
2026/3/25 「稼いでも残らない」地域経済からの脱却 -「漏れバケツ理論」で考える、人口減少時代のスモールビジネス支援 - ~小田理恵子・一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事(1)~
2026/3/26 「稼いでも残らない」地域経済からの脱却 -「漏れバケツ理論」で考える、人口減少時代のスモールビジネス支援 - ~小田理恵子・一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事(2)~
地方自治体がより良い住民サービスを提供するためには、行政組織と職員が健全かつ持続可能な状態を維持することが不可欠です。
本連載では、ウェルビーイングの自治体経営をテーマに、ストレスのない職場環境、ワーク・ライフ・バランス、そして職員一人ひとりが効率的に業務を進め、成果を実感しながら充実した働き方を実現する手法などを紹介します。
その土台となるのが、持続可能な地域経済です。今回は、人口減少時代における地域経済の循環とスモールビジネス支援についてです。
はじめに
口減少が進む中、多くの自治体が「地域経済をどう立て直すか」という問いに直面しています。観光振興、移住促進、企業誘致、ビジネスプランコンテスト、イベント開催──これらはどれも、これまで各地で繰り返されてきた施策です。
一定の成果が出た事例もあります。しかし一方で、こんな違和感を覚えている首長や職員も少なくないのではないでしょうか。
「人は呼べたが、地域が楽になった感じがしない」「新しい事業は生まれたが、数年後には消えている」「施策は回しているが、手応えがない」
本稿では、こうした違和感を整理するために「漏れバケツ理論」という考え方を紹介し、人口減少時代に自治体が重視すべき地域経済政策の視点を提示します。
結論を先に述べれば、これからの自治体に求められるのは、派手に稼ぐ施策よりも、地味でも確実に〝漏れを防ぐ〟施策です。
1.地域経済は「どれだけ稼いだか」で評価できるのか
自治体施策の評価指標は、これまで一貫して「分かりやすさ」が重視されてきました。来訪者数、売上高、参加者数、補助金採択件数──いずれも説明しやすく、議会やメディアも納得しやすい情報です。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。
売り上げが立ったことと、地域が豊かになったことはイコールではないという点です。
例えば、観光客が増え、地域全体の売上高が増加したとします。しかし、その消費の多くが全国チェーンの飲食店や宿泊施設に向かい、利益が本社へ送金されていれば、地域に残るお金はごくわずかです。数値上は成功していても、地域で暮らす住民や事業者の実感としては「何も変わっていない」という状況が起こり得ます。
この「数字は動いているのに、地域が楽にならない」現象を説明するのが、次に述べる「漏れバケツ理論」です。
2.「漏れバケツ理論」とは何か
漏れバケツ理論は、英国のシンクタンク「New Economics Foundation」(NEF)が、地域経済の循環構造を分かりやすく説明するために整理・普及させた考え方です。
地域経済を一つのバケツに見立て、そこに注がれる水を所得、観光収入、補助金、投資などと考えます。一方、バケツの底や側面に開いた穴は、地域外へ流出していく支出を表します。

どれだけ蛇口を太くして外からお金を呼び込んでも、バケツに穴が開いていれば水はたまりません。多くの自治体は「入ってきたお金がどれだけ地域に残っているか」という視点を欠落させてきました。現代の地域において、特に以下の要素が「大きな穴」となっています。
- 全国チェーン店への依存:利益の大部分がロイヤルティーや本部経費として地域外に送金されます。調査事例によれば、チェーン店における地域内保持率(注1)が1割台にとどまるケースも報告されています。
- 広域的な調達:公共事業や民間建設において、価格のみを基準に地域外の業者へ発注した場合、投資額の多くが地域外へ流出します。
- 原材料の未利用:地域内に豊富な資源(森林、農産物など)があっても、それを加工・利用する産業がない場合、地域外から加工品を買い戻すことになり、付加価値を地域内にとどめることができません。
- エネルギーコスト:電気、ガス、ガソリンなどのエネルギー購入費用は、地域経済において最大の「穴」の一つです。特に多くの日本の地域では、エネルギー代金の支払いがそのまま地域外、ひいては海外へと流出しています。
これらの穴を放置したままでは、どれほど「稼ぐ施策」を積み上げても、地域にお金は残りません。
3.現場で分かる「見えにくい漏れ」
ここで、私自身の経験に基づいた「現場の視点」を共有させてください。
筆者の家では家業として、IP(知的財産)を活用した商品の企画・製造・販売に携わっております。道の駅、高速道路のサービスエリア、コンビニエンスストアなど、複数の販路を経験してきた立場から言えるのは、販路の選択そのものが、地域からの「漏れ」の度合いを大きく左右するということです。
筆者の経験では、地元の道の駅で販売する場合、販売手数料は20%前後に抑えられることが多く、売り上げの大半を原材料費や人件費として地域内で使うことができます。
一方で、サービスエリアや全国流通に乗せた場合、流通マージンが5~6割程度に上り、さらに送料や包装費などの経費も加わります。結果として、販売価格1000円の商品であっても、製造者の手元に残るのは200円前後にとどまるケースがあります。
この200円の中から、材料費・加工費を差し引き、さらに利益を確保しなければなりません。製造ロットが小さい場合、この構造で利益を出すことは極めて困難です。
全国流通は、規模の経済の世界です。構造を精査すれば「外貨は稼げているが、利益の大部分が地域外の流通・物流・卸売資本に流れている」というケースが多々あります。これは事業者が疲弊し、地域にお金が残らない「バケツの穴」の一例です。
行政が売り上げ規模や話題性だけを評価すると、この構造を見落としてしまいます。
このケースで求められるのは、流通をどう工夫し、いかに「地域内の取り分」を最大化するかという視点です。そして、それを支援するのが自治体の役割です。
(第2回に続く)
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2026年2月2日号

