「まちづくり」は「人づくり」、シビックプライドの醸成を 〜草地博昭・静岡県磐田市長インタビュー〜(2)

草地博昭・静岡県磐田市長
(聞き手)株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴

2021/08/17  「まちづくり」は「人づくり」、シビックプライドの醸成を 〜草地博昭・静岡県磐田市長インタビュー〜(1)
2021/08/20  「まちづくり」は「人づくり」、シビックプライドの醸成を 〜草地博昭・静岡県磐田市長インタビュー〜(2)
2021/08/23  若者にとって誇れる地方都市にするには 〜草地博昭・静岡県磐田市長インタビュー〜(3)
2021/08/26  若者にとって誇れる地方都市にするには 〜草地博昭・静岡県磐田市長インタビュー〜(4)

若者が増えていくまちに

伊藤 8年間の市議会議員時代も含めて、草地市長が政策の中でメインに訴えてこられたこととは何ですか?

草地市長 二つあります。一つは「安心できるまちを目指す」ということ。二つ目は「人が集まる磐田市にする」ということです。

磐田市は2005年に五つの市町村が合併し誕生しましたが、その後約15年間で、若者の人口が約1万2000人ほど減っています。ですが、全体の人口としては約6000人の減少です。これはすなわち、高齢者の割合が増えているということです。しかも、一人暮らしの高齢の方が多くなってきているので、その方たちにきちんと安心を届けるのが大切だと思っています。

同時に、若者が増えていくまちにすることが持続可能性という面で最も重要だと思っていまして、議員時代から今でもずっと訴えています。その意味を込めての「人が集まる磐田市」です。

 

伊藤 それは、若い人たちに磐田市に住んでもらえるようにするということですか?

草地市長 住むことと、訪れてくれること、定住人口と交流人口の両方ですね。磐田市は人口17万人ですが、生活圏は静岡県西部地域に該当します。そのエリアで捉えると、人口が130万人になります。ちなみに磐田市に隣接しているのは、人口80万人の浜松市です。

ですから、必ずしも磐田市に定住することだけが答えではなく、エリア全体で価値を上げて人の行き来が活発になる仕組みをつくることが大切だと思っています。

 

伊藤 人口減少社会の一般論として、定住人口が増えれば、その分移動元の地域の人口が減ることになるので、一概に定住人口だけを増やしましょうとは言えない側面があります。だから次に交流人口を増やすという発想になると思うのですが、交流人口を増やした時に、それが一体どのような恩恵をもたらすのか?明確に見えている自治体は少ないのではないかと思います。その点、草地市長はどんなお考えをお持ちですか?

草地市長 私は、交流人口が増えることで、磐田市民のシビックプライド(市民の市に対する誇り)が高まっていけばいいのではないかと思っています。今のところ何か指標があるわけではありませんが、たくさんの方が磐田市を訪れることで、「自分たちが住んでいるまちはこれだけ支持されている」と思えれば、市民の方のまちに対する意識も変わってくると思います。

磐田市は全国に発信できる観光地が弱い土地ですが、交流人口と言えば仕事で訪れる方か、Jリーグのサッカーチームであるジュビロ磐田の試合を観戦しに来る方くらいの規模です。今後はさらに増やしていかないといけないと思っています。

持っている「まちの素材」を活かす

伊藤 私が市議会議員時代にずっと見てきた横浜市は、明らかに昼間人口が少ない自治体でした。昼間は皆、東京に働きに出るからです。ですから語弊を恐れずに言うと、お金は東京で使い、横浜は住むため、寝るために戻って来る場所ということです。よって、地元にお金が回らないという深刻な問題があります。

磐田市の場合は、昼間人口は増えるのですか?減るのですか?

草地市長 昼間人口の方が若干多いです。市内にヤマハ発動機やスズキの工場があるので、そこで働く方が多いですね。ただ、経済的なインパクトについては、これから分析の余地があります。

ちなみに、磐田市の人口動態には、外国人が多いという特徴があります。17万人のうち、約8000人が外国人です。多文化共生という意味では、先進都市だと思います。これから日本の至る所で、多文化共生による課題が出てくるはずですので、磐田市がトップランナーとして、模範になる姿を見せることができればと思います。

 

伊藤 外国人が多い理由は、ヤマハ発動機やスズキなどの工場が立地しているからですか?

草地市長 そうです。「楽器のまち」「バイクのまち」として名が通っているのは隣の浜松市ですが、生産は磐田市内の工場でも多くを行っています。

これは私自身、磐田市のブランディングの課題であると思っています。実は楽器の生産量が多いのに、市民の方も知らないことが多くて。ただ、市内には楽器を演奏するアーティストがたくさんいらっしゃるので、まちの魅力づくりに音楽を絡めていくのも一つの方法だと考えています。

 

伊藤 音楽も磐田市のシビックプライドにつながる要素になるということですね?

草地市長 十分なり得ると思います。音楽だけではなく、今、磐田市にある素材をもっと磨いて伸ばすことにまずは注力する必要がありますね。

それから、磐田市の一番の強みと言えば、やはりスポーツです。Jリーグのジュビロ磐田と、社会人ラグビートップチームのヤマハ発動機ジュビロ(来シーズンからは「静岡ブルーレヴズ」)の本拠地があります。人口17万人ほどの規模の都市で、スポーツのトップチームを二つ持っているのは日本の中では磐田市だけではないかと思います。

ですから、最近考えているのは、アウェーのチームと連携しながらメディアでしっかりまちをアピールしていこうということです。すると地元の新聞だけでなく、全国紙や(他地域の)地方紙などにも「磐田市」の名前が載る可能性があります。サッカーとラグビーであれば、アジア圏も視野に入れられると思っています。

多様なメディアで露出して、多くの人に「磐田市はどんなまちなんだろう?」と興味を持っていただければ、関係人口も増えるし、まちの価値は高まります。今後はコロナの様子を見ながらになりますが、アウェーチームのホームタウンとはぜひ、リレーション(関係)を築いていきたいですね。


伊藤 
特に「ジュビロ磐田」は全国的な知名度を誇りますから、他の自治体とウィン・ウィン(相互利益)になる連携ができると良いですね。

草地市長 もともと磐田市は「日本のどこにあるの?」「何と読むの?」の疑問形から始まるような地方都市でしたが、ジュビロ磐田のおかげで、全国の方が「まちの名前が読める」ところまできました。私自身、ジュビロ磐田があったから地元に誇りを持てたとも言えます。だからこそ、この先もっとできることがあると思い、奮闘しています。

 

伊藤 昨今は「自治体政策のイノベーション」というキーワードが頻出するようになった影響か「何か新しいものを取り入れなければ」と急く地域も多いと思います。

しかし、新しいものだけがイノベーションではなく、草地市長がこれから取り組まれるような「今あるまちの素材を磨く」ことも十分イノベーションです。次回からのインタビューでは、磐田市の大きな強みであるスポーツを起点にした地域の魅力づくりや、若者が増えるまちにするためのアイデアなどを伺います。

 

第3回に続く


【プロフィール】

草地 博昭(くさち・ひろあき)
静岡県磐田市長

1981年生まれ。静岡県磐田市出身。国立豊田工業高等専門学校を卒業。NPO法人磐田市体育協会にて事務局長を務め、2013年に磐田市議会議員に初当選。以来、市議会議員を2期務め、その間、議会運営委員長、予算決算委員長、民生教育委員長を歴任。2021年4月に磐田市長に就任。

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