椎名つよし法律税務事務所 代表弁護士株式会社メディアドゥ(東証1部上場)監査役
福島県磐梯町デジタル変革審議会 会長2021年度神奈川県包括外部監査人・椎名毅
(聞き手)株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴
2021/06/14 地方自治体はトライアンドエラーで独自の行政運営を(1)
2021/06/17 地方自治体はトライアンドエラーで独自の行政運営を(2)
事前調整とクリエーティビティーのバランス
伊藤 オンライン審議会の運営で、難しいと思うところはありますか?
椎名氏 オフラインの審議会では、出席者の表情や態度などを見ながら、その場でいったん仕切り直して、担当職員から詳細の論点整理をしてから、もう一度審議に戻るというようなことができました。オンラインでの審議会では、非言語的なコミュニケーションが少ない分そのような対応が難しく、事前の委員への情報共有や委員と事務局との事前準備が大切になります。
この点、議会質問や委員会質問などの書面で事前通告し、事前の答弁調整もある、ある意味儀式的な側面がある従来通りの議会質問は、オンライン会議に向いているような気がします。
これに対して、国会で言うと憲法審査会、地方議会で言えば委員間討論のような、あらゆる方向から意見が飛び交ってくるような、自由な意見交換や討論・討議は、オンライン上で取りまとめをするのが難しいと感じます。
磐梯町のデジタル変革審議会も、後者のような自由討議を活発に行うことを目指していますので、まだまだ課題はあると考えています。
伊藤 審議会を行う際の事前協議や座回しについても、詳しく伺いたいです。
椎名氏 磐梯町のオンライン審議会の場合は、割と自由な座回しをしています。審議会の会長として、担当部局の職員との事前協議をもっと綿密に行った方がいいのではないか?という考えは頭の片隅にはあるものの、自由な意見の交換の中から出てくるクリエーティビティーや面白さはあると思っています。この辺りは走りながら修正しています。
この考えの基になっているのが、神奈川県鎌倉市の共生社会推進検討委員会の審議委員をしていたときの経験です。
その委員会は、地元の町会の役員の方や、地元大学の教授、障害者団体の代表者など多様な属性の方々で構成されており、意見調整が難しい側面がありました。日本大の鈴木秀洋准教授が座長として、念入りに担当部局の職員と事前協議や座回しを行った上で、各審議委員の方が自由な意見交換を行うことができるような審議会にしてくださいました。
なかなか良い審議ができた会となり、「予定調和ではなく、何か面白いことをやっている」とクチコミで広がり、議員や地域の方が多数傍聴に来るようになりました。
ですので、事前協議や座回しの予定調和と、当日の自由な議論から生まれるクリエーティビティーのバランスが取れると、面白い議論になるのではないかと思っています。
トライアンドエラーとナレッジの共有を
関連fa-arrow-circle-right磐梯町公式YouTubeチャンネル
伊藤 何か結論を出すという意味での審議会の役割を、改めて伺ってもいいでしょうか?
椎名氏 磐梯町デジタル変革審議会の役割は、主に三つあり、一つは「磐梯町の改定するデジタル変革戦略への承認を出す」というもの。二つ目は「磐梯町の改定するセキュリティーポリシーへの承認を出す」です。三つ目が「デジタル変革に向けての改定すべき条例の洗い出しと整備の方向性を協議する」というものですね。
特に3点目については、磐梯町では条例が作ったままアップデートされずに放置されてしまうこともありましたが、デジタル変革を進めるならそれに合わせてアップデートしていく必要があります。当面、念頭に置いているのは、個人情報保護関連の条例のアップデートですが、審議会ではそれ以外にも検討すべき対象を幅広く協議していきます。
先ほども述べましたが、地方自治の役割・機能の一つに、先導的・試行的施策の実施(行政的実験の実現)という点がありますので、条例もまずは定めてみて、問題があれば、直す、トライアンドエラーを続ければいいのではないかと考えています。それくらいの積極性でいかないと、自治体の独自課題の解決は前に進みません。
これについては、議会とのコミュニケーションが最大の課題ではないかと考えますが、首長のリーダーシップによる職員へのサポートが必要になるのは言うまでもありません。磐梯町では、佐藤町長のリーダーシップがこれを可能にしています。
伊藤 磐梯町デジタル変革審議会の方々からは、毎回専門的な知見がたくさん出ているはずですが、行政側はそんな数々の知見の中から、自分たちの町に必要なものをジャッジしていく能力を求められるでしょうね。
椎名氏 もちろんです。そこは行政官としての政策力が問われますし、成長しなければならない点だと思います。特に磐梯町デジタル変革審議会のように、自由でクリエーティブな議論が行われる場において、その中から情報の取捨選択をしたり、審議会側に行政の希望を伝えたりするには、絶え間ないコミュニケーションが不可欠です。
伊藤 それらも含めて、地方自治のトライアンドエラーということですね。
椎名氏 そう思います。実験的な取り組みには工夫しなければならないことがたくさんありますが、磐梯町はエラーとなってしまうことを恐れずに、デジタル変革のチャレンジを進めていますし、私たちのような外部の審議会の委員がこれをサポートさせていただいています。
今後、多様な自治体でも、さまざまな実験的・試行的な取り組みへのチャレンジが行われ、パブラボのようなメディアが(それらを掲載することで)実験的な取り組みの中から生まれた新しい経験や知見を全国の自治体職員の皆さまに共有していただき、これを見た他の自治体の方が参考にしながら、実験的・試行的なチャレンジを行っていくという好循環が生まれればと思っています。
そうすれば、今よりもより良い地方自治の在り方が見えてくるはずです。
【編集後記】
椎名氏のインタビューからは、地方自治体が自発的かつ柔軟に「実験」することの意義と、地方自治体がオンラインで全国の有識者とつながったときの恩恵が伝わってきました。
今回紹介した磐梯町の取り組みが、全国の地方自治体がナレッジを共有するきっかけとなることを願い、この記事を閉じたいと思います。
(おわり)
【プロフィール】
椎名毅(しいな・つよし)
福島県磐梯町デジタル変革審議会 会長
椎名つよし法律税務事務所代表弁護士。東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。主に企業法務に従事。2009年ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに留学。同大学院在学中、コロンビア大学国際公共政策大学院に再留学し、2011年両大学院から公共経営学修士(MPA)を取得。同年いわゆる国会事故調査委員会で福島第一原子力発電所事故の事故報告書作成に従事。衆議院議員の経験も持つ(1期)。
伊藤大貴(いとう・ひろたか)
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。