暮らしの安心安定を基盤とした「相互扶助」のまちづくり~水谷洋一・北海道網走市長インタビュー(1)~

北海道網走市長・水谷洋一
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事・小田理恵子

 

2025/03/12 暮らしの安心安定を基盤とした「相互扶助」のまちづくり~水谷洋一・北海道網走市長インタビュー(1)~

2025/03/13 暮らしの安心安定を基盤とした「相互扶助」のまちづくり~水谷洋一・北海道網走市長インタビュー(2)~

2025/03/19 「妄想から構想へ」市民の声から始まる政策~水谷洋一・北海道網走市長インタビュー(3)~

2025/03/21 「妄想から構想へ」市民の声から始まる政策~水谷洋一・北海道網走市長インタビュー(4)~

 


 

北海道網走市、水谷洋一市長のインタビューを全4回でお届けします。

現在4期目となる水谷市長は、まちづくりの基本理念として「相互扶助」を掲げています。これは市長がかつてJAに勤務していた時代に出会った言葉で、自主・自立・自助を前提とした市民が協働し、互いに支え合うことを指しています。

本インタビューでは、「相互扶助」の理念の下、人口約3万2000人のまちの持続可能性を高めるために市長が実行した数々の施策について、背景にある意図と共にお話しいただきました。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

水谷市長(上)へのインタビューはオンラインで行われた(出典:官民共創未来コンソーシアム)

 

市政運営の根幹を支える「相互扶助」の理念

小田 水谷市長は農協監査士としてJAの監査と経営指導に携わったご経験をお持ちです。そのご経験が現在の市政運営につながっていると感じる部分はありますか?

水谷市長 私は社会人として最初の8年間をJAで過ごしました。当時、農協本部の入り口にあった石碑には「相互扶助」「自主・自立・自助」という言葉が刻まれていました。普段何気なく目に入る言葉でしたが、次第に私の中で大きな意味を持つようになり、市長就任後は市政運営における理念として大切にしています。

「相互扶助」は、地域社会において個人では解決できない課題に対して、お互いが支え合い、助け合うことの大切さを説いています。一方で、「自主・自立・自助」は、そうした支え合いが自立した個人同士の協力によって成り立つという考え方です。

つまり、「万人は一人のため、一人は万人のため」という精神と言えます。これが私の市政運営の根幹を支えています。

 

小田 「相互扶助」と「自主・自立・自助」の理念を根幹に、これまでどのような方針で市政運営をされてきたのでしょうか。

水谷市長 市長に初当選した1期目は行政に対する経験が浅いこともあり、目に見える成果を急ぎがちでした。しかし期を重ねるうちに、住民の皆さんが自立的に互いを支え合う相互扶助のまちを実現するには、まずは安心安定の暮らしを十分担保することが重要であると気付きました。つまり、公共サービスの安定的な供給体制を築くことです。

特に「子育てしやすいまち」であることは重要で、これがなければまちに人が残っていきません。そこで私は、医療の提供体制の整備や子育て支援など、「子育てしやすいまち」にするための施策を展開してきました。

 

4年間で四つのクリニックを誘致

小田 水谷市長は実際に4年間で四つのクリニックを誘致されています。医師確保に悩む地方自治体が多い中、これは目を見張る成果だと思います。クリニック誘致はどのように進めてこられたのですか。

水谷市長 網走市には2次医療機関(※注1)である総合病院はありますが、1次医療機関(※注2)であるクリニックの数が十分でないという課題がありました。1次医療機関が不足すると軽度の患者も2次医療機関に集中し、医療体制全体の疲弊へとつながります。さらに周辺自治体の医療体制も厳しさを増していたことから、このままでは地域全体の医療体制が立ち行かなくなると危機感を抱きました。そこで、「開業医誘致助成制度」を設け、新規開業医の誘致に全力で取り組んでまいりました。

(※注1)2次医療機関:入院治療を必要とする重症患者の医療を担当する、地域の中核的病院。専門性の高い外来診療や一般的な入院医療を提供する。

(※注2)1次医療機関:日常的な病気やケガの診療を行う、地域のクリニックや診療所。

開業医誘致制度案内パンフレット(出典:網走市Webサイト)

 

小田 「開業医誘致助成制度」について、詳しくお話しいただけますか。

水谷市長 市内で新たに診療所を開設する医師に対し、経費の一部を最大5000万円助成する制度です。地域医療への関心が高く、積極的な医療活動を通じて地域医療に寄与しようとする方、診療所を継続して10年以上開業する見込みがある方を対象に、土地、建物、医療機器等の取得にかかる費用を助成しようというものです。この制度を活用して4年間で四つのクリニック誘致を実現しました。

 

小田 制度を導入してもなかなか成果が出ないという話を耳にすることもあります。なぜ網走市ではうまくいったのでしょうか。

水谷市長 私が医師と直接会って考えを伝えたことだと思います。地域医療の実情やニーズを直接説明することで、この地域で医療に携わることの意義を理解していただけるよう努めてきました。結果、1次医療の確保という地域の課題や「相互扶助」の理念に共感いただいた先生方に、市内での開業を決断いただくことができました。

 

(第2回に続く)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年2月3日号

 


【プロフィール】

水谷 洋一(みずたに・よういち)

1963年網走市出身。87年から95年までJA北海道中央会に勤務。在職中は農協監査士としてJAの監査と経営指導に当たる。

その後衆議院議員秘書、網走市議会議員を務め、2010年12月に網走市長に就任。現在は4期目。

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