ごみ問題、ITと科学技術で解決を!(2)〜マイクロプラ対策の旗手に聞く「データを活用した環境保全」 〜

株式会社ピリカ代表取締役/一般社団法人ピリカ代表理事・小嶌不二夫
(聞き手)Public dots & Company 代表取締役/官民共創未来コンソーシアム代表理事 小田理恵子

 

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解決策は二つしかない

小田 ピリカ社のサービスは、ごみの定量化に関するものが多いと見受けられるのですが、アプローチとしては「そもそも生活の中でごみを出さないようにするための定量化」と、「出てしまったごみを自然に流さないための定量化」の二つという理解でよいでしょうか?

小嶌氏 ごみ問題の解決策は基本的に二つしかありません。「ごみの流出量を減らす」と「ごみの回収量を増やす」です。今、地球が汚れていっているのは、ごみの回収量よりも流出量の方が圧倒的に多いからです。回収量も流出量もきちんと測定した上で回収量の方が多い世の中をつくれば、理論上ごみは地球から減っていきます。

私たちは「流出量を減らす」「回収量を増やす」を、さらに分類して四つの軸で考えています。それは①流出量を測る取り組み②流出量を減らす取り組み③回収量を測る取り組み④回収量を増やす取り組み──です。この四つをすべてITや科学技術で効率化し、世界中で実施される取り組みにすることを目指すのがピリカ社です。

 

小田 自治体との取り組み事例について、具体的にお話しいただけますか?

小嶌氏 ごみ拾いSNS「ピリカ」の活動を可視化しデータ管理できる「見える化ページ」の自治体版を導入いただいています。ITや科学技術を用いると聞くと、さも効率の良い、夢のような解決策がイメージされますが、私たちの知る限り、最も着実な解決方法はごみをきちんと拾ったり回収したりすることなのです。清掃活動から逃げることはできません。

ならば、どのようにして多くの人たちに、ごみ拾いや回収活動に参加してもらうかを考えることが大切です。「ごみ拾いSNSピリカ」はその観点から作ったアプリで、世界100カ国以上、延べ200万人以上に参加いただき、累計のごみ回収量は2億個を超えました。

 

実は、新型コロナウイルス禍以降にこのサービスを導入してくださる自治体が増えています。背景には清掃活動の変化があると考えています。コロナ禍をきっかけに、自治体が行っていた大規模集合型のクリーンアップキャンペーンが軒並み中止になりました。毎年6月の環境月間に駅前や市役所前に人を集め、数百人規模で地域の清掃活動を行うようなイベントです。

こういった催しが中止になる一方で、小規模分散型の清掃活動は増えています。数人規模で清掃活動に取り組む企業や団体、個人が急増しているのです。これは明らかに時代の流れとなっています。

今までは自治体や企業主体で人を集めて行っていた清掃活動が、個人やグループ単位の活動にシフトし、それが積み重なることでコロナ禍以前に引けを取らない回収量になっています()。コロナ禍で人の移動範囲は狭まったとしても、人間生活の中でごみの排出は避けられません。ごみの回収作業は引き続き重要な活動です。それが小規模分散型になり、日常の隙間時間で実施できるような形に変わってきている。そんな活動の一つ一つを自治体が後押ししているのではないかと思います。

 

図:国内におけるごみの回収量はほぼ横ばい

 

小田 ごみの回収量が、コロナ禍以前と以降でほぼ横ばいなのは驚きです。

小嶌氏 自治体がごみ拾いSNS「ピリカ」を後押ししてくださるおかげで、企業の参加も増えています。もともと日本は企業が熱心に清掃活動に取り組む国ですが、その活動を開示しない文化があります。良い行いはひけらかさないのが美徳とする感覚があると思うのですが、問題解決という観点ではネガティブに働きます。つまり、良いことをしているのに発信しないが故に誰も気付かないし、まねもされないのです。

私たちはこれまで幾つかの自治体と協業し、地元企業に「せっかく清掃活動をやっているのだから、見える化して多くの方に知ってもらいませんか」と働き掛けてきました。そしてごみ拾いSNS「ピリカ」を使い、企業に発信していただいたところ、近隣の企業も清掃活動を始めるなど、地域内のごみ回収活動が活性化する動きが起きています。

 

データの比較で施策を最適化

小田 地域のごみ回収活動の形態が小規模分散型に変わりつつある中、ITを使うことで各地点の動きが共有され、プラスアルファの活動につながっているのですね。

小嶌氏 そうです。もう一つ、ごみ問題に対する取り組みにデータが活用されるようになったことも大きな変化です。これまで環境対策の分野にデータが持ち出されることは、あまりありませんでした。当然のように「良いこと」ですから、そこにデータを持ってきて「この取り組みには意味がありません」と結論付ける事態になることを避ける傾向があったのです。データ取得自体にコストが掛かっていたことも理由の一つです。

 

しかし、今はスマホが安価で手に入ります。人工知能(AI)の技術も進化しており、デバイス(端末)と組み合わせることで、データが手軽に集められるようになってきています。それに伴い、自治体の意思決定プロセスでもデータが用いられるようになりました。

感覚や思い込みで「このエリアはきれいで、このエリアは汚い」と判断すると、実は行政の資源(リソース)が余分に投下されてしまいます。特に住民から指摘があったエリアは、行政として重点的に対策したくなるのですが、データでエリアごとの美化状況を比較できるようになると、誰もが納得する形で優先順位が付けられます。対策が必要なエリア順に予算や人手を使わせてくださいと説明できれば、行政リソースを最適化できるのです。

データの比較という観点で参考までに紹介すると、私たちが持っているデータ上では、ごみ箱を設置しているエリアと設置していないエリアでの「汚さ」に、ほとんど差はありません。ごみ箱の設置がごみの増減に影響を与えないことが分かってきています。他方、これまでの測定で唯一効果が期待できると感じたのが、たばこのごみに限ってのことですが、「広めの喫煙所を適切な位置に設置する」ことでした。

多くの人が入れる大きめの喫煙所の設置で、周囲のたばこのポイ捨ては20%ほど減らせるというデータが得られています。このように、今まで「何となく」で行われていた施策の効果が少しずつ数字で明らかになれば、EBPMで取り組みの見直しが進むと思います。

 

小田 世界的に重要かつ喫緊の課題である環境問題を解決するためには、着実な一手の積み重ねが必要です。ピリカ社の解決策(ソリューション)は、まさにその一手を生み出す土台になるものですね。次回は並行して取り組まれている人工芝問題や、ごみの再資源化について伺います。

 

第3回に続く


 

【プロフィール】

小嶌 不二夫(こじま・ふじお)
株式会社ピリカ代表取締役一般社団法人ピリカ代表理事

大阪府立大卒。京大大学院を半年で休学し、世界を放浪。各国で大きな課題となりつつあった「ごみの自然界流出問題」の解決を目指し、2011年に株式会社ピリカを創業。ピリカはアイヌ語で「美しい」の意。21年に環境省「環境スタートアップ大臣賞」受賞。同年に「MIT Technology Review Innovators Under 35 Japan」選出。

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