一般社団法人公民連携活性化協会代表理事・古田智子
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子
2021/12/7 新時代に挑む─公務員研修の新たなカタチ(1) 〜自治体も市民も、今こそ必要なマインドチェンジ〜
2021/12/9 新時代に挑む─公務員研修の新たなカタチ(2) 〜自治体も市民も、今こそ必要なマインドチェンジ〜
2021/12/13 新時代に挑む─公務員研修の新たなカタチ(3) 〜公務員・民間・市民が共に学び合い、より良いまちをつくる時代へ〜
2021/12/15 新時代に挑む─公務員研修の新たなカタチ(4) 〜公務員・民間・市民が共に学び合い、より良いまちをつくる時代へ〜
「公」と「民」がお互いを理解し合うには
小田 民間の方は自治体について全く知らないことが多いですよね。民間と自治体は何が違うと感じられていますか?
古田 まず組織の目的が違います。民間は利潤の追求と事業の継続ですよね。そのためにいかに数字、成果を挙げるかに特化しています。ところが自治体の組織目的は地域住民の福祉ですので、民間講師が民間の組織目的達成のための研修プログラムをそのまま持ってきても役に立ちません。
他にもコミュニケーション研修の場合、民間は「いかに自社の主張を通すか」に特化したスキルが求められますが、自治体の場合は「相互理解と信頼関係構築」のスキルが必須です。
小田 なるほど。ただ昨今、民間の方も共創の時代に入り、持続可能な開発目標(SDGs)やESG(環境・社会・企業統治)が重視されるようになり、相互に理解して共に社会を良くしていくという自治体の在り方に近づいていくべきなのではないかと思います。
古田 その通りですね。民間側は自治体の仕組みを理解すべきですし、自治体側は民間との付き合い方を学ぶ必要があります。もっとお互いのことを知るためには、一度「ぶつかり合う」ことも必要なのかなと思います。お互いが自らをただ主張するということではなく、何か一つの体験を共有することで、お互いの認識の違いに気付き合うことかなと考えています。
小田 私は、同じ釜の飯を食べればいいのではないかと思っています。その辺りの人材育成プログラムについても、自治体の仕組みを理解した上で一歩ずつ階段を上りながら、作り上げていく必要がありそうですね。
研修で得るべきは「人との関わり」
小田 研修というと、何か特別な知識を得るものだったり、行動変容を起こすものだったり、さまざまなコンテンツがあると思います。古田さんは、どんな研修こそが自治体職員の育成につながると考えていますか?
古田 本来、職員が研修で得ることは知識ではなく、結果的に「人との関わりそのもの」と言ってもよいと思います。市民・地域とどう関わっていくかを、知識ではなく体験で学んでいくことが本来、すべての職員に必要だと考えています。
小田 同感です。社会が激しく変化してきて、今までの成功体験や経験値がそのまま生かせないケースが増えていますよね。一部の自治体職員は一日中デスクワークだけして、役所の外の市民と関わらなくても仕事になるかもしれません。
でも、これからの時代はステークホルダー(利害関係者)である町内外の人たちや組織と関わり、対話していく必要性も出てきます。こういうことは、頭の中だけでは理解できないので、理論だけでなく体験から学ぶことが重要だと思っています。
古田 その通りです。今までの公務は、高度成長を背景に社会インフラ整備に住民ニーズが集中しがちでした。その前提だと、粛々と安定的に事務事業を執行するのが公務員としての正しい仕事の在り方だったのではないでしょうか。
ですが、これからの社会では未知の課題に直面するたびに、解決に向けて思考し、行動していく必要があります。安定的に粛々と公務を執行することに特化した知識やスキル、リテラシーがアップデートされなければならないタイミングを迎えているのではないでしょうか。
小田 最近、職員から「部長・課長を何とかしてください」と切実に訴えられるケースが多いのです。昭和の成功体験を重ねてきた、意思決定者である幹部が若手の意見を全部却下してしまうそうで。世代間の相克が自治体の中で起こっていると感じますが、古田さんはどう思われますか?
古田 管理職の方々が若手だった時代に、安定的に執行するという正解が刷り込まれていて、ご自身が管理職になった今でも、それがスタンダードになっているわけですね。そこから方向転換できないのは、ものすごいスピードで社会が変わってしまったので無理もないことです。
ですが、これからの公務を担う若手職員の方々が地域と関わる中で自分の役割を考えながら主体性を持って行動できる場を、管理職の方々がつくれるようになるとよいですね。周りから管理職の方々の意識変容をサポートする働き掛けが必要です。
小田 こういう話をしていると、どうしても二元論といいますか、どっちが悪だという話になりがちですが、そうではないことを発信していきたいですね。昭和、平成の時代に働いてきた管理職の方々のやり方は、その当時には最適解だったと。
ただし、これからの時代は外との関わりが必要だということを、管理職の方々にもご理解いただきたいところですね。
古田 そうですね。後に続く方々の頼れる上司になっていただければ本当にうれしく思います。
小田 私自身も若い方と仕事をするときに意見が異なることもありますが、「良い・悪い」ではなく「違い」だなと考えています。そう考えて丸ごと任せてしまえば、良い成果を挙げてくれます。
自治体のリスクと市民の理解
小田 管理職の世代は、リスクを嫌う時代に仕事をしてきた世代です。若手の意見を受け入れられないのは、その理由からでしょうか。
古田 そうですね。成功か失敗かではなく、リスクが顕在化したらどうするのかを連続的に考える「リスクの許容」という発想を、管理職の方々に持ってもらうことも大事です。
一方で自治体の事業を許容したのは地域住民なので、結果の責任を取るのは実は市民です。リスクを許容できるか、市民が理解した上で行政と関わることも大切です。
小田 自治体の挑戦がうまくいかないことも出てきますよね。それをきちんと市民が許容する土台をつくっていく必要があると思います。そうでないと、自治体は怖くて挑戦できなくなります。
古田 その通りです。「自治のリテラシー」を市民がインプットしていることが大切です。
小田 今は「都市経営」とおっしゃる自治体幹部の方もいますが、挑戦的な取り組みをしてうまくいっている自治体は、やはりリスクを取って進めていますね。もちろん全部が成功しているわけではないと思いますが、その地域に合った施策を一つ一つ試し、実績を挙げているわけです。
市民の方も結果だけを見て「あの自治体はできているのに、うちはできていない」と考えるのは少し違いますよね。自治体と市民がリスクの共有も含め、一緒に地域を創り上げていくことこそ、まさに「地方自治」です。
その際に自治体職員が市民やステークホルダーの方とどうコミュニケーションを取り、将来の財政負担の話も含めて、どう合意形成をしていくかというところで、最初の古田さんの3本柱につながるのかなと思いました。
古田 素晴らしい。その通りです。
小田 激しい社会変動の中で、首長も自治体職員も本当に大変な状況です。われわれのような第三者が公務員の皆さんの現状について、客観的な評価を含めて普及啓発していくことも大事ですよね。そこを古田さんと私で取り組んでいきたいと思っています。
次回からは2人が協業して、ある自治体の人材育成に尽力した事例について語り合います。
(第3回に続く)
【プロフィール】
小田 理恵子(おだ・りえこ)
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事
2011年から川崎市議会議員を2期8年務め、20年官民共創未来コンソーシアム設立。本メディアをコーディネートする(株)Public dots&company代表取締役社長も務める。
古田 智子(ふるた・ともこ)
一般社団法人公民連携活性化協会代表理事
慶応大文学部卒。総合コンサルティング会社に入社後、中央省庁・地方自治体の官民連携事業に25年携わる。2013年(株)LGブレイクスルー創業。16年公民連携活性化協会設立。