地方のまち同士が共存共栄する道を模索~早川尚秀・栃木県足利市長インタビュー(3)~

栃木県足利市長・早川尚秀
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2024/08/06 県議時代からの「つながり」で市政を動かす~早川尚秀・栃木県足利市長インタビュー(1)~
2024/08/08 県議時代からの「つながり」で市政を動かす~早川尚秀・栃木県足利市長インタビュー(2)~
2024/08/13 地方のまち同士が共存共栄する道を模索~早川尚秀・栃木県足利市長インタビュー(3)~
2024/08/15 地方のまち同士が共存共栄する道を模索~早川尚秀・栃木県足利市長インタビュー(4)~

 


 

栃木県足利市、早川尚秀市長のインタビューをお届けします。

5期18年の県議会議員時代の経験と人脈を生かし、足利市政を率いる早川市長。生まれ育った故郷を次の世代へ良い形でつなぎたいとの思いを原動力に、2021年の就任から未来に向けた種蒔きを着実に行っています。今回は、市政運営における市長の創意工夫に迫ります。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

地方のまちづくりにそびえる壁

小田 足利市の発展を模索する中で、国や県、近隣自治体との連携や協働について市長はどのように考えていらっしゃいますか?

早川市長 地方自治体が抱える課題はさまざまであるのと同時に、共通するものもあります。共通課題の一つが自治体間連携です。国や県の力を借りてようやく実現できることは数多くあります。しかし、そこでネックになりやすいのが財源や許認可の問題です。例えば、東京をはじめとした大都市と地方都市では自主財源の規模が違います。当然、地方の自主財源の状況は厳しいものがあります。地方分権の推進に則り、国が財源を公正にコントロールする仕組みが必要だと感じます。

併せて、さまざまな規制に関しても今の時代に合わないもの、地方からすれば窮屈に感じるものがあります。しかし、その規制がある以上はクリアせねばなりません。その際に、国や県の理解を得て協力いただく努力がこちらには必要です。まちづくりは自前だけで完結できるものではありませんから、国や県、近隣自治体との連携は丁寧に行うことを意識しています。

 

小田 規制緩和の必要性を含むお考えだと思います。ちなみにこれまでのご活動の中で、規制緩和を実現した事例はあるのでしょうか?

早川市長 国に幼稚園・保育園に交付される補助金の算出ベースとなる公定価格の見直しを求め、是正された事例があります。足利市は、公定価格の地域区分と呼ばれる加算割合が近隣自治体に比べて著しく低い地域でした。近隣自治体とは物価にほとんど差がないにもかかわらずです。そこで均衡を図っていただきたいと、地元国会議員のご理解と強力な後押しを頂きながら国に要望を続けた結果、今年度から地域区分が全国的に是正されました。

 

小田 他の首長のインタビューでも、規制緩和の話題が出ることがあります。特に、土地利用に関する規制に頭を悩ませる方が多い印象です。

早川市長 それは私も同感です。国は、産業の国内回帰と地方移転を推進しているものの、土地利用に関する規制が妨げになる事例が至るところであります。産業界からニーズがあり、地元の地権者や農業者に開発の同意を得た土地であっても、農地転用等の規制があるために農地以外の用途に利用できないというようなケースです。

その他にも、統廃合により廃校となった学校が市街化調整区域にある場合、規制により建物の用途変更ができない、もしくは、しにくいと聞きます。学校ほどの規模の建物であれば、改築して旅館や工場、養殖場にするなど別の用途での活用が見込めます。しかし、規制があるが故にそれができません。こういったもろもろの規制を緩和してほしいという要望は、地方からの声として国に積極的に上げていかなければならないと思います。

もちろん、農業も工業もどちらも大切ですから、国会議員の方々も含めてバランスを取りながら考えていきたいです。全国一律で同じルールを適用するのではなく、地域の実情に応じた土地利用ができるようなルールに見直すことができれば、多くの地方自治体が理想のまちづくりに向けて歩みを進めやすくなるでしょう。

 

変化に必要な力とは

小田 地域の実情に合わせた仕組みへと変えるためには、その地域の政治家が担う役割がますます重要になりますね。まちをデザインする能力と、国との調整力が試されます。

早川市長 その通りだと思います。もちろん各省庁が、人口動態や食料自給率など国全体のデータを基にさまざまなルールを作っていることは理解しています。しかし、それを全国一律で運用することに関しては、地域のことを最もよく知る地元の自治体に、ある程度の判断権や裁量の幅を持たせてほしいと考える首長は多いと思います。

 

小田 早川市長が規制緩和に向けてご活動される際には、どういったアプローチを行うのですか?

早川市長 市長会を通じて国に提出する要望書に盛り込むことや、地元の国会議員の方の元へ協力をお願いに行くことです。なかなか国へ要望が伝わらないこともあり、難しさを感じます。

 

小田 要望が国に伝わるか否かは、何で決まると思いますか? 首長や国会議員の伝え方や熱量なのか、省庁が認めるかどうかに委ねられるのか、打破できる要素はどこにあると思いましたか?

早川市長 「声の大きさ」の影響はあると思います。例えば、足利市のみで要望するのと、栃木県の市長会で要望するのとではインパクトが違います。それが関東ブロックまで広がればなおさらです。ですから、賛同者を増やす努力が必要ですね。

また、地元の国会議員の影響も大きいと思います。長く議員としてお務めになり、国のために熱心にお仕事をされている方は、それに伴う発言力や説得力を持っています。やはり政治は人を動かすことですから、地元に経験豊かで力のある政治家がいてくださることは大きなアドバンテージだと思います。私も同様に、力を貸してくれる人を増やせるような発言力や説得力を、経験を重ねて培っていきたいと考えています。

 

小田 「声の大きな政治家」が批判されることがありますが、私はそれが一概に悪いとは思いません。国のため地方のために仕事をする中で、その方の実力が積み重なった結果の影響力だからです。地元に力のある国会議員がいてくれるのであれば、その力も借りつつ、地方の裁量や自由度を広げていく活動が今後は重要だと思います。

早川市長 長年の慣習を見直し、柔軟な対応が必要な時期に来ていると思います。何かを変える際には、必ず「変えたくない」という圧力が働きます。それを突破するには大きなパワーが要ることを考えると、自分自身の熱意や能力を高めていくことはもちろん、仲間や人脈も必要です。総合力を持つことが重要になってくると思います。

 

(第4回に続く)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年6月24日号

 


【プロフィール】

足利市_早川市長プロフィール写真早川 尚秀(はやかわ・なおひで)

1972年足利市生まれ。早稲田大政治経済学部経済学科卒業後、95年4月に足利銀行入社。

2003年4月栃木県議会議員に初当選し、議長経験も含め5期18年を務める。21年5月に足利市長就任現在1期目。

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