日本の隣国であり、長く相互交流を続けてきた中国。今回の新型コロナウィルス騒動は武漢が発生源と考えられています。中国は今回の騒動においては最初の被害国であり、結果として社会全体の潮流や方向性に大きな影響を与えることになりました。
その中で近年注目を浴びてきた中国のイノベーションがいかに国際社会に影響を与えるに至ったかをレポートさせていただきます。
FIND ASIA華南地区責任者
スタートアップサラダ(Startup Salad)日本市場オーガナイザー
加藤 勇樹(余樹)
『人類史上最大の隔離措置』
新型コロナウイルス騒動中の中国で、最大の出来事としては都市封鎖‐封城です。この都市封鎖は感染源と考えられている武漢市のみならず、上海、広州、北京、深圳といった日本人になじみのある都市だけではなく、温州といった人口300万人の中規模都市、さらには人口1万人以下の農村に至るまで様々な地域で隔離や外出制限などに措置が強制力を持って行われました。幸いなことに現在中国国内における都市封鎖は解除されており、最初に封鎖措置が取られた武漢市においても、2か月以上に及ぶ封鎖が解除され、人類史上最大希望の隔離措置は一段落ついたといえます。
中国封鎖された都市
200以上の市町村が影響を受けており、中国国内のほぼすべての人口が都市封鎖による直接または間接的な影響を受けたといえるでしょう。通勤や通学などの社会生活はもとより、消費活動や対面を伴う人間関係においてもその影響は計り知れず、人々の意識にも大きな方向転換を促すことになりました。現実世界における多くの事象、いわゆるデジタル化されていないオフラインの出来事が、デジタル化されるオンラインへの移行を進めることによって、中国市民はこの都市封鎖を乗り越えており、デジタライゼーションの波は今後日本をはじめとする諸国へ伝播していくことが予想されます。
『デジタル化が覆っていた中国社会』
中国にはもともと今回のデジタライゼーションに対応するだけの下地があったといえます。7割を超えるモバイル端末・スマートフォンの普及率に加えて、一人ひとりがWeChatやAriPayをはじめとするアカウントを所有しています。多くの情報が個人間のチャットや、企業のオフィシャルアカウントによってやり取りされている現状に加え、オンラインでの消費活動が一般化しています。
結果として、サービスやモノを紹介する入り口もオンライン化されており、生身の人間が必要となるのは最終的にモノを受け取るときのみです。
体験という付加価値が求められる各種コンテンツはデジタル化されており、映画などの一般的な娯楽から教育部門のオンラインスクール、さらにはお見合いや友人作りといった社交もデジタル化が普遍的になりつつあります。このような下地があったからこそ、1週間、場合によっては2か月にわたる外出制限に踏み切れたといえるでしょう。ではもともとオンライン化の下地があった中国が、どのようにこの危機の中、さらなるオンライン化・デジタライゼーションを推し進めたかをご紹介していきます。
『新型コロナウイルスがもたらした、社会生活全体のデジタライゼーション』
デジタライゼーションにおいても2つの側面からお話しさせていただきます。今回は社会生活、つまりは学校や職場などに直接紐づく事象についてです。
1.教育のオンライン化
多くの人は社会とのつながりの中に生きており、子供にとっては学校などの社会が、成人にとっては会社や職場などの社会が重要な要素です。
中国国内のすべての学校教育機関は休校措置が取られましたが、学校教育の機械自体はオンラインにその場所を移しました。中国国内の2.7億人以上の子供たちが在宅で学習を続けることになり、オンライン教育のために多くの教員が画面越しに指導することになりました。これは公立私立の差や、都市と地方の差があるにせよ、中国の学校全体における事象です。
学校ごとに用いられたアプリの種類や、オンライン学習のための機材は違いますが、『学びを止めず』というスローガンのもと団結しており、昨年比較で学習用アプリのダウンロード数は3000%、300倍の伸びを見せました。オンラインでの授業においては異業種による経験値も生かされております。代表的な例としてはネットアイドルや動画共有アプリなどのコンテンツを提供する企業が、教師陣への撮影アドバイスを行っています。デジタライゼーションをいち早く経験した子供たち世代が成長するにつれて、社会全体のデジタライゼーションへの抵抗もより一層低くなるのではないでしょうか?
2.働き方のデジタライゼーション
『6割以上の会社員が在宅勤務体制に対応する』、日本ではなかなか想像がつかない状況かと思います。中国のホワイトカラー人口は4.2億人とされており、そのうち2.5億人が今回の騒動によって完全在宅勤務に切り替わりました。
元来中国におけるビジネスのやり取りは、チャットアプリによってデジタル化が進んでいたのと、日本と比較するとハンコ文化、署名文化が比較的浸透していないという点がありました。
加えて環境による後押しという点もありました。中国全体で行政による出社制限が強力に施行されたことにより、法令による出社の全面禁止、従業員全体の健康管理状況の行政への提出、衛生用品の備蓄や従業員の間の一定以上の物理的な距離を保たせるなどの要求を満たしたうえで業務再開が許可されました。
結果として多くの企業が在宅勤務体制を強いられる中で、大手IT企業であるAlibabaグループがオンライン会議用のアプリを無料開放し始めたのと、テンセントが企業用のチャットアプリを再開発したことなどにより、デジタライゼーションに一層の拍車がかかりました。
4月現在、このデジタライゼーションの流れは、在宅勤務以外にも広まりつつあります。企業の採用活動がオンライン化への移行とするといった管理業務への転用、カーディーラーなどの販売業においては商品説明などをWEBの現場中継式に切り替えるという販売業務への転用も見られています。
今ある緊急業務のデジタライゼーションから、デジタライゼーションを用いることによる新業態という事象はさらなる広がりを見せることになりそうです。
結び
人は社会的な動物であり、人と人のコミュニケーションは、長く対面でのコミュニケーションが基本でありました。時代の進歩とともに、手紙から電話、電子メールといった手段が置き換わり続けてきましたが、新型コロナウイルス騒動を通して社会の在り方自体が変化を求められています。必要のためのデジタライゼーションから、より良い未来のためのデジタライゼーションが今後求められるかもしれません。
筆者プロフィール
加藤 勇樹(余樹)
FIND ASIA華南地区責任者 、スタートアップサラダ(Startup Salad)日本市場オーガナイザー
2015年より「FIND ASIA」にて、広州・深セン・香港で人材紹介‐企業へのコンサルタントサービスを展開。17年よりFIND ASIAにて中国・大湾区の動向や、イノベーションアクセラレーター「スタートアップサラダ‐Startup Salad」との協業で活躍中