自らが先頭に立つ「率先垂範」のまちづくり~畠山稔・埼玉県上尾市長インタビュー(3)~

埼玉県上尾市長・畠山稔
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事・小田理恵子

 

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2025/04/17 自らが先頭に立つ「率先垂範」のまちづくり~畠山稔・埼玉県上尾市長インタビュー(4)~

 


 

埼玉県上尾市、畠山稔市長のインタビュー第3回をお届けします。

1~2回では、「天無私(てんにわたくしなし:すべての人や物に分け隔てなく接すること)」の理念に基づく市政運営と、東日本大震災の経験を生かした市民との対話を重視する姿勢や、市民の声から生まれた各種施策についてお話しいただきました。

3~4回では、民間企業での経験を生かした組織マネジメントや、職員の自発的な活動を促す仕組みづくり、さらには市長自らが先頭に立って市民と触れ合う姿勢など、現場重視の市政運営について伺いました。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

前例にとらわれず、職員の個性を生かすマネジメント

小田 市長として、職員の皆さんにはどのような役割を期待されていますか?

畠山市長 上尾市は今、大きな転換期を迎えています。現在がピークとなっている人口は今後減少に転じる見通しで、行政運営はますます難しさを増すことが予想されます。このような変化の激しい時代にあって、職員には、市民にとって本当に価値のある行政サービスを提供するために、それぞれの能力を最大限に発揮してほしいと考えています。

 

小田 その期待を形にするため、具体的な方針を策定されたそうですね。

畠山市長 2021年3月に「第3次上尾市人材育成基本方針」を策定し、「先行きが不透明な時代に、職員一人ひとりの個性を大切にし、やりがいを持って、イキイキと働くことができる職場と職員」を目指すことを掲げました。特に重要なのは、前例にとらわれず柔軟に対応する姿勢です。上尾市がこれからも魅力あるまちであり続けるためには、新旧のリソースを生かした革新的な行政サービスを生み出していく必要があります。

 

小田 その方針に則った具体的な取り組みについてお聞かせください。

畠山市長 私は仕組みづくりにも力を入れています。各部に目標を設定し、その進捗状況を市長室の壁に張り出す「見える化」をしました(写真1)。これにより職員全員がゴールを共有し、進むべき方向性を確認できるようにしています。

各部の目標や進捗状況を見える化(出典:上尾市)

 

また、「政策企画提案制度」や「政策企画・立案プロジェクトチーム」、さらに「職員による政策提言」といった仕組みを設け、職員が主体的に政策を提案できる環境を整えました。

 

小田 民間企業でお勤めの経験がある畠山市長ならではのアプローチですね。実際に職員の方の提案が形になった事例について、教えていただけますか?

畠山市長 昨年度のプロジェクトチームからは、24年度に予算化された三つの重要な提案がありました。一つ目は、LINE公式アカウントを活用し、市民がLINE上で各種行政手続きを行えるようにする事業です。二つ目は、保育所のおむつサブスクリプションサービスのサポート事業。そして三つ目は、市内保育所等における英語教育の導入です。これらは、職員の自由な発想から生まれたもので、市民の生活をより便利で快適にすることに直結しています。

 

小田 どれも市民のニーズに柔軟に応える施策ですね。上尾市職員の自発的な施策といえば、「輝き隊」も話題になっています。

畠山市長 「輝き隊」は上尾市の職員有志が結成した非公認ユニットで、市制施行65周年を盛り上げるために活動を始めました。メンバーは7人で、スキンヘッドがトレードマークの1号から6号、そして広報担当の7号で構成されています。市内のイベントで市民から「一緒に写真を撮って」と声を掛けられるなど、今ではすっかり人気者です。

昨年は、テレビなど多くのメディアでご当地グルメ「上尾串ぎょうざ」を紹介する「輝き隊」が取り上げられるなど市民との距離を縮めることができ、職員の士気の向上にもつながっています。

 

小田 職員の皆さんと共に新しいアイデアを次々と生み出しているのですね。

畠山市長 はい。これからも職員一人ひとりが持つ力を引き出し、市民の期待に応えられる行政運営を目指していきたいと考えています。職員の皆さんには、失敗を恐れず、どんどんチャレンジしてもらいたいですね。

 

のぼりを担いで通勤

小田 職員の皆さんの自発的な行動を促してきたとおっしゃいましたが、市長自身もこれまで多くのご決断をされてきたかと思います。判断に用いる基準は何なのでしょうか?

畠山市長 私は「率先垂範」の考え方を大事にしています。まずは自らが先頭に立って、直接市民の皆さんと触れ合い、生の声を聴くようにするということです。特に現在のように、人口減少が背景にある困難な状況であるからこそ、自らがまず範を示すことを意識しています。

 

小田 最近では、どのようなことに率先して取り組まれたのですか?

畠山市長 市民の健康づくりの施策についてお話しします。上尾市では「人生100年時代」を見据え、市民の健康寿命を延ばすことを目標に掲げています。22年4月には、これまでの「上尾市スポーツ都市宣言」を「スポーツ健康都市宣言」に改定し、健康施策をより一層強化しました。

健康は市民一人ひとりの幸せな暮らしの基盤であり、市政においても最優先課題の一つとして取り組んでいます。

その中でも、本市独自の健康アプリ「あげお健康+」(※注)の導入においては、アプリを市民に広く知っていただくため、私自身が自宅から市役所までの通勤時に「あげお健康+」ののぼりを掲げて歩いたり、各種イベントで直接チラシを配ったりしています。

(※注)市民の健康を支えるために提供する総合健康支援サービス。市のイベントへの参加や日常の歩数に応じてポイントが貯まり、抽選でデジタルギフトが当たる仕組み。

 

「あげお健康+」で付与されるポイント(出典:上尾市Webサイト)

 

小田 市長自らが行政サービスの浸透に率先して取り組まれているわけですね。市民との直接的な交流が生まれているのではないでしょうか?

畠山市長 「あげお健康+」では、私に会うと100ポイントが付与される特典を設けています(現在は終了)。これが市民の皆さんにイベントへの参加を促し、健康づくりの第一歩を踏み出すきっかけになれば嬉しいですね。

実際に多くの方が「市長、100ポイント下さい!」と声を掛けてくれるようになり、その中で「スマートフォンの操作が難しい」といった具体的な課題も把握でき、施策の改善にも生かせています。

 

小田 デジタル活用と対面コミュニケーションを組み合わせた興味深い取り組みですね。

畠山市長 私は、市長室で待っているだけでは市民の本当の声は聴けないと考えています。だからこそ、のぼりを担いでの通勤や、イベント参加を続けています。

このような直接の触れ合いを通じて、健康づくりはもちろん、市政全般についても市民の皆さんと前向きな対話ができています。これからも「動きながらつながる」をモットーに、市民に寄り添った市政運営を心掛けていきたいと思います。

 

(第4回に続く)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年3月3日号

 


【プロフィール】

畠山 稔(はたけやま・みのる)

1949年岩手県陸前高田市生まれ。千葉工業大金属工学科卒業後、73年から東洋伸銅所(当時)に入社。
その後、上尾市議会議員(3期11年)、埼玉県議会議員(3期11年)を務め、2017年12月に上尾市長に初当選。現在は2期目。

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