自治体・地域が潤う官民連携の進め方とは(2)〜若者が定住できる産業振興を〜

一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事 小田理恵子

2021/05/07  自治体・地域が潤う官民連携の進め方とは(1)〜若者が定住できる産業振興を〜
2021/05/12  自治体・地域が潤う官民連携の進め方とは(2)〜若者が定住できる産業振興を〜
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官民連携に必要な3要素

筆者は失われた30年といわれるバブル崩壊後の日本社会で、企業の変革、自治体の変革、そして地域の変革に携わってきた。その経験と、今現在の自治体側、民間側両面での支援を行っている立場から、官民連携事業が成功するために必要だが、おざなりになっている要素が3点あると考える。

 

1点目はタイミングである。官が民の力を必要とするタイミングと、民が何らかの自社リソース(資源)を提供したいタイミングが合致しなければ事業化は難しい。

マッチングサイトは、どちらかのアプローチが基点となるか、またはシステムによる自動マッチングにより出会いを創出するが、両者が交差するタイミングが刹那であるとしたら、良い出会いに繋がる可能性は非常に低い。また、社会課題は可視化されデータベース化された時点では既に、民間企業からすれば事業シーズにはなり得ない鮮度の低い情報と判断される。

 

2点目は地域性である。成功した(または成功に見える)事業は、模倣したくなるものである。成功事例には視察が殺到し、翌年以降、同様の事業が各地で展開される。しかしこうした模倣から、初期事例を超える事業が生まれないのは、地域の「磁場」を無視しているためである。

成功した事例は、その地域の歴史文化、保有する資産、人的つながりなどの上に成り立っている。他市の成功モデルは少なくとも自分用の地域にカスタマイズする必要があるし、そもそもその事業が地域になじまないこともある。

 

そして3点目は人である。官と民は成り立ちも目的もステークホルダー(利害関係者)も異なる、まったく性質の違う組織体である。自治体のステークホルダーは住民であるが、民間企業のそれは株主である。自治体が公平性・透明性を求める一方、民間企業が求めるのは効率性や収益性であり、時にはライバル企業を出し抜くため事業の内容は秘匿しようとする。

そして自治体と民間は、お互いのことを知らないままなのであるが、同じ言葉を話すため、そのことを忘れがちである。筆者は民間企業から自治体と協定を結びたいとの相談を受けたことがある。それが3月末であったため、4月の人事異動後に話を進めるよう進言したが、自社の計画に合わせたい一心で締結を急ぎ、そのまま交渉を進めた結果、自治体の担当者が異動となりそれまでの労が無に帰した事例がある。

またある企業は医療関係の許認可の交渉相手に産業振興の組織を選んだり、ある企業は自治体の予算編成に間に合わないタイミングで来年度早々の事業展開を求めたりもした。

実は民間企業は、自治体から見たら当たり前の基本的なことも分かっていないのである。公共性の高い鉄道会社やバス会社などはいざ知らず、ここ数年で官民連携に乗り出した企業であればなおさらである。

 

さて、こうした自治体の「お作法」について、職員が民間企業にその実情を伝えることはまずない。自分が異動になることも、アプローチすべき組織が違うことも、持って来る時期が遅過ぎたことも、親切に教えてあげる職員は殆ど居ないだろう。少なくとも筆者はそうした場に何度も同席しているが、職員がそのことを指摘している場面は見たことがない。

そうなると、民間企業が自治体について学習する機会が得られないのである。なぜうまくいかないのか、首をかしげながら違う自治体へと出向き同じ過ちを繰り返す可能性もある。一方で、民間の論理を自治体が知らないケースも多々あるが今回は割愛する。

 

「お互いを知らないということを知らない」両者を結び付ける「人」が必要である。官と民、両者を知り

  • 自治体、民間企業それぞれが得たいものは何か?
  • これを進める中でステークホルダーの理解を得るにはどうしたらよいか?
  • お互いどういうリソースを持っていてどこまでなら提供してもよいのか?

そうしたことを丁寧に整理し、相互の利害調整をしていく人材が官民連携事業の初期段階から伴走することで、両者そして地域が果実を得られる「三方よし」の事業が実現できるのである。

タイミング、地域性、そして人、筆者はこの3要素を分かりやすく「天地人」と呼んでいるが、天地人の中で最も重要なのは「人」である。

官と民を知る人材のことを、筆者は「パブリック人材」と呼んでいる。

パブリック人材が伴走する「官民共創」モデル

一般社団法人官民共創未来コンソーシアム
一般社団法人官民共創未来コンソーシアムの仕組み

 

今の自治体や地域が抱えている課題を自治体のみに負わせるのではなく、民間や地域が対話を重ね協働することが必要である。そのためにも官民連携事業を推進しなければならない。

官民連携が成功するためには、先ほど述べた天地人を包含して、官民連携から官民共創へとアップデートしていく必要がある。そしてそうした地道な積み重ねの結果、住民が豊かに笑って暮らせる地域を少しでも残せるのではないかと考えている。

上記の目的を遂行するため、「パブリック人材」が伴走しながら官と民を繋ぐための組織をつくった。それが「一般社団法人官民共創未来コンソーシアム」である。

自治体と民間企業の双方向の対話を通じて、地域の課題と目標を共有し、それぞれの持つ知識やノウハウ、ネットワークを最大限活用する場を提供し、マッチングおよび事業の実施に当たっては、「パブリック人材」が伴走する仕組みである。

 

このサービスモデルを支えるシステムも用意した。オープンイノベーションを実現するプラットフォーム「CO─DO(コードゥ)」である。(※株式会社スカラおよび株式会社Public dots & Companyが共同開発したシステムを業務提携にて利用する

これはスペインのバルセロナ市などで広く利用されている「Decidim(デシディム:オンラインで多様な市民の意見を集め、議論を集約し、政策に結び付けていくための機能を有する”参加型合意形成プラットフォーム”のこと。バルセロナやフィンランドのヘルシンキで使われているツール)」などをベンチマークして構築したシステムである。

COーDO
オープンイノベーションを実現するプラットフォームCO-DO

 

社団の会員自治体は利用でき、自治体ごとに企業や市民との交流やプロジェクト実施の場をつくって、市民やステークホルダーと共に課題解決の対話を重ねていくことが可能となっている。「ひろしまサンドボックス」や「エールラボえひめ」など自前で仕組みを構築している自治体もあるが、最初からプラットフォームを提供すれば、自治体はオープンイノベーションの構築のみに注力できる。

こうしたシステムと人を提供することで、自治体は行政コストの縮減や住民サービスの向上、民間企業は事業領域の拡張や新規事業開発など、お互いが果実を得つつ、その地域が長期的に持続可能な姿となる取り組みへと進化させていくことを目指している。

民間企業からすれば自治体と緩く接点を持ちつつ社会課題を拾い上げることができるし、自治体からすれば、地域に価値を提供できる民間企業を探せる仕組みである。

社会課題とは何

本記事では「社会課題」という言葉を多用してきた。そもそも自治体の解決したい社会課題、民間企業の求める社会課題とは何か整理する必要がある。

自治体職員に「あなたのまちの社会課題は何ですか?」と問うても、最初に出てくるのは、人口減少・高齢化・交流人口といった広い社会課題が出てくるのみである。

 

地域に根差した課題は、そのヒントを地域に関係する人が持っている。

筆者の体験であるが、地産地消目的で、地域の農家の朝採れ野菜を地元の飲食店に流通させたいという人が居た。そこで農家に話を聞くと、収穫までは行えるが、その後の流通や在庫管理は面倒だし儲からないのでやりたくないと言う。また、単価の高い野菜は、季節や日によって採れる品種や量が異なるので安定供給は難しいとも言われた。

市内飲食店は、地場の野菜を使ったメニュー提供をしたいが、農家まで取りに行くのは難しいし、できれば珍しい野菜を使いたいという。そして何より小ロットの流通を毎日行う担い手がおらず、流通が一番のネックであった。

それぞれのニーズがあって、そこに足りないパーツがあり、パーツを埋めるための課題が存在する。これらを知ることが「地域課題=事業シーズを知ること」である。

 

大枠の「市内農産物の地産地消・6次産業化」というだけでは、事業者が自治体と繋がる意味がない。ではそうした自治体が地域の課題を知るにはどうしたらよいのか? 首都圏の民間企業の事業開発に手を差し伸べながら、地域に価値を提供するにはどうしたらいいのか?

次回からは先進自治体の事例を紹介しつつ、その点について論じたい。

 

第3回に続く


【プロフィール】

小田理恵子(おだ・りえこ)
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事

神奈川県在住。大手SI企業にてシステム戦略、業務プロセス改革に従事。そこで手がけた自治体の行政改革プロジェクトを契機に地方自治体の抱える根深い課題を知る。未来の行政のあるべき姿を追求するため2011年より川崎市議会議員を2期8年務め、行財政制度改革分野でのさまざまな提言を行う。2020年、一社)官民共創未来コンソーシアムを立ち上げる。自治体と企業を繋いで、地域を都市と繋いだ価値循環の仕組みを支援。

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