鈴木太郎 (横浜市会議員、株式会社Public dots & Companyエバンジェリスト、明治大学客員研究員)
過去2回では、議員提案条例制定の経緯と行政・市民との調整に関してお話をしてきましたが、今回はさらに条例を制定するために議会内において何を行ったかをご紹介します。(第1回、第2回)
⑤他会派との調整
当時の横浜市会は定数86議席から成り、そのうちの31議席を最大会派の自民党が占めていました。条例を制定するには議会で過半数を得なければなりませんが、そのためには自民党の票だけでは足りないので他の会派の賛同が不可欠です。そこで自民党原案ができた段階で、友党である公明党(16議席)と第2会派の民進党(21議席)に条例案の説明と合わせて、条例案の共同提案者となってもらうよう打診しました。両党共に内部で検討した結果、共同提案者となることで意見がまとまりました。共同提案者になるということは、議案として上程された際には賛成することになります。従って自民党(31議席)、公明党(16議席)、民進党(21議席)の合計68票を獲得する目処が立ちました。議案が可決する見込みとなった後も、共産党をはじめ全ての会派に対して条例案の説明を行い賛同を呼び掛けました。こうした個別の働き掛けに加えて、超党派、あるいは神奈川県を巻き込んだ啓蒙活動としてインターナショナル・オープンデータ・デイのイベントの中で条例案について解説しました(写真1)。
⑥上程、質疑、採決
上程に向けては日程確保も重要な要素です。本会議に上程し常任委員会へ付託されることを想定すると、それぞれがすでに予定されているかどうか、あるいは新たに日程を組むべきかどうかを考え調整しなければなりません。本会議に上程するには市会運営委員会にも諮らなければなりませんので、その日程調整も必要です。
議員提案条例の場合、提案理由の説明も質疑に対する答弁も提案者の議員が行います。本会議では筆者が提案理由を説明し、PTのメンバーが答弁することとしました。答弁に先立つ形で、質問者に意向を聞きに行く「質問取り」も議員自ら行います。その上で、PTが想定質問および答弁をあらかじめ作成します。このときは、2人の議員から質問が出されました。付託された常任委員会にはPTのメンバーがいないので、PTと常任委員会の委員とで入念に打ち合わせを行います。実際に常任委員会でも質疑が出されましたが、委員の方で適切に答弁することができました。
採決では、共産党が反対したので残念ながら全会一致とはなりませんでしたが、賛成多数で可決成立しました。
◆まとめ
本稿において「横浜市官民データ活用推進基本条例」を例に、議員提案条例制定の実務について紹介しました。議員提案条例と一言で言っても、制定プロセスはケース・バイ・ケースだと思います。大切なことは、条例制定はそれ自体が目的ではなく手段だということです。議員の役割はそれぞれの自治体で必要な政策を実現することです。そのための手段として条例制定があるということを忘れてはいけません。次号では条例制定後の展開について解説します。
鈴木太郎(すずき・たろう)
1967年横浜市生まれ。横浜市会議員(5期)。明治大客員研究員。三菱銀行(現三菱UFJ銀行)、外資系金融機関、政治家秘書、米マイクロ・ストラテジー本社勤務を経て現職。民間企業での勤務経験を活かし、「官民データ活用推進基本条例」「将来にわたる責任ある財政運営にかかわる条例」「中小企業振興基本条例」などを議員提案によって成立させる。現在は民間と行政をつなぐ公民連携に取り組む。米シラキュース大情報研究大学院修士課程修了、上智大外国語学部卒。