一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事 小田理恵子
2021/05/07 自治体・地域が潤う官民連携の進め方とは(1)〜若者が定住できる産業振興を〜
2021/05/12 自治体・地域が潤う官民連携の進め方とは(2)〜若者が定住できる産業振興を〜
2021/05/15 自治体・地域が潤う官民連携の進め方とは(3)〜解のない地域課題を共に乗り越えるために〜
2021/05/19 自治体・地域が潤う官民連携の進め方とは(4)〜解のない地域課題を共に乗り越えるために〜
人口減少、高齢化による労働力や消費の縮小……。こうした縮退社会において公共は誰が担うのか?増え続ける行政サービスへの要請に、自治体の持つ人と財源だけでは賄い切れない時代である。自治体が自前主義から脱却し、行政サービスの一部を民間に任せる動きが活発化してきている。
少子高齢化は歳入・歳出の両面から自治体財政を圧迫し、医療や介護などの義務的経費を差し引くと、まちづくりや産業振興などの投資的経費への振り分けは、乾いた雑巾を絞るがごとくである。産業が空洞化する中で、地域の雇用に直結する新たな産業を興せなければ、人口流出に歯止めはかけられない。
筆者がとある広域自治体の産業振興窓口を訪れた際、県民向けに配布している起業セミナーや起業支援プログラムのパンフレットを見て驚いたことがある。それら全てが県外の施設の物であったからだ。その県の起業を目指す若者は、パンフに掲載の県外の施設でスキルと人脈を得て、やがて地元から出て行く可能性が高いだろう。
地域の財政力がそのまま地域産業への投資の多寡に影響していると言える。強い所はますます強く若い労働力を誘引し、弱い所は労働人口ばかりが流出していく。この流れを食い止めない限り、その地域は、団塊ジュニア世代が社会保障を必要とする20年後を乗り越えることはできないだろう。
今の若い世代は、自分が生まれ育った地域への定住志向が強い。しかし、求める職が無ければ県外へと出て行かざるを得ない。移住やワーケーションをはじめとする交流人口を増やす施策も結構だが、生まれ育った人たちに地域に住み続けてもらうための地域産業の振興・起業支援こそ先んじて進めるべきだと考える。
第4次産業革命と日本
さて、産業に視点を移すと、現在は第4次産業革命といわれる産業構造の転換期である。
主流は、工場が規格品を大量に生産し、それを保有することが価値とされた「モノ消費」から、デジタル技術を活用して個人の嗜好やニーズに合わせた体験や交流に価値を置く「コト消費」へとシフトしつつある。
世界の時価総額の上位には、アップル、アルファベット(グーグル)、アマゾン、テンセント、フェイスブックといったデジタル技術を活用した企業が名を連ねている。
日本企業はというと、50位以内にはトヨタ自動車1社のみ(36位:2021年3月末時点)であり、平成初期に日本企業が世界の時価総額の上位を占めていた「ジャパン・アズ・ナンバーワン」時代とは隔世の感がある。
自治体に期待を寄せる、数々の大企業
筆者は現在、「一般社団法人官民共創未来コンソーシアム」の代表理事として官と民を繋ぐ橋渡し役を担っており、多くの企業から相談が寄せられている。その相談内容は概ね以下の通りである。
「このままでは自社の存続自体が危うい」
「新時代に即した新事業を興す必要がある」
「しかし自社単独ではイノベーションを起こせない」
「そして、自治体の抱える社会課題に新事業のヒントがあると考えている」
「だから自治体と繋がって社会課題を解決する実証実験や自社サービスの展開を行いたい」
世界のデジタル化の波に置いていかれた日本企業は危機感を抱いており、旧来のビジネスモデルから脱却するためのパートナーとして自治体を求めている。
昨今、官民連携という言葉を聞かない日はない。これを事業機会と捉えてか、社会課題と民間企業をマッチングするサイトやサービスが乱立している。国においても、内閣府が「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」を立ち上げるなど、同様の動きを見せている。
そうした潮流の中で、また冒頭に述べた自治体の懐事情から、多くの自治体が官民連携事業を推進していることだろう。しかし、官民連携事業は自治体側のメリットが少ないと感じている職員も多いのではないだろうか。
「実証実験を実施しただけで効果が得られないまま終わった」
「営業活動の片棒を担がせられただけだった」
「首都圏の企業が潤うだけで地域への還元がなかった」
といった職員からの声を聞くことも少なくない。
官民連携は、指定管理などサービス主体を民間に移すことで事業費の圧縮には繋がったかもしれないが、地元に価値を残し持続可能な地域を創る、というところにまでは発展していない。
(第2回に続く)
【プロフィール】
小田理恵子(おだ・りえこ)
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事
神奈川県在住。大手SI企業にてシステム戦略、業務プロセス改革に従事。そこで手がけた自治体の行政改革プロジェクトを契機に地方自治体の抱える根深い課題を知る。未来の行政のあるべき姿を追求するため2011年より川崎市議会議員を2期8年務め、行財政制度改革分野でのさまざまな提言を行う。2020年、一社)官民共創未来コンソーシアムを立ち上げる。自治体と企業を繋いで、地域を都市と繋いだ価値循環の仕組みを支援。