(かたやま・けんや)

1953年生まれ。物流業界での勤務経験を経て78年にニセコ町役場に奉職。町民総合窓口課長、環境衛生課長、企画環境課長、総務課参事等を歴任し、2009年7月に退職。同年10月に町長就任。現在は4期目。

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