「健幸都市(スマートウエルネスシティ)」の実現を目指して~北猛俊・北海道富良野市長インタビュー(2)~

北海道富良野市長・北猛俊
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事・小田理恵子

 

2024/10/16 「健幸都市(スマートウエルネスシティ)」の実現を目指して~北猛俊・北海道富良野市長インタビュー(1)~

2024/10/17 「健幸都市(スマートウエルネスシティ)」の実現を目指して~北猛俊・北海道富良野市長インタビュー(2)~

2024/10/22 インバウンド需要回復後の「新たな課題」に挑む~北猛俊・北海道富良野市長インタビュー(3)~

2024/10/24 インバウンド需要回復後の「新たな課題」に挑む~北猛俊・北海道富良野市長インタビュー(4)~

 

時代の変化に対応できる組織づくり

小田 次に、組織マネジメントについて伺います。市長に就任してから、どのようなことを意識して組織づくりをされてきたのですか?

北市長 就任当時は、市役所機能や職員の対応に関して市民の皆さんからご指摘を受けることが多々ありました。例えば「窓口に行っても型通りの対応しかしてもらえず温かみを感じない」や、「職員の給与が業務に対して高過ぎるのではないか」といったようなお声です。もちろん、社会的な閉塞感から生まれる感情をぶつけてこられる面もあったのだと思いますが、やはりそういったお声を頂いた以上は、組織の改革が必要だと感じました。

市民の皆さんのニーズは多様化、高度化しています。それに行政が応えていくためには、型通りの対応から、個々の事情に柔軟に対応できる職員を育成することが大切だと思い、取り組みを進めてきました。

 

小田 まずは職員の皆さんの意識改革から始められたのではないかと推察するのですが、どのような働き掛けを行ったのですか?

北市長 おっしゃる通りで、「環境変化が目まぐるしい時代において、前例踏襲ではなく、自らが変わる勇気を持ち、一人ひとりに創意工夫する意識が求められている」と伝え続けました。改善というより改革を起こすつもりで進めてもらいたかったからです。

 

小田 先ほどお話しいただいたDXの取り組みからは、職員の方々の相当な努力がうかがえます。環境変化に対応できる職員が多数を占めるからこそ、推進できたのではないでしょうか。他の自治体のお悩みとしてよく耳にするのが、「環境変化を拒む職員の影響で新たな取り組みの推進力が鈍化する」という声です。こういった現象は富良野市では起こらなかったということでしょうか?

北市長 DXの文脈でお話しすると、スマートシティ戦略室を20年に立ち上げました。ただ、そこまでの道のりは長かったです。やはり意識改革に時間がかかりました。スマートシティ戦略室に配属された職員が非常に熱心に取り組んでくれたおかげで、個人の熱量に多少の温度差はあれど、全庁的には前向きに推進する空気は出来上がったと感じています。

 

小田 意欲のある職員で専門組織をつくられたことが、庁内全体に良い波及効果をもたらしたのですね。

北市長 今では庁内DX推進チームが立ち上がり、各部から職員が自主的に参加をしています。

 

富良野市DX推進チームの取り組みDX推進チームの取り組み(出典:富良野市ウェブサイト)

 

民間企業とのつながり方

小田 庁内の業務改革のためにBPRを実施したとのことでしたが、外部の専門人材は活用されたのでしょうか?

北市長 「富良野市役所働き方改革戦略提案業務」の公募型プロポーザルを実施し、コンサルティング会社「アクセンチュア」のお力を借りました。

 

小田 DXを進める上で、最初にどの事業者と接点を持ち、どんなことを依頼すれば良いのか分からない自治体は多いです。北市長と同社とのご縁はかねてあったのでしょうか?

北市長 東京で行われた企業誘致の展示会に、市として出展したことがあります。富良野市のブースで来場者に市の説明をしていたところ、同社の担当の方が話を聞きに来ました。それが最初の接点でした。

 

小田 企業誘致イベントに市長自ら出向いて説明されたのですか?

北市長 そうです。自ら市の実情を企業の方たちにお話ししました。その時、同社の方とは名刺交換するだけに留まりました。

それからしばらくして庁内のデジタル業務改革を行うタイミングになり、外部の専門家のノウハウやアドバイスが必要になりました。そこで公募プロポーザルに参加してくださる民間企業の検討に入ったわけですが、以前に交換した名刺を頼りに職員が同社に連絡をしたそうです。当時は私も職員も、同社は世界的な企業でDXにも知見があるというくらいの大まかな認識でした。しかし、公募プロポーザルでの提案内容と、実績が豊富であったことから、BPRを委託することにしました。

 

小田 そんな経緯があったのですね。同社側の目線に立ってみると、全国1700以上ある自治体の中から富良野市と連携する理由があったと思います。そういうやりとりはありましたか?

北市長 理由について明確にお話しいただいた記憶はありませんが、同社は震災復興と地方創生という文脈で会津若松市のスマートシティ化を支援しています。地方創生という意味で富良野市に着目いただいたのではないかと思います。

 

小田 企業誘致イベントで市長のお話を聞いた時点から、何か感じるものがあったのかもしれませんね。個人的には、そういったイベントに市長自らが出向いてプレゼンテーションをすることに驚きを感じています。

北市長 市長自らがトップセールスをした方が効果的に伝わる場合がありますからね。いろいろな場に出て行くと、時間差でつながりができることもあります。

 

小田 今回は富良野市のDXの変遷を中心に伺いました。各年度ごとのDXの取り組みの成果を見ると、庁内の意識改革から始まりBPR、行政サービスのデジタル化など、相当な熱量がなければ実現できないと思うことばかりです。

市長が職員の皆さんに伝え続けた「環境変化が目まぐるしい時代において、前例踏襲ではなく、自らが変わる勇気を持ち、一人ひとりに創意工夫する意識が求められている」という言葉をそのまま成果が表しているように感じます。地方自治体の職員のリソースが限られた状況は今後も続くでしょう。そんな中、デジタルをどう使えば有効か? 富良野市が先駆けて見せてくれているのですね。

 

インタビュー後編では、近年好調なインバウンドの状況や、その波及効果や課題について詳しく伺います。

 

第3回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年9月2日号

 


【プロフィール】

富良野市北市長プロフィール写真北 猛俊(きた・たけとし)

1945年生まれ。北海道空知郡中富良野町出身。富良野高等学校、北海道拓殖短期大を卒業後、75年4月より実家の農業に従事。
95年4月に富良野市議会議員に初当選。2007年5月から17年12月まで富良野町議会議員を務め、18年5月に富良野市長に就任。現在2期目。

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