コロナ禍における自治体の情報発信の在り方
タイムリーに分かりやすく市民に情報を伝えていくために
大阪府枚方市議会議員
木村 亮太
2020/9/7 コロナ禍における自治体の情報発信の在り方(上)
2020/9/9 コロナ禍における自治体の情報発信の在り方(中)
2020/9/11 コロナ禍における自治体の情報発信の在り方(下)
3.緊急事態での自治体の対応の在り方
このような有事の住民対応について、多くの人員を充てることができれば、殺到する住民からの問い合わせへの対応も可能かもしれません。しかしながら、地方自治体はこの間も、行財政改革の一環として職員数を例年通り減らしています。総務省のまとめによると、日本全体の地方公務員数は1994年度には328万人だったものが、2019年度には274万人と50万人くらい減少しています。限られた人員で、刻々と状況が変わる中での住民対応にはIT技術を活用していくことが必要です。
福岡市はLINE公式アカウントを効果的に活用
IT技術を活用した情報発信の実施事例として、福岡市のLINE(ライン)を活用した取り組みを紹介します。福岡市は以前からLINE公式アカウントを開設しており、コロナ禍においても、福岡市内で感染者が初めて発見された2月20日の翌日である21日の午後8時には福岡市のLINE公式アカウントの機能として新型コロナウイルスの感染症情報の提供を始めています。LINE公式アカウントのリッチメニューを活用して、よくある質問をクリックしていくと、厚生労働省が公開している「よくある質問」一覧を、チャットボット(自動応答システム)形式で簡単に探しやすいようにしていました。また、問い合わせが殺到する定額給付金の案内についても、LINE公式アカウント内で国の補正予算が成立してからわずか11日後にチャットボットを作り対応していました。このようにスピード感のある対応が他の自治体でも求められてくると思います。
枚方市もLINE公式アカウントを導入
枚方市の取り組みとしては、今夏に導入予定だったLINEの公式アカウントの運用を前倒しして5月25日から運用を始めました。企業より無償提供されている、チャットボット機能と連携しています。しかし、想定質問とその回答についてはまだまだ精査が必要です。チャットボット機能については試験運用のため、7月末をもって終了しましたが、私としてはFAQをさらに充実させることと今後の継続を望んでおります(注)。
ちなみに、LINEの公式アカウントについては7月31日時点で9043人が登録しており、2011年9月から運用しているツイッターアカウントが1万730フォロワー、2016年3月18日より運用開始しているフェイスブックページの「いいね」が3824人、フォロワー4258人となっております。開設時期を考慮すると、フォロワーの増加数と伸びは他のSNS(インターネット交流サイト)と比較してもすごいペースであることがわかりますし、ツイッターのフォロワー数を抜くのも時間の問題だと思います。
注=その後9月末まで運用期間が延長された
第2波、第3波や、自然災害への備えを
人材育成の問題、職員体制の問題、課題はさまざまありますが、今後の第2波、第3波への備えや、今後の自然災害への備えとして取り組んでいく必要があります。新型コロナウイルスの感染拡大の可能性はまだまだあります。また、各地で大雨、豪雨、大型台風や大型地震といった自然災害への脅威にも常にさらされています。そして、今回の新型コロナの影響により、避難所の在り方、運営の仕方について総務省から通知がありました。「府政防第779号・消防災第62号・健感発0401第1号 避難所における新型コロナウイルス感染症への対応について(令和2年4月1日)」を一部引用すると、「(中略)災害が発生し避難所を開設する場合には、新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえ、感染症対策に万全を期すことが重要となってきます。ついては、発生した災害や被災者の状況等によっては、避難所の収容人数を考慮し、あらかじめ指定した指定避難所以外の避難所を開設する(中略)、避難所内については、十分な換気に努めるとともに、避難者が十分なスペースを確保できるよう留意するようお願いします」とあります。
つまり、避難所でも「3密」を避けるようにするべきであるという内容ですが、これにより、避難者同士は十分なスペースを確保することが必要で、避難所としては今まで以上のスペースが必要となるため、災害の規模や避難所への避難人数によっては第1次避難所だけでは収容できない可能性が出てきました。そのため、第1次避難所が密にならないように、第2次避難所も状況によっては開設することとなります。今後はこのようなことも考えられますので、住民に対して各避難所の定員状況やどの避難所への避難が可能なのか、ということについて住民に混乱を招くことなくリアルタイムで情報発信することが必要となります。このようなことも考えると、これまで以上に住民とのコミュニケーションをいかに構築していくかということが大事になります。
IT活用でより多くの人に早い情報発信を
市役所には情報に関する単純な問い合わせもあれば、相談に乗ってほしい、不安な気持ちに寄り添ってほしいという相談もあるため、すべてがすべて効率化できるものでもありません。また、ネットやSNSだけの発信で情報を伝え切れない人にはどうするのか、という問題もあります。ネットやSNSなどに対応できない方への紙媒体での情報発信も否定するものではありません。しかし、紙媒体の制作、印刷、配布というスケジュールでは最新の情報を届け切れないことや、コストの面からも紙媒体で情報発信することは現実的にかなりハードルが高いように思われます。また、これまでに挙げてきた事例や考えている案を導入することにより、ある程度の問い合わせに対応するのは可能であり、HPやSNSで発信することにより職員の負担を減らし、本当に直接対応しなければならない件に集中できるようにするのは可能だと考えます。自治体としては今後さらにITを活用した情報発信、住民とのコミュニケーションに力を入れていくべきであると考えています。
(おわり)
プロフィール
木村 亮太(きむら・りょうた)
大阪府枚方市議会議員
1984年大阪府枚方市生まれ、大阪大学経済学部を卒業し、ベンチャー企業に入社。2011年枚方市議会議員選挙に立候補しトップ当選。現在に至る。
2015年グロービス経営大学院 修了(経営学修士:MBA)
2018年京都大学大学院 公共政策教育部 公共政策専攻 修了(公共政策修士)
未来に責任を持った政治を掲げ、EBPM(証拠に基づく政策立案)、行財政改革、人事給与制度改革、教育子育ての充実、持続可能な社会保障制度の構築のために予防医療・介護予防、また、ICTを活用したまちづくりを提言している。