公務員・議員時代の人脈や感覚を大学で活かす

たぞえ 市役所に26年間勤められ、民間に行くことも検討したとおっしゃっていましたが、公務員の方が民間にいくイメージをあまり持っていませんでした。一般的には、勤め上げて外郭団体にいく方が多い印象です。当時、周りに民間へ行く方もいらっしゃったのですか?

河野さん 若い職員は、他の自治体へ転職する方が多かったですね。民間から公務員は多いけれど、やはり公務員から民間は少ないです。民間は役所と比べて時間の流れが速いですよね。

本目 公務員から民間を考えた時に、どんな職種へ行くイメージだったのですか?

河野さん 地元の方から、いくつか総務系の仕事のお話をいただいていました。あとは、武蔵野大学さんに声をかけていただいたのもその頃です。

本目 もともとつながりや交流があったのですか?

河野さん 小金井市では、複数の大学と包括連携協定を結んでいて、インターンシップなどを行っています。武蔵野大学は協定を結んだ大学の一つです。

本目 なるほど、そういうつながりだったのですね!

たぞえ 2020年に入職された武蔵野大学では、どんなお仕事をされているのですか? やはり地域連携でしょうか?

部下からの評判は「頼れる上司」「話を聴いてくれる上司」(写真は部下が準備した誕生日のお祝い)
部下からの評判は「頼れる上司」「話を聴いてくれる上司」(写真は部下が準備した誕生日のお祝い)

 

河野さん 役職としては、法人企画課と広報課の課長を兼務しており、おかげさまでとても忙しい日々を過ごしています。学校法人武蔵野大学は、大学、中高、幼稚園、こども園、保育園、千代田区にも中高があり、法人にまたがるような施設整備プランやブランド力向上、入試戦略、新学部設置など、あらゆることに関わっています。その中に地域連携ももちろん含みます。コロナ禍でも業務を先延ばしにしないよう、「やるべきことは今やるんだぞ」という意気込みで進めています。このモチベーションは公務員時代から変わらないですね。江東区・有明にキャンパスがあるので、東京オリンピック・パラリンピック会場が徒歩圏内にあり、大会に向けた準備にも関わっています。

たぞえ そんなに幅広くご担当されているのですね! 民間は仕事のできる人に仕事が回りがちだと思うので、河野さんにどうしても仕事が回ってくるのも納得です。

河野さん 役所も大学も同じですが、複数の部署にまたがる業務ってありますよね。私が役所にいた頃は、そういう業務に私が率先して手を伸ばしていました。これは民間でも同じで、お互い手を伸ばして協力すれば、何事もうまくいくと考えています。

本目 公務員・議員時代のご経験や知識、ご人脈を、今のお仕事にも活かしていらっしゃるのでしょうか?

河野さん 直接的には活かしにくいかもしれませんが、地域連携、産官学連携において、これまでの人脈や感覚は活かせると思います。教育分野は自治体にもありましたので、実際に活かせている場面もあります。また、学校会計と自治体の会計は、予算決算の流れが似ているので、掴みやすいところはありますね。

たぞえ 大学って民間の中では公共寄りですよね。「公共の担い手」にもなると思うので、河野さんの得意分野なのではと思いました。産官学連携については、産学連携はうまくいっても、そこに官が入るのはなかなかうまくいかないとも聞きますが、いかがですか?

河野さん おそらく自治体にノウハウが蓄積されていないんです。連携協定を結ぶことで落ち着いてしまって、実体のない連携になっている場合もあるかもしれませんね。小金井市では、農工大とインキュベーション施設をつくって起業支援をしており、良い結果も出てきています。ただ、小金井市はほとんどが住宅地のため、専門性の高い起業を進めた後に、市内に事業所を起こすことが難しく、他の自治体に移転を余儀なくされるというのは、もったいないですね。まだまだ自治体の方が「産官学連携」に手が伸ばし切れていないというのは、どの自治体も同じじゃないかなと思います。

たぞえ 確かに、特に東京都内は税制上、企業誘致してもうまみがないので、力を入れる自治体は少ないかもしれないですね。ただ、社会課題の解決のために、産官学連携によっていろんな研究ができるんじゃないか、持続可能な社会を目指すようなプロジェクトがどんどん生まれてもいいのではないかと思いますね。そのあたり、大学はどうあるべきだと考えていらっしゃいますか?

河野さん 大学はせっかく専門的な研究をしているのですから、もっと地域に入って、活かしていくことが必要だと思います。施設貸出というレベルではなくて、地元と一緒に動ける大学というのが、大学のあるべき姿なのではないでしょうか。武蔵野大学に来て2年目になるので、今後、地域連携には取り組んでみたいですね。また、今は法人サイドの仕事をしているので、学生と関わることがないんです。学生と交われれば、いろんな新しいアイディアも出てくると思います。武蔵野大学はもうすぐ100周年を迎えるので、学生と何か一緒にクリエイティブなこともしてみたいですね。

ロールモデルはいなくても、歩んだ後ろに道ができている

たぞえ これからもキャリアを積み重ねていかれる中で、どんな想いを大事に、どんなことを実現されていくのでしょうか?

河野さん 今って学校が良い塩梅で点在しており、高齢者の方々の居場所づくりなど、地域コミュニティーとしての役割が求められてくると思います。「大学も公共の担い手」というお話があったと思いますが、学校も含めた「まちづくり」に取り組めたら面白そうですね。いかに人を呼べるかとか、まちが活性化していく仕組みづくりとか。成果が目に見えるのは醍醐味だなと思います。私は大学にいても、役所にいても、どこにいてもやることは同じです。目の前の相手に喜んでほしい。そのために、自分の力を活かし切ることができたらと思いますね。

河野さんは中央右側。河野さんの周りにはいつもたくさんの人の笑顔があふれている
河野さんは中央右側。河野さんの周りにはいつもたくさんの人の笑顔があふれている

たぞえ 河野さんは考え方が柔らかいですよね。一般的な公務員のイメージというと、「頭がカタイ」「仕事を増やしたくないオーラを出す」みたいなことを思い浮かべる方も多いと思いますが、今日の河野さんのお話がそのイメージを根底から覆したのではないでしょうか。いったい何が河野さんをこんなにも突き動かしているのでしょう。

河野さん 「相手の方が望むところって何かな」というのを考えて動くようにしています。もちろん、難しいことは難しいと言いますが、「どうしたらできるかな、どこまでやれるかな」と常に考えています。困っている市民に対して、断るのは簡単ですが、やる気になればお手伝いできることってたくさんあるなと思います。

たぞえ ちなみに、どなたかロールモデルみたいな方はいたのでしょうか?

河野さん 正直いなかったですね。「自分のあるべき姿を模索する」という感じですかね。

本目 これまでのキャリアを振り返られて、公務員・議員時代にやっておくべきこと、大切にするべきことがありましたら、ぜひ教えてください。

河野さん やっぱり人脈が一番大きいと思います。省庁・議員同士・地域の方々・いろいろなセミナーなどでお会いする方々など、人と人とのつながりを大切にすることが大事だと思います。市議にならないかとお声がけいただいたのも、武蔵野大学にお誘いいただいたのも、人と人とのご縁からです。

たぞえ 私も本目さんも日々悩みは尽きません。日本に数多くいる公務員・議員の中で、これからのキャリアについて悩まれている方もたくさんいると思います。公務員や議員を続けている先に何があるのか、続けていると良いことがあるのか含めて、最後にメッセージをいただけたら幸いです。

河野さん 公務員や議員を続けられれば、それぞれの自治体の住民の方々がいきいきと暮らせるまちにしていけるはずです。先を、先を見ていただいて、歩まれた後ろに道ができるんだと思いますので、ぜひ頑張っていただきたいですね。

オンラインインタビューの最後には、3歳のお孫さんも登場!「ばぁば」としてのやさしい笑顔も素敵でした
オンラインインタビューの最後には、3歳のお孫さんも登場!「ばぁば」としてのやさしい笑顔も素敵でした

 

【インタビュー後記】

たぞえ 市長選にまで出た方なので雄弁に語られるのかなと思っていたのですが、その逆で、本当に柔らかくしなやかな方でした。その時その時、自分に何ができるかを考えて行動に移されていて、「こんなふうに仕事される方がいたんだ」と驚きました。地域連携、産官学連携、部署を越えた協力などにおいて「手を伸ばし合えばうまくいく」という言葉がありましたが、私が今取り組んでいる「官民共創」の概念にも通じるところがあると思いました。

本目 本当に素敵な方でした。公務員のエリート街道を歩まれた方なのに、決して「バリキャリ」ではなく、一つ一つの仕事を丁寧にされてきた方なんだなと感じました。政治は商品というモノがなく、人しかいない世界です。「この人なら動かせるんじゃないか」と思わせる行動力と誠実さが、人脈につながり、河野さんのキャリアの彩りにつながったのではないでしょうか。

(文・PublicLAB編集部/人材事業部 冨山美欧)


 

【プロフィール】

河野律子(かわの・りつこ)
元小金井市議会議員/元小金井市役所職員/現武蔵野大学職員

東京都立川市出身。大学卒業から26年間小金井市役所に勤め、企画財政部長や子ども家庭部長など要職を歴任。2017年、小金井市議会議員に転身。2019年には小金井市長選に出馬するも惜敗。2020年、武蔵野大学に入職し、現在法人企画課長兼広報課長。2人の孫育てが何よりの楽しみ。

 

本目さよ(ほんめ・さよ)

台東区議会議員/WOMANSHIFT代表

横浜市・八王子市育ち。大学・大学院で心理学を専攻。(株)エヌ・ティ・ティ・データ・イントラマートに入社し、人事部で働きやすい職場にするための各種制度を策定。「性別に関わらずやりたいことができる社会をつくる」ため、2011年に台東区議会議員選挙に立候補し初当選。現在3期目。気軽に政治に関われる「ママインターン」を展開中。

 

田添麻友(たぞえ・まゆ)

目黒区議会議員

東京都目黒区生まれ。大学卒業後、専門商社に2年勤務し、ベンチャー系経営コンサルティング会社に転職。3児の母となり、待機児童問題に直面。高校生のときから環境問題等を解決したいという想いもあり、2015年に地元・目黒区から無所属で立候補し初当選。現在2期目。

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