磐田市議会議員
草地博昭
2020/6/22 新型コロナウイルスで地方自治体はどう変わるか(上)
2020/6/24 新型コロナウイルスで地方自治体はどう変わるか(中)
2020/6/26 新型コロナウイルスで地方自治体はどう変わるか(下)
行政組織も変革が求められる
東京都渋谷区では職員の出勤を50%にして業務を行ったり、大津市では本庁舎を閉鎖したりという状況まで追い込まれるなど、新型コロナの感染拡大により行政サービスを行う体制にも支障が出ました。行政はライフラインのうち、ごみ処理、上下水道、緊急の道路保全、市立病院や消防など、生活に欠かすことのできない行政サービスを滞ることなく提供していく使命があります。しかし、その職場でもし感染者が発生したらどうするのか。多くの自治体がBCP(事業継続計画)を作成済みとはいえ、想定できないことも多かったでしょう。またオンラインでできる仕事もあるかもしれませんが、市役所の基幹システムそのものが、個人の情報や重要事項によるセキュリティーの関係から、在宅での作業をイメージして構築されていないため、在宅勤務に馴染むものばかりではありません。自治体業務のオンライン化について可能性は否定しませんが、議会のオンライン化のように単純にはいかないと感じています。
そうした中で、私は行政の組織変革に二つの大きなうねりが来ることを想定しています。一つは、行政業務の広域化や連携です。この新型コロナウイルスの影響で、都道府県の役割が良くも悪しくも大きく注目されました。例えば、保健所は地域保健法に基づき設置が決められていますが、どのような自治体や広域で行うことが効率的なのかという議論が起こることも想定されます。また、磐田市の近隣市はすでに自治体病院を事務組合によって設置していますが、医療圏内の体制や自治体病院の在り方、さらには学校の休業対応や民間事業者への休業要請も都道府県と単位自治体でどのように行うのが効率的なのか、行政業務の広域化や連携は、じっくりと考察すべきだと感じています。
もう一つは、行政職員でしかできない仕事の整理や民間委託のさらなる推進です。出勤する職員数を半減させ業務に当たる一方、コロナ対応で人手が取られ、通常業務に職員を割けないことなど、厳しい環境により自治体職員の組織体制を見直さざるを得ない状況になっています。そこで民間委託できることはどんどん委託し、新型コロナ対策に集中しようという職員体制をとる自治体も増えるのではと思います。この10年を見ても、指定管理者制度や住民票発行業務の一部民間委託など、公民連携が進んでいることも事実です。しかし、指定管理者制度のような利用料収入を見込んで契約している手法では、非常時は「公」と「民」それぞれがその都度対応するというケースが多く、思わぬ形でトラブルになることも想定できます。こちらも今回の影響をしっかりと分析し、契約の見直しや対応の強化を図る必要も検討すべきだと感じています。「公」でできることと「民」でできることをめぐり、行政は既存の制度や働き方に代わる在り方を、民間企業の皆さんはデジタルトランスフォーメーション(デジタルによる課題解決=DX)も含めた積極的な在り方を考え、公民連携がさらに進むことを期待しています。
行政の組織の在り方は、各自治体が先進事例を持つ自治体の1カ月間を検証し、環境の変化をうまく受け止められるかどうか、都道府県や近隣市町とどう連携できるかで、差が生まれると思います。第2波の可能性が指摘されているからこそ、新型コロナウイルスの感染にはしっかりと備えていただきたいと感じています。
オンラインにより距離を飛び越える
これまで我が家でも、海外にいる妹家族と、私と同居している母親が、オンラインで孫の顔を見ながら会話をしている様子を見掛けました。家族間や友達間で多かったオンラインでのやりとりが、「私」的領域から、ビジネスや教育なども含め「公」的領域に進出してきたような感覚を持っています。
これにより、地方にいながら、遠方の興味がある方のお話をリアルタイムで、しかも何人かで共有しながら聞くことができる機会が増えるのではないかと考えています。この1カ月だけでも動画投稿サイトの「ユーチューブ」やビデオ会議システムの「ズーム」等で、多くのセミナーを受けました。それらを(「ウェブ」と「セミナー」を組み合わせて)「ウェビナー」というようですね。本による知識のインプットだけしかできなかった情報を、いつでも手に入れることができるようになり、さらに同じ価値観を持つ方々と、リアルタイムで繋がり、同じテーブルに着いて同じ話を聞けるということが大きな変化だと思っています。もちろん現場に行き目で見て、風を感じることでしか分からないこともありますが、私たち議員にとって当たり前であった、視察に行き、会議室で視察先自治体等の職員に話を聞くスタイルは、もうなくなるかもしれないと感じています。さらに例えば、復活した商店街の話を議員だけでこれまで視察し聞いていたのですが、市の職員、商店街の役員、商工会議所など、多くのメンバーでウェビナーを通じて聞くことにより、私たちが大勢で押し掛けることもなくなり、また先方が忙しい中時間を割いて移動する必要も激減するのではと思います。
さらにいえば、民間企業の皆さんの営業や公民連携の提案も、ウェビナーにより可能性がグンと広がると考えています。興味があっても、視察などの旅費をなかなか出してもらえない自治体職員はたくさんいます。また、情報発信をしたいと考える民間事業者の提案も聞くことができます。ウェビナーにより、本市においても、質の高い話を地方で聞くことができる可能性があるということは、これからの地方の地域づくりにとって、本当に大きなメリットになると感じています。民間事業者にはどんどん良い情報を発信していただきたいと思います。
(「下」に続く)
プロフィール
草地博昭(くさち・ひろあき)
磐田市議会議員
1981年生まれ。2002年国立豊田高専卒、東海旅客鉄道(JR東海)入社。同社建設工事部、NPO法人磐田市体育協会を経て2013年より静岡県磐田市議会議員(2期目)。2019年度は議会運営委員長を務める。