コミュニケーションを取り続け、多様な共生社会を築く〜上野雄大・長野県野沢温泉村長インタビュー(4)~

長野県野沢温泉村長 上野雄大
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2025/12/17 20年ぶりの村長選で示された変化への期待~上野雄大・長野県野沢温泉村長インタビュー(1)~

2025/12/18 20年ぶりの村長選で示された変化への期待~上野雄大・長野県野沢温泉村長インタビュー(2)~

2025/12/23 コミュニケーションを取り続け、多様な共生社会を築く~上野雄大・長野県野沢温泉村長インタビュー(3)~

2025/12/25 コミュニケーションを取り続け、多様な共生社会を築く~上野雄大・長野県野沢温泉村長インタビュー(4)~

 

変化と安定のバランスを考慮した人事采配

小田 ここからは近隣自治体との交流やマネジメントについても伺います。まずは首長同士の交流や情報交換について、どのようにされているかお聞かせください。

上野村長 頻繁に交流があるのは、小布施町の大宮透町長、長野市の荻原健司市長、山ノ内町の平澤岳町長、白馬村の丸山俊郎村長などです。共にパネルディスカッションなどに登壇することもあり、そこでいろいろな考えや取り組みを共有いただいています。皆さん私よりもずっと先輩で、柔軟かつスピード感もあります。先進的な取り組みはとても参考になります。

 

小田 北信エリアなどの首長同士で連携を深めているのですね。

上野村長 一つの自治体がいきなり突拍子もないことをやると、周辺自治体から反発があることがあります。一方で、エリア全体で次の時代に合わせた自治体運営をしていこうという機運が高まると、地方創生は加速度的に進むのではないでしょうか。今は時代の変化のスピードが相当速いので、それに行政が追い付かなければいけないと思っています。近隣自治体との情報共有や連携は、今後もますます楽しみです。

 

小田 ありがとうございます。次に、マネジメントについても伺います。特に副村長の人事について意図や背景をお聞きしたいです。就任3カ月後に任命したとのことですが、具体的なエピソードを教えてください。

上野村長 副村長は、もともと就任直後にすぐに任命するつもりはありませんでした。なぜなら、私が民間上がりの人間のため、副村長の役割のイメージが漠然としていたからです。焦って任命せず、3カ月間は自分の業務整理をしながら、役場内を見回して組織を理解することに努めました。

すると、見えてきたことがありました。民間出身の私は、新たな発想で政策を考えたり、推し進めたりすることができるでしょう。一方で、役場内の事務業務や職員の取りまとめを私と同じような人間がやってしまうと収集がつかなくなってしまいます。何か新たな取り組みをするにしても、行政の安定運営は必須だと思いました。そこで、35年ほど勤務する最も経験豊富な総務課長に、副村長になってもらうのがいいだろうという結論に至りました。

その方を副村長に任命する際、このように伝えました。「私が新しい発想をどんどん提案していきます。ただし、暴走し過ぎてもダメですから、時にはブレーキになってください。でも、変化しなければならない部分もあります。ですから私になくて、副村長が持っている経験で、私がやりたいことを実現するための後押しもお願いします」と。

 

小田 変化と安定のバランスを取ったのですね。

上野村長 そうですね。この人事のポイントは、総務課長を副村長に上げたことで、総務課長の下にいた若手職員もスライドして役職が上がることです。ただし新たな総務課長は、若手の係長から抜擢しました。副村長には総務課長の補佐もお願いしましたね。

 

小田 係長を総務課長に上げた、目的と意図は何だったんでしょうか?

上野村長 その係長は総務課長(現副村長)の下で補佐をしていたため、そのラインを維持した方が実務がスムーズだと思ったからです。

 

小田 先ほどおっしゃった、行政運営の安定性を重視した判断ということですね。その人事采配で安心した職員も多かったのではないでしょうか?

上野村長 そうですね。職員もそうですが、おそらく村民の皆さんも私のような若手が村長に選ばれて驚いた面があっただろうと思います。いきなり突拍子もないことをやるかもしれないという不安感は持っていたはずです。そのため、役場内で最も経験豊富な総務課長を副村長にしたことは、村民の皆さんにとってもいったんの安心につながったと感じています。実際に喜ばれましたからね。

 

小田 上野村長はマネジメントにおいても、アクセルとブレーキの使い方や人同士の調和を大切にしているのですね。

 

唯一無二の村づくりを目指して

小田 最後に野沢温泉村のPRと、読者の皆さんに伝えたいことをお聞かせください。

上野村長 唯一無二の村づくりをしていきたいと思っています。野沢温泉村を訪れると特別な体験ができ、住民にとっても幸せな暮らしを営める理想郷のような地域をつくりたいです。世界中を見渡しても、当村のような暮らしが残っているリゾート地はなかなかありません。

外から村を訪れる人にとっては、刺激、感動、癒やし、プラスして学びを得られるサードプレイスであるように。村で暮らす人にとっては、心豊かに毎日を過ごせる地域であるように。そんな地域を村民の皆さんと協力してつくっていきたいです。そしてぜひ、全国から多くの方に訪れていただきたいと思っています。

 

野沢温泉スキー場の写真|野沢温泉村上野村長インタビュー

年間40万人が訪れる野沢温泉スキー場(出典:野沢温泉村Facebook)

 

小田 同じく地方創生に挑む自治体関係者の皆さんにも、一言頂けますか?

上野村長 人口減少は地方どころか日本の国難のようなものです。本当に難しい局面にきていると思います。過去の慣例になるべく引っ張られずに、今までにない新しい発想が地方創生には必要だと思っています。私自身は、野沢温泉村の未来を本気でつくる覚悟ですので、ぜひ各自治体の皆さんといろんなところでタッグを組んだり情報共有をしたりして、地方から日本を盛り上げていきたいと思います。私の考えに共感いただけるような地域や人たちと、何か取り組みができれば嬉しいですね。

 

【編集後記】

変化を恐れず対話を重視する上野村長のインタビューを通じて、地方自治体が直面する課題への新たなアプローチを見ることができました。江戸時代から続く伝統的自治組織との協働、祭り文化を核とした共同体形成、そして外国人との共生という複合的な課題に対し、周囲との調和を大切に伝統と革新のバランスを取りながら取り組む姿は、多くの地方自治体にとって参考になるでしょう。人口減少やインバウンド対応といった全国共通の難題に対し、地域固有の資源を活かしながら解決策を模索する姿勢からは、地方創生の新たな可能性を感じました。野沢温泉村の今後の展開に注目したいと思います。

 

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2025年11月27日号

 


【プロフィール】

上野 雄大(うえの・ゆうた)

1981年生まれ、長野県下高井郡野沢温泉村出身。元フリースタイルスキー日本代表選手。実業家として4店舗を経営後、2021年に村議会議員に当選し、総務社会常任委員長も務める。
25年3月、20年ぶりとなる村長選挙で初当選し村長に就任。現在1期目。

 

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