「生活都市」から、「多機能都市」へ~川田翔子・京都府八幡市長インタビュー(4)~

京都府八幡市長 川田翔子
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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「多機能都市」への転換

小田 直近の予算では、教育費やDX関連を戦略的に上積みされている様子が見受けられます。どのような判断で予算組みを行ったのでしょうか。

川田市長 予算編成はとても厳しかったです。人件費の膨らみと物価高騰で、昨年からすでに厳しいことは分かっていたので、プロジェクトチームを組んで全事業のスクラップ&ビルドを行いました。各課から、継続性に疑問符が付く事業や、効果検証が甘い事業を全部洗い出してもらって、それを予算査定で一つ一つ議論して削る作業です。

ただ、5万、10万円単位で削っても、人件費や物価高騰等による事業費の膨張、とりわけ人件費だけで約5億円規模の増になっていましたから、結果的に予算は増えてしまいました。

それでも「次の世代への投資」と「魅力あるまちづくり」にきちんと予算を付けることにこだわりました。正直もっとやりたいことはあったのですが、具体的には子育て支援や、石清水八幡宮駅前をはじめとした都市空間づくり、それから市民サービスの文脈でDXによる窓口改革に予算を付けました。

一方で、財源を確保するためにふるさと納税のポータルサイトを増やしたり、企業立地の促進を進めるなどして財源確保に取り組んでいます。

 

小田 続いて、「生活都市から多機能都市への転換」という川田市長の大きなビジョンについてもお聞かせください。

川田市長 市の総合戦略では、「住まう先」「訪れる先」「働く先」として選ばれ続けるまちを目指すという方向性を掲げています。かつての「生活都市(ベッドタウン)」からの脱却を図り、子育て、「健幸」、観光、産業、そして市民協働による多機能なまちへと転換していく。これが中心となるコンセプトです。

 

京都府八幡市総合戦略プロジェクト基本コンセプト

(出典:八幡市まち・ひと・しごと創成総合戦略)

 

小田 「住まう先」としての強化という面では、子育て支援の充実が柱になっていますね。

川田市長 そうですね。子ども医療費の無償化拡充や学校給食費の段階的無償化、「おむつ無料おてがる通園」など、妊娠・出産から子育てまで切れ目のないサポート体制を整えることで、「子育てをしたい」と思っていただけるまちをつくっていきたいと考えています。

また、GIGAスクール構想の推進など教育環境の整備にも力を入れており、将来への投資という観点でも重要な柱です。

 

小田 「訪れる先」として、石清水八幡宮や茶文化といった資源をどう生かすのでしょうか。

川田市長 八幡市には国宝・石清水八幡宮という全国に誇れる観光資源があります。また松花堂庭園、三川合流域の豊かな自然、八幡茶の文化など、他の地域にはない固有の魅力が詰まっています。「ヤワタカラ」というブランドを軸に、これらの魅力を市内外に発信していくとともに、石清水八幡宮駅周辺の整備を進め、訪れた方に滞在を楽しんでいただけるような動線と仕組みづくりを進めています。

ふるさと納税でも大阪府泉佐野市との特産品相互取扱協定を活用しながら、全国に八幡の産品を届けていきたいと思っています。

 

小田 「働く先」の創出という面ではいかがですか。新名神高速道路の全線開通も控えています。

川田市長 新名神高速道路の全線開通は八幡市にとって大きなチャンスです。交通の要衝として企業からの注目度も上がっています。物流・産業拠点の整備を進め、市内での雇用創出につなげていきます。

職住近接が実現すれば、若い世代が八幡に住み、働き、子育てをするという好循環も生まれます。農業の担い手育成や農地の利活用も八幡の「働く場」を支える重要な柱と捉えています。

 

小田 市民の健康づくりという面でも「やわたスマートウェルネスシティ」という構想を推進されていますね。

川田市長 はい。人口減少・超高齢社会において、市民一人ひとりがいつまでも健康で幸せを感じ、生き生きと暮らし続けられる「健幸都市」を目指しています。

市内のスポーツジムと連携した健康づくり教室の開催や「健幸アンバサダー」の養成・活用、そして「やわた未来いきいき健幸プロジェクト」では2024年度から歩数計アプリでの参加を導入しました。23年度末で参加者は約5000人、地域住民の7%以上が参加する規模になっています。

デジタルを活用しながら健康無関心層にも届く仕組みをつくり、全世代での健康増進を目指しています。

 

小田 こうした多機能都市への転換を推進していく上で、何を重要視されていますか?

川田市長 まちづくりは行政だけではできません。市民の皆さん、民間事業者、地域団体、そして八幡に関わるすべての人が「チームやわた」として「ともに考え、ともに実現する」ことが不可欠です。

タウンミーティングを通じた市民参画もその一環です。チームの実行力を高めるため、庁内の人事も強化しました。それぞれの分野での専門性を持つ人材が連携することで、多機能都市への転換を加速させていきたいと思っています。

 

建設的なタウンミーティングを設計

小田 市長は、市民の皆さんとのタウンミーティングも精力的に開催されています。工夫されていることはありますか?

川田市長 実は最初に「市民の声を直接聴く場をつくりたい」と提案したとき、職員の方たちはかなり慎重でした。「要望が噴出して収拾がつかなくなったことがある」というのです。

しかし私がつくりたかったのは、「何でも要望を聞きます」という場ではありませんでした。市として行っている取り組みをお伝えした上で、市民の皆さんから建設的なまちづくりへの意見を頂く。そういう双方向の対話の場をつくりたかったのです。

 

小田 それを実現するために、タウンミーティングは具体的にどんな設計にされたのですか。

川田市長 まず小規模から始めて、参加人数を20人程度に絞ることにしました。そしてミーティングのテーマを「駅前のまちづくり」「高齢者支援」というように毎回必ず一つに絞りました。

さらに参加申し込みの段階から、「テーマから外れた発言」「一人による長時間の発言」「政治的な発言」は制限しますと明記して、それを了承した上で参加していただく形にしました。

 

タウンミーティングの募集チラシ

タウンミーティングの募集チラシ(出典:川田市長Facebook)

 

そうしたら、場が全く荒れなかったのです。むしろ参加してくださった市民の皆さんは、市長と直接話せる場ができたことをとても喜んでくださって。それを10回、20回と積み重ねていくうちに、職員の皆さんの意識も変わってきました。

今年度はついにショッピングモールのフリースペースで50席の飛び込み参加大歓迎のタウンミーティングを開催し、お買い物ついでに立ち寄ってくださった市民の皆さんで満席になりました。

 

小田 設計次第で、全く別の景色になったのですね。職員の皆さんの意識は変わりましたか?

川田市長 今では「次はもっと大きい会場でやりましょう」と言ってくれるようになりました。

さらに面白い変化が起きていて、各課から「来年はこのテーマでタウンミーティングをやってほしい」とリクエストが来るようにもなりました。しかもそのテーマが、「公共交通の再編」などの、なかなか賛否の分かれそうな難しい話ばかりなのです。

 

小田 職員の皆さんにとって、難しいテーマに真摯に対応できる場でもあるのですね。

川田市長 そうだと思います。住民に対し、職員が市の公式見解として「こういう方向に変えていきたい」と言ってしまうと、引っ込みがつかなくなります。しかし、市長個人の見解という形で私が発言すれば、もし反応が悪くても「市長の思いが先走りました」と私が発言責任を取り、変更なども検討することができる。これはやはり政治家にしかできない役割だと思っています。

職員からすれば、後ろで安全に反応を見ながら、難しい課題の社会実証ができるわけです。タウンミーティングがこういう形で機能し始めたことは、とても嬉しいですね。

 

小田 お話を伺うと、就任からここまでの歩みに一貫した哲学を感じます。最後に、全国の行政職員や首長の皆さんへのメッセージを頂けますか。

川田市長 私がやってきたことは、特別なことではないと思っています。職員や市民の皆さんの声に耳を傾け、対話して、現場の課題を制度につなげていく。ただそれを地道に続けることが大事だと思います。

若い首長や外から来た首長が増えている中で、「外から来たこと」を強みとしてどう使うか。私自身がまだ試行錯誤の途中ですが、八幡市でやってきたことが少しでも参考になれば嬉しいです。

 

〈編集後記〉

2回にわたるインタビューを通じて見えてきたのは、川田市長の一貫性でした。前編で語られた就任初期のマネジメントも、後編で聞いたタウンミーティングの設計術も、根底にある思想は共通しています。それは、職員を信じ、市民と対話し、現場の声を制度につなげていくサイクルを、試行錯誤しながら根気強く回し続けることです。

印象的だったのは、郊外都市の構造課題を語るときの熱量です。「国は郊外都市を見ていない」という問題提起は、自市の課題を超えた、全国数百万人が暮らす郊外への問い掛けでもあります。

最年少女性市長という話題性をあえて「推進力」として使いながら、地道な施策を堅実にやり切ることにこだわる川田市長。

八幡市でこれから積み上げていく実績が、縮退社会を生きる多くの自治体にとっての羅針盤になるはずです。

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2026年5月25日号

 


【プロフィール】

川田 翔子(かわた・しょうこ)

奈良県出身。京都大経済学部経済経営学科卒業。
2015年京都市役所に入庁。生活保護ケースワーカーや学校跡地を活用した官民連携事業を担当。
22年に退職し、参議院議員の私設秘書に。23年11月、八幡市長選挙に立候補し、女性最年少(当時33歳)で初当選。市長に就任。

 

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