県議時代の経験生かし、まちの姿を変える~小林哲也・埼玉県熊谷市長インタビュー(4)~

埼玉県熊谷市長・小林哲也
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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未来に向けて種をまく

小田 今回のインタビューではハード面の政策にフォーカスしていますが、市長はDX(デジタルトランスフォーメーション)による行政改革や市民サービスの向上などソフト面にも注力されています。就任から2年でここまで実行するのは驚きです。このスピード感の理由は何でしょうか?

小林市長 市長に当選したのが、ちょうどコロナ禍の時でした。行事やイベントが軒並み中止となり、来賓等で出席を予定していた時間を他のスケジュールに回せるようになりました。その時間を使って国や県にアプローチをしていました。

 

小田 県議を5期18年務めていたご経験を生かし、来るべき時のために水面下で動いていらっしゃったのですね。こういった勘所は、長く政治経験があるからこそ捉えられるものだと思っています。

小林市長 私も同様の考えです。時間をかけて培った学びや経験は後に生かせると思います。私は県議の時代に、1期が終わるたびに「今は小学4年生だ」「今は中学2年生」と、子どもの成長に例えながら活動を振り返っていました。今の学びはどのレベルにあるのだろうと、常に意識をしていました。人によって何を学ぶのかは違います。選挙を学ぶのか、政策を学ぶのか、事業を学ぶのか。私の場合は、県議になる前に建築関係の仕事をしていたこともあり、まちの姿を変えることに興味を持っていました。ですから県議の時代から「まちの姿を変える」ことをテーマに学び続けてきました。そういう意味では、ある程度の経験は今に生かせていると思います。

 

小田 そのご経験があったからこその2年だったのですね。

小林市長 まちづくりは行政マターと政治マターに分かれます。政治マターを担当するために、首長は選挙で選ばれます。行政マターは政治マターが手の届かない部分を実行に移します。首長の役割は、行政マターに動いてもらうための地固めをすることだと思っています。

 

小田 国や県とのパイプを太くする活動は表からは見えにくいため、評価がされづらいです。ただ、それができた方は議員であれ首長であれ、着実に政治を動かします。

小林市長 議員3期目くらいの時代でしょうか。仕事が評価されないことに対して葛藤したこともありました。極端なことを申し上げると、有権者との握手や挨拶など表向きのパフォーマンスだけを続けて議員バッジの寿命を延ばす例もあります。自分の思いが揺らいだときには、いつも「何のために議員になったのか」と目的に立ち返るようにしていました。100人全員に味方してもらわなくてもよい、51人の味方がいればいい、必ず自分の仕事を見てくれている方はいるはずだと言い聞かせてきました。

 

小田 そうした葛藤がありながらも、ぶれずに活動されてきたことが今の熊谷のまちづくりに生かされているのですね。小林市長の原動力は何ですか?

小林市長 「子どもにツケをまわさない!」というテーマを県議の時代から一貫して持っています。政治は未来のまちづくりです。今植えた種が芽を出し、将来どのような花が咲くのか。もしかしたら花が咲く頃に私は生きていないかもしれませんが、その姿をやりがいや楽しみにして市長という仕事をさせていただいています。

 

小田 お考えはそれぞれだとは思いますが、成果を出されている首長の多くは、次の世代のために本気でご自身の時間を使っていらっしゃいます。

小林市長 私は62歳で首長になりました。同級生からは「5期県議を務めてきて、まだ頑張るのか」と言われました。しかし私は、60を過ぎてからこういう仕事を与えられたことに感謝しています。人生も後半ですから、落選することへの恐怖はありません。まずは1期4年間を全力でやり切った結果、「次期も小林に任せよう」と市民の方々が受け入れてくださるのなら、それはそれでありがたいと思っています。

 

職員という仲間の存在

小田 前回のインタビューにて、公共事業の推進力となるべく副市長を国交省から迎え入れ、国とのパイプを強化したとのお話がありました。市長就任時の人事でその他に意識したことはありますか?

小林市長 私の代で副市長を2人体制にしました。新しい風を組織に吹き込むことを重視して、1人は国交省から来ていただきました。また、前市長の仕事を円滑に引き継ぐために、もう1人は前市長時代の方に継続していただいています。

事業を推進するには、今まで堅実に仕事をしてこられた方に引き続き担当いただいた方が良いですよね。あくまでもまちづくりが前進することを目的に、職員の皆さんにも適材適所で力を発揮いただければと思っています。

 

小田 副市長人事では、議事録を拝見しても特に紛糾する様子はなく、議会とも円満な関係を築いているように見えます。

小林市長 長年、県議を務めてきましたから、首長と議員そして知事との関係性など、大抵のことは理解しているつもりです。これもまた時間をかけて学んできたからこそ見えるものかもしれません。

 

小田 これまでのご経験は小林市長の胆力につながっているのですね。

小林市長 議員と首長、どちらも経験してみて感じるのは、首長には仲間がいるということです。議員は活動の全てを自分で担わなければなりませんが、首長の周りには職員がいます。皆で一つのビジョンに向かって仕事に取り組めるこんな良い役職はないですよ。毎日楽しんでいます。

 

小田 あらゆる関係者の状況や立場を理解しながら推進される熊谷市政が今後も楽しみです。あと2年でどこまで進むでしょうね。

小林市長 形になるまで時間がかかるものもありますが、一つ一つ実行していきます。

 

【編集後記】

就任からわずか2年で調整が難しい公共事業を次々に進めた小林市長。その背景には、県議時代から培った経験知や調整力がありました。「政治は未来へ向けて種をまくこと」との言葉どおり、就任前からまいてきた種が着々と芽吹いているのでしょう。熊谷のまちが今後、どのように変化していくのか注目されます。

 

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年6月10日号

 


【プロフィール】

小林 哲也(こばやし・てつや)

1959年生まれ。中央大経済学部卒業後、83年に岡三証券株式会社入社。86年には家業である有限会社小林瓦店入社。

2003年から5期18年間にわたり埼玉県議会議員を務め、21年11月に熊谷市長に就任。

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