三重県東員町長 水谷俊郎
(聞き手)Public dots & Company 代表取締役 小田理恵子
2022/1/31 全国初「移動式脳ドックサービス」の実証実験 ~水谷俊郎・三重県東員町長インタビュー(1)~
2022/2/3 全国初「移動式脳ドックサービス」の実証実験 ~水谷俊郎・三重県東員町長インタビュー(2)~
2022/2/7 50年後を見据え、挑戦繰り返す〜水谷俊郎・三重県東員町長インタビュー(3)〜
2022/2/10 50年後を見据え、挑戦繰り返す〜水谷俊郎・三重県東員町長インタビュー(4)〜
前回(第1回、第2回)に引き続き、三重県東員町の水谷俊郎町長のインタビューをお届けします。
前回までは、同町が2021年6〜7月に行った「磁気共鳴画像装置(MRI)搭載車両を使用した移動式脳ドックサービス」(以下、スマート脳ドック)の実証実験について、詳しく伺いました。
出光興産株式会社、スマートスキャン株式会社と連携して進められた本プロジェクトは、準備期間がわずかだったにもかかわらず、水谷町長や職員の皆さんの速やかな対応で実施され、住民の満足度も非常に高かったことが印象的でした。
これから官民連携に取り組もうとしている地方自治体の職員の中には、既に実施した他自治体の事例を知りたいと思う方も多いと思います。
今回からは、同町がこれまで取り組んできた官民連携の事例や、民間企業と事業を進めるコツなどについて伺います。(聞き手=Public dots & Company 代表取締役・小田理恵子)
複数の分野で官民連携
小田 スマート脳ドックの実証実験では、MRI搭載車両を利用することで、「遠方の病院に行かなくても短時間で脳ドックが受診できる」という新たな価値を町に生み出しました。他にも官民連携で、地域の課題解決や価値創出に取り組まれている事例があれば、ご紹介ください。
水谷町長 では三つ、お話しします。
一つ目は、福岡県の企業と連携して実証実験した件です。その企業は、輻射と放射の仕組みを利用した特殊な空調システムを持っています。そのシステムを使うと冷房や暖房が無風で行えるので、人の体に優しいのです。ですから、これを町の発達支援の療育施設に実験的に設置しました。4〜5年ほど利用していますが、施設の職員いわく、室内の環境は非常に良いとのことです。
現在、一つの中学校の移転整備が町内で議論されているので、この中学校にも同じ空調システムを導入できないかと考えています。
二つ目は、ハウスメーカーとの連携事例です。この企業とは、公園の有効活用と災害対策というテーマで実証実験を行おうとしています。
町役場の隣に約14.5ヘクタールの大きな公園があります。そこには年間17万〜18万人が訪れるのですが、店舗がありません。つまり維持管理費は掛かりますが、収益はないということです。
そこで収益性を高める施策として、ハウスメーカーのコンテナハウスを使ったカフェをオープンしようとしています。コンテナハウスの屋根には太陽光パネルがあり、蓄電池や「エコキュート」(空気中の熱を集めてお湯を沸かす電気給湯器)も備えています。
普段はカフェとして、公園に来ていただいた方にいろいろなサービスを提供しますが、災害時には食料などを供給できる一時避難場所になるのです。この実証実験がうまくいけば、次は公園内で宿泊施設を運営することも検討しています。宿泊施設であれば、災害時はすぐに避難用住宅として機能しますから。
三つ目は、官民連携というより産官学連携の事例です。東員町は行政区画の約3分の1が農地なのですが、そこで収穫される農産物の収入が少ないという課題があります。そこで農産物の高付加価値化を目指した取り組みを、生産者・企業・大学・行政が一緒になって進めています。
希少品種の大豆の生産から加工販売までを一体的に行い、6次産業化していこうというプロジェクトです(図)。東員町では、このように複数の分野で官民連携を進めています。
町長自ら民間企業にアプローチ
小田 水谷町長は民間企業でのご経験をお持ちなので、かなり早い段階から官民連携に着目されていたのですね。これまで幾つもの民間企業と接点を持たれたと思うのですが、最初はどちらからアプローチしたのでしょうか?
水谷町長 私からアプローチすることの方が多いですね。いろいろと情報収集していく中で、「これは良い」と感じるものがあれば、企業に私から直接お声掛けします。先ほど一つ目の事例でお話しした福岡の企業の空調システムは、実際に現地まで視察に行きました。
小田 町の課題や理想像が常に頭の中にあり、それに関係する情報にアンテナを立てているイメージでしょうか?
水谷町長 そうですね。常にアンテナを立てています。今は行政だけで解決できない課題がたくさんあります。県や国に協力を仰ぐのも一つの手段ですが、スピード感や実現性は民間企業の方が勝ると私は思っています。積極的に民間企業と接触するのは、そういう理由があるからです。
小田 先ほど、民間企業に水谷町長自ら連絡されると伺いましたが、首長が直接、企業とコミュニケーションを取るパターンは珍しいのではないかと思います。
水谷町長 職員の中には行政の経験しかない者もいますから、私が率先して民間企業とやりとりする姿を見せることで、企業とのコミュニケーションの感覚をつかみ取っていただきたいという思いがあります。
小田 それは暗に職員の方に挑戦を促しているということですね。行政職員にとっては、決まった業務を正確に行うのも大切な基本動作ですが、時代の移り変わりが早くて先が読めない現在は、挑戦しながらPDCAを回すことにも取り組む必要があると思います。
水谷町長 私も同感です。挑戦してみて駄目なら次の一手を考えればいいのです。反対に、挑戦しなければ何も始まりません。
(第4回に続く)
【プロフィール】
水谷 俊郎(みずたに・としお)
三重県東員町長
1951年生まれ。東京工業大工学部を卒業後、三重県庁、大成建設株式会社での勤務を経て、91年4月に三重県議会議員に初当選。3期の間に県監査委員、県議会行政改革調査特別委員長、同PFI研究会座長などを歴任。2011年4月に東員町長に就任し、現在に至る。