青森県むつ市長・山本知也
（聞き手）一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事・小田理恵子
2025/04/23 「継承と挑戦」新たな風を吹き込む市政運営～山本知也・青森県むつ市長インタビュー（１）～
2025/04/24 「継承と挑戦」新たな風を吹き込む市政運営～山本知也・青森県むつ市長インタビュー（２）～
2025/04/30 前例を打破し、「日本一」にこだわる市政～山本知也・青森県むつ市長インタビュー（３）～
2025/05/01 前例を打破し、「日本一」にこだわる市政～山本知也・青森県むつ市長インタビュー（４）～
「日本一」へのこだわり
小田 全国の自治体に向けて、むつ市の特徴や挑戦についてアピールしていただけますでしょうか。
山本市長 むつ市のアイデンティティーについてお話しさせていただきたいと思います。1959年、大湊町と田名部町が合併した際、「大湊田名部市」という当時日本一長い市名でスタートしました。しかし、その翌年には全国初のひらがな市名「むつ市」へと改称したのです。
むつ市には「日本一」や「日本初」を追求する姿勢が根付いています。私は市民に「日本で一番高い山は富士山だけど、二番目は何か知っていますか？」とよく問い掛けます。ほとんどの人は二番目の山を知りません。これは「一番」と「それ以外」の価値の違いを端的に示しています。
小田 その「日本一」へのこだわりは、現在の市政にどのように生かされているのでしょうか？
山本市長 「一番」にこだわることは、単なる自己満足ではありません。新しい価値を創造し、市民に誇りを与え、さらには他の自治体のモデルケースとなることを目指しています。例えば、マイナンバーカードを活用した予防接種管理システムの導入は、全国初の取り組みとして注目されています。また、むつ市は世界夜景遺産にも認定されています。
そして、特に力を入れているのが教育分野です。2025年度から中学校部活動を全面クラブ化する「むつ☆かつ」（※注2）は、チャレンジングな試みを実施しています。単に運動部や文化部の活動を外部に委託するのではなく、地域全体で子どもたちの成長を支える仕組みづくりを目指しています。
（※注2）むつ市では、少子化や教員の働き方改革を背景に、23年4月から部活動を地域主導の「むつ☆かつ」に移行。学校の枠を超えた活動を通じ、子どもたちに多様な成長の場を提供している。
小田 「むつ☆かつ」は面白い取り組みですね。具体的な手応えを感じられていますか。
山本市長 先日の駅伝大会では、女子が過去最高順位を記録しました。しかし、最も印象的だったのは、生徒たちの反応です。過去最高順位という結果に対して、彼らは悔し涙を流したのです。
この姿を見て「一番」でなければ満足できない、この姿勢こそがむつ市の未来を創っていく原動力になると確信しました。生徒たちの頑張る姿から、私たち行政も同じ気持ちでなければならないと強く感じました。
1年を振り返った時に「全力で挑戦した」と言えるような、そんな市政運営を目指しています。
小田 むつ市の「日本一」へのこだわりや、未来を見据えた挑戦について伺いました。その根底には、「政治家は未来を語るべきだ」という山本市長のお考えがあるように感じられます。
山本市長 地方には多くの課題がありますが、それ以上に可能性もあります。重要なのは、現実を直視しつつも、新しい未来を市民と共に描き続けることだと考えています。「一番」にこだわる姿勢は、市民に誇りと希望を与え、むつ市をより魅力的な地域へと成長させるきっかけになると考えています。
【編集後記】
山本市長の市政運営で印象的だったのは、「日月に私照なし」の信念を基盤に、市民の声を直接聴き、柔軟に施策へ反映する現場重視の姿勢です。また、宮下宗一郎前市長（現青森県知事）の「宮下市政」を継承しつつ、即断即決のスピード感や挑戦する精神をむつ市の未来への原動力としていることも印象的でした。さらに、デジタル技術を活用した新しい挑戦や、「日本一」にこだわる独自性が、むつ市をより魅力的な地域へと導いているように感じます。
山本市長の未来を語る姿には自然と明るい気持ちにさせられる力があり、それが市民にも伝わっているのではないでしょうか。常に前向きに新たな挑戦を加えて進むその市政は、地方創生の新たなモデルケースとなる可能性を感じさせます。
※本記事の出典：時事通信社「地方行政」2024年3月24日号
【プロフィール】
山本 知也（やまもと・ともや）
1983年青森県むつ市生まれ。
2006年にむつ市役所へ入庁し、体育施設管理、税務、財政、企画や秘書など幅広い業務を担当。
19年、青森県議会議員に初当選し、むつ市を取り巻く課題解決に尽力。23年4月、むつ市長に就任。現在は1期目。
