信頼と対話で築く「天無私」の市政運営~畠山稔・埼玉県上尾市長インタビュー(2)~ 

埼玉県上尾市長・畠山稔
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事・小田理恵子

 

2025/04/08 信頼と対話で築く「天無私」の市政運営~畠山稔・埼玉県上尾市長インタビュー(1)~

2025/04/10 信頼と対話で築く「天無私」の市政運営~畠山稔・埼玉県上尾市長インタビュー(2)~

2025/04/15 自らが先頭に立つ「率先垂範」のまちづくり~畠山稔・埼玉県上尾市長インタビュー(3)~

2025/04/17 自らが先頭に立つ「率先垂範」のまちづくり~畠山稔・埼玉県上尾市長インタビュー(4)~

 

市民の声から重点施策を立案・実行

小田 市長就任以降、丁寧に信頼回復を積み上げてこられたかと思います。そうした中、市民は市政に対してどのような期待を抱いているとお考えでしょうか。

畠山市長 近年、人口減少や少子高齢化がより一層加速しており、地方自治体には厳しい局面が予想されます。このような社会変革期において、上尾市では将来都市像として「みんなでつくる みんなが輝くまち あげお」を掲げ、市民・事業者の皆さまと連携した持続可能なまちづくりを進めています。

特に2040年問題(※注1)については、人口減少の緩和と持続可能な市政運営の両立という課題に真摯に向き合っていかなければなりません。

こうした状況下で上尾市民の期待を顕著に表しているのが、23年度に実施した市民意識調査です。調査結果では、市が重点的に進めるべき施策として「子育て支援の充実」が最も多く挙げられました。こういった要望を受けて、未来を担う子どもたちが笑顔で健やかに成長できるよう、市民に寄り添った政策に注力していきたいと考えています。

(※注1)1971〜74年生まれの「団塊ジュニア」世代が65歳を迎え、総人口に占める高齢者の割合が過去最大の約35%に達すると試算されている社会課題。高齢化による高齢者人口の増加と、少子化による労働人口の急減が同時進行で起こり、日本の社会保障制度の維持が危機的状況に陥るとされている。

 

小田 市民の声が市長に届く仕組みができているのですね。実際に、上尾市は2023年度、子育て世代(25~49歳)と子ども(0~14歳)の転入超過数が全国上位を記録しており、子育てしやすいまちとしてのイメージが定着しているのではないかと思います。

子育て世代に選ばれるために、具体的には市民の声をどのように反映させているのですか?

畠山市長 まず、市民の声を直接聴く手段として、はがきやホームページから市民の声を集める「市長への政策提言制度」「市政への問い合わせ制度」を整備しています。さらに次世代の声を集める「未来を担う子どもからの提案制度」を新設することで、幅広い層からの意見収集を可能にしました。

この中から実際に反映された事例も多くあります。例えば、市民からの「上尾市への転入者増加キャンペーン」という提案は、「from AGE-0(フロム エイジ ゼロ)、0歳から輝くまち」という上尾市の子育て支援スローガンの策定につながりました。このように、市民の声を具体的な施策に反映させる仕組みを構築しています。

 

from AGE-0(フロム エイジ ゼロ)、0歳から輝くまち(出典:上尾市Webサイト)

 

小田 昨今、多くの自治体が子育て支援に注力していますが、その中でも、上尾市は全国から注目されている独自の取り組みを展開されていると伺っています。子育て支援の具体的な施策についてお聞かせください。

畠山市長 代表的な取り組みが、妊活・妊娠期から子育て期まで切れ目のない支援を提供する「あげお版ネウボラ」(※注2)です。

また、23年4月には子ども・子育て支援複合施設「AGECOCO」を開設し、保育所、児童発達支援センター、発達支援相談センターの機能を一体的に提供する先進的な取り組みを始めました。この施設には全国の自治体から多くの視察が訪れています。

さらには、全国初となるヤングケアラー(家事や家族の世話などのケアを日常的に行っている18歳未満の子ども)および若者ケアラー(同様の18歳以上から30歳代)を支援する条例を制定しました。

これ以外にも、18歳以下の子ども医療費の完全無償化や、多子世帯への学校給食費補助、物価高騰対策としての補塡も実施しています。これらの施策により、子育て世代が安心して暮らせる環境づくりを進めています。

(※注2)フィンランド発祥の妊娠・出産・子育ての切れ目ない支援制度。日本では各自治体が地域の実情に応じてアレンジした「○○版ネウボラ」として展開している。

 

小田 多くの自治体が人口減少に直面する中、上尾市の子育て支援施策は他の自治体にとっても参考になる先進的な取り組みだと考えます。そうした中での、今後の展望についてお聞かせください。

畠山市長 引き続き市民の声に真摯に耳を傾け、現行の施策をさらに発展させていく考えです。そして、子育て世代がより住みやすいと実感できるまちづくりを進め、「上尾市に住んでよかった」と思っていただける環境づくりに邁進していきます。私たちの取り組みが、全国の自治体における子育て支援のモデルケースとなれば幸いです。

 

英語教育の充実にも注力

小田 上尾市では現在、英語教育の充実にも注力されていますが、この取り組みのきっかけについてお聞かせください。

畠山市長 23年1月に文部科学省の視学官と「グローバル社会を生きる子どもたちへ」というテーマで対談を行いました。その内容を読んだ市民から「上尾市の英語教育への取り組みを応援したい」という声が寄せられ、これを機にさらなる充実を図ることを決意しました。

現在、子どもたちが中学校卒業時点で英会話ができるようになることを目指し、さまざまな施策を展開しています。その一つが、24年度から始めた保育所での英語体験教室です。月2回、外国語指導助手(ALT)を招き、幼少期から英語に親しむ機会を提供することで、自然な形で英語を身に付けられる環境づくりを進めています。

 

小田 子どもたちが主体的に英語学習をする環境づくりが重要かと思います。そういった観点で、上尾市独自の工夫があればお聞かせください。

畠山市長 英語教育の充実には、授業時間の確保だけでなく、子どもたちが自ら学ぶ環境整備が不可欠です。そこで、中学校の部活動地域移行推進事業の一環として、全国初となる英語系地域クラブ「イングリッシュサロン」を市内6カ所に開設しました。このように子どもたちが気軽に英語を学び、実践できる場を提供しています。

また、上尾市の小学校は(文科省から)教育課程特例校に指定されており、小学1、2年生から「英語活動」を実施しております。これは埼玉県内でも稀少な事例です。これらの施策を複合的に展開することで、着実に成果が表れ始めていると実感しています。

 

小田 このような積極的な英語教育の推進には、市長ご自身の教育に対する理念が反映されているのでしょうか。

畠山市長 「どうすれば子どもたちが実践的な英語力を身に付けられるか」という問いを常に念頭に置いています。英語教育の充実には、学校教育の枠を超えて、市全体で子どもたちの学びを支える体制が必要です。保育所での早期教育や「イングリッシュサロン」の設置は、まさにこの考えを具現化したものです。

今後も、子どもたちが「英語を話せることが当たり前」と感じられる環境づくりを推進していきます。市民の皆さまからの声を大切にしながら、さらなる施策の展開にチャレンジしていくつもりです。

 

小田 今回は「天無私」の理念の下、市民との対話を重視する市政運営についてお話を伺いました。東日本大震災の経験を踏まえ、現場を重視し市民の声に真摯に耳を傾ける姿勢が、子育て支援や英語教育などの具体的な施策として実を結んでいることが印象的でした。次回は、組織マネジメントや、行動理念について詳しく伺います。

 

第3回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年2月17日号

 


【プロフィール】

畠山 稔(はたけやま・みのる)

1949年岩手県陸前高田市生まれ。千葉工業大金属工学科卒業後、73年から東洋伸銅所(当時)に入社。
その後、上尾市議会議員(3期11年)、埼玉県議会議員(3期11年)を務め、2017年12月に上尾市長に初当選。現在は2期目。

スポンサーエリア
おすすめの記事