苦い経験が育んだ「調整型」リーダーシップ〜大宮透・長野県小布施町長インタビュー(3)~

長野県小布施町長 大宮透
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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大宮透長野県小布施町長のインタビュー後編をお届けします。

前編では、小布施町が直面する「農業の担い手不足」と「専門職不足」という二つの課題、そして「行政の応援団」といった具体的な施策を伺いました。

後編では、それらの施策を実行に移す大宮町長の「調整型リーダーシップ」の起源に迫ります。

「人生で一番つらかった」と語る総務課長時代の経験、専門性を活かした未来への投資、そして行動の原動力など、町長のお人柄にも触れる内容をお届けします。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

大宮町長(上)へのインタビューはオンラインで行われた(出典:官民共創未来コンソーシアム)

 

「人生で一番つらかった」経験が育んだリーダーシップ

小田 大宮町長のリーダーシップについて伺います。前回「調整型」のマネジメントを重視しているとお話しくださいましたが、その考えに至った背景や、きっかけについてお聞かせいただけますか。

大宮町長 私はトップダウンとボトムアップ両方大切だと思いますが、特に「合意形成」と「段取り」を重視する背景には、私自身の役場職員時代の経験があります。

私が役場に入庁したのは2020年ですが、入庁前から行政の施策に非常勤の立場で関わっていました。入庁直前の19年に台風19号(令和元年東日本台風)による災害が発生し、小布施町も大きな被害を受けました。

台風災害直後にコロナ禍にも見舞われ、組織が緊急時対応で混乱し疲弊している時期に、私は総務課長として組織改革や人員増強に取り組まなくてはなりませんでした。

当時正規職員の数が十分ではなく、災害対策に係るプラスアルファの業務対応の中で、単純な職員配置の組み替えだけではどうしようもない状況でした。

その疲弊している状況下で、理想論だけでトップダウン的な取り組みを進めようとしても職員からの支持を得られず、物事が進まないという苦い経験もありました。

組織の状況を十分に把握できていないのに何かやらなければと気が焦っていた部分もあったと思います。今振り返ると、人生で一番つらかった時期かもしれません。

 

小田 その人生で一番つらかった経験が、現在のリーダーシップの基盤になっているということですね。

大宮町長 そうですね。そういった経験を通じて痛感したのは、首長や管理職と、一般の職員との間には「情報の非対称性」が存在するということです。

私が首長として住民の声を直接聴かせていただく中で「これは町にとって大事だ」と感覚的に思っていても、その熱量や背景が現場の職員にそのまま伝わらないのは当然のこと。

その逆に、職員の現場感覚からすると、物事の優先順位が異なる場合はよくあります。

この「お互いに伝わらないのが当然」という非対称性をまず認識することが、組織マネジメントの出発点だと考えています。

 

小田 その「非対称性」を認識した上で、現在の組織運営にどう活かしているのですか。

大宮町長 首長と職員の間にある認識のズレを極力なくすために、私はまず各課の課長や係長としっかり「チューニング(対話)」するようにしています。常にトップダウン先行で何かを指示する人間ではない、という信頼関係を地道に築いていくことが大切だと思っています。

 

小田 とはいえ、時にはトップダウンが必要な場面もあるかと思います。

大宮町長 もちろん、時にはスピード感を持って進めなくてはいけないことや、10年、20年先を見据えて、今トップダウン的に判断が必要なこともあります。

その時は、しっかり物事の背景を説明した上で、「本当はこんな無理やりな進め方はしたくないけど、申し訳ないが今回はこれで進める」と言い切って実行しますね。

それがすんなりとできるためには、逆説的ですが普段から対話を重ねて職員の声を大事にしているという信頼関係がやはり必要だと思います。

 

首長としてのワーク・ライフ・バランス

小田 町長の仕事とご自身の家庭との両立は非常に多忙かと思います。ワーク・ライフ・バランスについてはどうお考えですか。

大宮町長 正直、ワーク・ライフ・バランスの完全な両立は難しいですね。選挙に出る前から妻とも話していましたが、今の首長という職責の中で、家庭と仕事を完全に五分五分の完璧なバランスにしていくのは無理があると思っています。

私自身、子どもがまだ上が5歳、下が1歳半で、可愛い盛りであり、一番手がかかる時でもあります。

その中で、「毎日の朝食を作る」「送り迎えや洗濯をする」「1週間のうち夕方早く帰る日をつくる」「土日のどちらかは家族時間として確保する」など、できる限りではありますが、自分なりにできる具体的な役割を意識しています。

本当に妻に迷惑をかけていますが、話し合いながら、こういった形をとらせてもらっていますね。

 

小田 公私共に多忙な中、首長という責任ある立場故のストレスもあるのではないでしょうか。

大宮町長 多忙ではあるものの、ストレスは明確に今の方が少ないですね。

中間管理職の時は最終的な意思決定の責任を負うことができない環境が、むしろ私にとってはストレスでした。町長になり「最終責任を自分が負う」方が性分には合っています。

一つ一つの判断が町の未来をつくるので責任は大きいですが、職員にも前向きに挑戦してほしいですし、どのような結果になったとしても、最終的には私自身が責任を取ればいいのでシンプルです。

妻や友人たちからも「今の方がずっと楽しそうだね」と言われます。

 

(第4回に続く)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2026年1月26日号

 


【プロフィール】

小布施町_大宮町長プロフィール写真

大宮 透(おおみや・とおる)

1988年山形県生まれ、群馬県高崎市育ち。東京大工学部で都市計画を専攻後、小布施町に移住。
役場での総務課長、企画財政課長経験を経て、2025年1月、県内最年少首長に就任。
「信頼」「挑戦」「共創」を掲げる。

 

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